デッドエンド01
「さて、明確な敵が判明したわけだけど伏見くんはこれからどうする?」
唐突な質問に僕は目を丸くした。
いつものことではあるが今回は目が覚めてすぐに寿が話しかけてきたからだ。それにここは僕の部屋ではない。一体あれから何があったんだーー。
「どうするって、そりゃあそいつを倒すに決まってるだろ。まあ、こういうのって手下を倒すのが先だろうけどさ」
疑問は尽きないがどうせまた寿が何か企んでいるのだろう。今に始まったことではないし、僕の驚きは呆れへと変貌する。
「手下? ああ、そうかそうか。伏見くんはあの後のことを覚えていないんだったね。これは失礼」
「何だよ、その含みのある言い方」
「そりゃあこんな言い方にもなるよ。なんたってあのマミーの件から君は一週間寝たきりだったんだからね」
「一週間⁉︎ おいおい、それはシャレにならないな」
疲れた時は爆睡して半日眠っていた、なんてことはあっても「今日はよく寝たな」と思う程度だけど一週間ともなると何かの病気なんじゃないと不安になってくる。
こんな体では病院には行けないが。
「心配しなくていいよ。君が寝ている間に諸々のことは済ませておいたから」
「諸々のこと?」
「そう。僕らの明確な敵、この街に不死の怪物が集まるようになった元凶でもある八羽医の部下、いやあれは協力関係にあっただけみたいな感じだったけどコレクターの連中は片付けておいたから心置きなくやってくれ」
コレクター。
緒方みたいに不死身の化物を集めている変わり者が他にもいたのか。
それにしてもどうだろう?
「そういうのは普通僕がやることじゃないのか。一人一人敵を倒して、成長して最後の敵に挑むってのが」
友情、努力、勝利という三原則があるようにここは今まで通りに僕がやるのかと思ったが、まさか料理番組みたく、あらかじめ準備されているとは。
「普通……ねえ。不死身である伏見くんが言っても説得力はないけどこれは漫画じゃないんだよ。無駄に戦う必要なんてない。戦力は十二分に揃ったからね」
吸血鬼の刹那、キョンシーの麗月。それと那恵ちゃんに銀と頼れる仲間は確かに増えてはいるけど、僕は戦力に入るか怪しい。
「なら、その八羽医ってのも寿がやってくれてもいいだろ」
正直戦わなくて済むならそれに越したことはない。相手が強いなら尚更だ。不死身でも痛みはあるからな。
「それは君がやらないと。というよりも彼は君にしか倒せないようになっている。それにラスボスを倒すのは主人公の役目だろ?」
「僕はそんなガラじゃないよ。ただ僕しかいないのならやるだけだ。きっと、それが僕の存在する理由だろうから」
「存在する理由とは、また昔の君みたいなことを言うね。まだ君が不死身じゃなかった頃みたいなことを」
「別に驚くことないだろ。僕は主人公で例えると事件に巻き込まれて仕方なくやるタイプなんだ。不死身になってもそこんとこは変わらないさ」
人間の性格は環境で変わる。
両親とか周りに何があるか、何がないか。どんな友達と巡り会うか。
そうしたところがその人の性格が決まる。
けれどその性格というのはあまり変わらない。それは性格に成長という概念はないからだ。
たとえ変わったとしても心の底にあるものは消えたりはしない。僕のように不死身になったとしても。
「個人的にはどう変化するかを期待していたけど、変わらないっていうのも面白いね。本当に君は僕の予想の斜め上を行く」
「お褒め頂き光栄だ。それじゃあいつも通り舞台の準備は任せる。お前の手のひらで悠々と踊ってみせようじゃないか」
「その様子だと思い出したみたいだね。君の中に隠されていた力に」
「お前の期待に添おうとか微塵も思わないけど、恩は返す主義だからやってやるよ」
こうして僕は寿に案内されるがままに決戦の舞台へと赴く。既に準備しているとはやはりこいつは侮れない。
外に出ると月が青く輝いていて、星が良く見える夜だった。
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