第2話
今日は、三年前の夏に交通事故で死んだ兄の月命日だ。毎月十七日にはこうして事故現場に花を手向けに来ている。
もうすぐその場所だ。この緩やかなカーブを曲がったら――。
「……えっ」
曲がった先に何か黒いものが見える。その塊が動いてゆらゆら揺れている。
「何これ……まさか……黒い――」
そう思った瞬間、そのものが手をあげてこちらに向かってきた。私は恐怖のあまり、どちらにハンドルを切っていいのか分からなくなっていた。
「いやーっ!」
『――つみ……夏美……』
懐かしい声。
「あ……お兄ちゃ――」
◇
――そうか
私は兄の黒い影に呼ばれて死んだのか
久美の話は作り話なんかじゃなかったんだね
笑ったりして、悪いことしちゃったな……
もし、あの話が本当なら兄は三年もあの場所にいたことになる
つらかったね、お兄ちゃん
でも私と交代したってことは、成仏できたんだよね
……よかった
私は……いいや
誰かを犠牲にしなきゃいけないくらいなら、このままでもいいや
お腹も空かないし、寒く暑くもない
ここで通り過ぎていく車や人を眺め続けるのも悪くない――か
あれ?
あの車は――久美だ
久……
あっ! いけない!
私――動いてしまった……
だ……だめよ……久美!
来ないで!
こっちに来ちゃだめ!
あっちに行って!
私――違うの……
呼んだんじゃないの!
だめ……ごめん……久美……久――
(完)
黒い影 淋漓堂 @linrido
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