第16話 音のない世界


「ここを開けたら、どこかの世界なのね」


「おう、そうだ。何があるかわからないけど、俺も腹をくくる」


「じ、じゃあ、開けるよ」



キイー



小さな金属音と共にドアが開きました。

同時にものすごい騒音が小さな扉から飛び出してきます。

笛の音、鉦の音、太鼓、鈴など音の洪水です。どんちゃん騒ぎっているのはこういうことだろうとピーノは目に見えて認識しました。


そう、


「目に見えて……って、なんで音がぶつかってくるのよ!」


「俺にもわからないけど、この世界では音が見えるみたいだな」


と2人が音を話している口元から、文字がポロポロこぼれ落ちてきます。お互いそれを読むことで意思の疎通をはかります。


「そういえばピーノは文字が読めるのか?」


「うん、簡単なものならね」


しかし、言葉に表せない音は別のようです。いろんな形や色になってぶつかってきます。幸いなのはみなどれも柔らかいことです。

ピーノはその1つを捕まえてみましたが、その瞬間、音は消えてしまいました。


「あー。音って閉じ込めることも、捕まえることもできないもんね。うーん、ここは3つの世界のうち、どこなのかしら」


ピーノが1人でつぶやいていると、パルが手を引っ張ります。


「とにかくこの広場から出ないと。音の洪水でなんにも見えやしない」



広場の先に小さな丘が見えたので、2人はダッシュします。その足下からも、茶色の泥跳ねのような音の塊が生まれては消えていきます。ピーノはそれが面白くて走るのがおろそかになってしまいました。

みごとに転んだピーノの体の下からもいろんな音がいっぺんに出ました。

それに見とれていると、目の前に声が落ちてきました。


「走るなんて珍しいことをしてるんだね! もしかして、外から来た人?」


見上げると、15〜16歳くらいの青年が立っています。

白いシャツに、黒い細身のパンツ、黒いブーツを履いています。面白いことに、ブーツの下半分は、銀色の金属で覆われています。

物語に出てくるような素敵なお兄さんが目の前に現れました。さわやかな笑顔と水色に透き通った声の色に、ピーノはたちまち好感をもちました。


ポロポロと落ちてくる声を受け止めようと手を出しているピーノを不思議そうに見たその青年は、マルクと名乗りました。


「走らないんだったら、お前らはどうやって移動してるんだよ」


ピーノの様子に呆れたパルが、マルクに尋ねます。


「簡単さ、こうやって」


言い終わらないうちに、マルクは両足をぶつけました。

金属がついているブーツですから、きっとガチャンとかカチャッという音がしたのでしょう。飛び出したのはブーツと同じ色の、ギザギザしたお盆のようなものです。

マルクはすかさずそれに飛び移るとと、またブーツをぶつけ、飛び出したお盆にぴょんと乗り、どんどん上に登っていきます。


「おおおお〜。すげえ」


パルは目をまん丸にしてマルクを追いかけます。

ピーノも口を開けてみていましたが、その仕組みはよくわかりませんでした。


しばらくして、登っていったときと逆の方法で地面に降り立ったマルクが言うには、この飛び板をつけている靴をこすり合わせることで、実体のある音を作ることができるのだそうです。

この世界の住人は、小さな頃から音に乗って移動をしており、歩けるようになるのと同時に乗る練習をするとか。









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ピーノと魔法とへんてこ島 犬野のあ @noanoadog

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