第10夜 奈落華と杏奈

「さてと。とりあえず挨拶からだね。私、加藤安奈っていいます。あなたは2年生の鏡硝子さんね。」

安奈さんはふふっと笑う。

「廊下でよくみかけるよ、そのリボン。」

「あ!はい!鏡硝子です。アクセサリー研究会の部長してます!えーと……図書委員長さんですよね?前に本を借りに行ったとき見たことありますよ。」

「本当に?ありがとう。さて。私の自己紹介は簡単に終わらせて。奈落華?」


「うん。わかってる。でははじめようか。」




あれから1時間後。


狂魔と二人で夕飯を食べ終えたあと、彼は魔手鏡でこの2人、奈落華さんと杏奈さんを呼んだ。

柔らかい物腰の雰囲気を持つ狂魔の弟、奈落華さん。

狂魔と同じように右目を長い髪で隠している。彼とよく似ていて凄く綺麗な顔だ。

弟さんは特別悪魔の血が強くて自分でうまくコントロールできないみたい。

だから周りに悪魔の毒が染み出さないよう指の先まですっぽり収まる大きな袖の白い服を纏っている。

悪魔の血が増えると気に当てられて周りの生き物を熔かしてしまう事は知っている。

奈落花さんは常にその状態なんだ……

大変だし、かわいう。

そして、その魔憑かいである杏奈ちゃん。

まさか同じ学校だったなんて。



「で、話をまとめると、ファウストハンドの事からだね。彼らの魔女狩りについては知ってるみたいだね。」

私は黙って頷いた。

「彼らは自分を傷つけた他の種族が許せなかった。だから悪魔や死神、吸血鬼などがいる霊界を破壊しようとした。そのために作られたのがファウストハンド。彼女達魔女には不思議な力がある。霊界とも、人間界とも異なる世界を自ら作り出す力。」

「そんな力を持ってるの……!?」

「美優はその空間に全ての核魂を奪い、その世界に住む人々の中に隠したの。」

「自ら作り出した世界の住人に霊界の核魂を!?」


私はなんだか頭が混乱してきた。

ちゃんと理解しないと。


「つまりこの世には人間界、霊界、魔女の世界の3つの世界が存在している。ここまではわかった?」

「はい。あ、でも……一ついいですか?」

「なぁに?」

「魔女狩りは狂魔や奈落華さんが生まれる前の話なんですよね?」

「そうだけど、僕はお母様から聞いていたんだ。狂魔は狂夢店で働いていたから聞かされなかったけど。」

「ちょっ……ちょっと待て!!」

狂魔がいきなり立ち上がった。

「そんな大事な話、知ってたんならなんでもっと早く教えてくれなかったんだ!」

「狂魔は狂夢店の店主だ。心のバランスが崩れたら面倒だからね。自分の父親の死が母が原因だなんて話したら心のバランスが崩れる。だからみんな、今まで黙っていたんだけど、運命がが動き出してしまったし、硝子さん、神臓の事もあるからね。」

「……」

狂魔はゆっくりと腰を下ろした。

「狂魔には霊界の崩壊とそのために新しい生贄が必要だという事だけを伝えて狂夢店の仕事をしてもらっていた。」

「そういうことかよ……」

「で、話がずれたけど、次は霊界について。霊界が神臓と神臓の周りを包む小魂、そして核魂でできていることは分かっていると思う。それらを奪っていったのがファウストハンドの姫、美優と僕たちの妹である闇花だ。」

「ふっ2人の妹!?どっ……どういうこと!?どうして闇花ちゃんは魂を奪ったの?」

すると狂魔と奈落華は暗い顔で

「「刀星……」」

と言った。

「とうせい?」

私の疑問に答えたのは狂魔の方。

「闇花は刀星という生きた鎌を持っている。人語を理解し、テレパシーのような物で会話ができる。」

生きた鎌……霊界ってほんといろんな生き物がいるんだな。

「だがしっかり定期的に魂を注いであげないと刀星は魔力を失いただの鎌になってしまう。前に話したあいつの身勝手な事ってのはこれだ。刀星は闇花の大事な友達ってわけだ。だから……」

「刀星の寿命をのばすために小魂を奪って中にいれているって事?でも小魂だってかぎりが……」

「ああ。だから闇花は最近霊界の小動物を殺してまわってるみたいだ。あいつは刀星のために何千もの魂を奪い続けている。」

さらに奈落花さんが続ける。

「本当は二人で闇花を止めたいんだけど、君たちはファウストとの戦いもあるし、僕と杏奈で闇花を必ず止める」

「もちろんよ。」

杏奈さんは静かに笑った。

「で、その核魂を探して神臓を安定させるのも僕たちがやっているから。今はまだ全ての核魂を集めてはいないけれど、神臓が壊れてしまう前に必ず見つけ出す。だからそっちも頑張って。」

「ああ、わかってる。」


私は狂魔のその返事が嬉しくてなんだか胸があたたかくなった。

私には狂魔がいてくれる。それだけで強くなれる気がした。

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狂夢店 椿さとみ @AliceNight

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