第9夜 悪魔と1つ屋根の下

あれから狂魔と狂夢店に戻って話し合ったその結果。


「硝子、一緒に暮らそう。」

「へ?」

私は目を丸くして狂魔を見つめた。

心臓止まるかと思ったよ。



「一緒に暮らす?なんで?」

いきなり言われても気が動転するでしょうが。

「なんでって、あれだけの事があったんだ。もしかしたら人間界にもう霊界から硝子を狙って潜んでいるやつがいるかもしれないだろ?」

「そうだけど....」

「ぼくと一緒にいる生と死の都の中なら守ってあげられるけど、そうじゃない現実の世界で襲われたりしたら大変だし。」

「わかった......。」

「よし。じゃあさっそく行こうよ!水鏡から人間界に飛んで硝子の家に行こっ。」

「うん。じゃあ...」

なんか、そんな感じでまとまりました。

水鏡から私と狂魔は私の部屋へ飛んだ。



「ん...ベッドの上。戻ってきたのね。」

気がつくと自分の部屋だった。

そして。

「あ....」

隣には狂魔が綺麗な寝顔で狂魔が私のベッドの上にいた。

「お人形みたい。」

私は思わずその安らかな顔に自分の顔を寄せた。そのまま流れで頬に触れる。

「柔らかい。以外と華奢なのね。それなのにいつも無理してばっかりで...あ。」

彼の体がピクンと動いた。

私はゆっくりと体を戻す。

「硝子....」

金の瞳が開く。

「ぼく寝てたんだ?」

「少しだけね。さっ。下に降りてお母さんに挨拶しないと。」




「お母さーん!」

「あら硝子。どうしたの?もう夕方よ?こんな時間まで寝ちゃって。」

「ごめんごめん。」

「だいたいなんで制服なのよ。今は夏休みよ?」

「え?」

「もしかして学校あったのに寝ちゃったんじゃ」

「ちっ違うよ。えっと...好きなの制服!だから自分の部屋でも着てるの!」

「ふーん。」

「あ、あははは。」

ドロップちゃんの事件以来、狂魔と現実で会うかもしれないと思って常にこの制服でいるなんて言えない。

言えない?違う違う!言わないと!

「あ、お母さん。」

「なぁに?」

夕食の支度をしていた手を止めて私を見るお母さん。

「あ、あのね。その、凄く大切な話があるの。私と、お父さんと世界について。」

「硝子、貴女...」

びっくりした顔。でも疑いのない瞳。

「聞いてくれるよね?」

「もちろんよ。」

母は一言そういった。

私はその言葉をしっかり受け止め、口を開く。

「じゃあ話すね。」




「まず、なんで私がいつも制服着てるのか、です。それはね、私いつも寝てるけど寝てないから。」

「どういう事?」

「私、いつも体が眠りに入ると夢を通して、生と死の都と呼ばれる世界に飛ぶ事ができるの...。この、夢合鍵で。」

私は自分の首にさげている夢合鍵を取り出し、お母さんの前に置いた。

その時だ。

「ぅっ...うう...くっ...」

お母さんがいきなり涙を流した。

「あ、秋人...。」

「えっ。秋人ってお父さんでしょ?なんで夢合鍵で...」

「硝子。」

「なに?」

「貴方、蜜薔薇王妃様を知ってる?」

「えっ、どうしてお母さんが蜜薔薇様の名前を...」

「知ってるのね?」

いきなり悲しそうな顔をするお母さん。

「うん。知ってるよ。直接話した事はないけど。」

「蜜薔薇様は、私の夫、秋人の前の妻、よね?」

「知ってたんだ....」

「言ったでしょう。貴方のお父さんは不思議な世界の人だって。話してくれたのよ。生と死の都、霊界、狂夢店の事を。秋人は名前のない狂夢店にある日飛んだみたい。そこで会ったのが蜜薔薇姫だった。」

狂夢店で当時の悩みを聞いて貰った秋人は事が終わると、帰ろうとした。しかし。


「まって!行かないで!」

「蜜薔薇さん...」

「私、霊界で1人で姫をしているの。父親と狂夢店を継ぐ子供が必要なの!貴方なら大丈夫よ。後悔しない。だから...」


彼女の思いが伝わったのか。

秋人と蜜薔薇は本当に結婚した。


そして狂魔、奈落華、闇花を生んだ。

その後、魔女狩り戦争。別れ。

今の母親との出会い。


秋人の死。

前の神臓の崩壊。


そして私が狂夢店を継いだ狂魔と出会った。


自分が神臓の予備である事。

ファウストハンドの話。


私とお母さんはお互いに全ての事を話した。そして。


「それでね、その、命を狙われているの。そのファウストハンドに。だから私決めたの。魔憑かいとして、側にいるって。だから今日から一緒に暮らすね。その魔憑かいと。」

ここまで話し、私は階段の方をくるりと向いた。

「話長すぎ。」

階段の影に隠れていた狂魔がひょっこりとリビングに顔をだした。

「狂魔....」

すたすたと歩き、お母さんの前に立ち、一礼。

「はじめまして。狂夢店、「時眠りの姫君」の店主、狂魔です。いきなりの訪問、迷惑おかけしますがよろしくお願いします。」

「ま、まぁまぁ!綺麗な子。金色の瞳素敵ねー。目とかなんとなくあの人の面影があるわ。」

「あの人」とはもちろん父、秋人の事。

「今日からこの家に住むの?どうしましょうか。食事とか寝床とか。」

「あ、それなら大丈夫です。多分、なんでもたべられかと思います。ぼくは蜜薔薇お母様と秋人様の子供である半魔ですから人間の食べ物も平気です。寝床は悪魔用の道具がありますので。」

「魔具の事ね。」

「はい。」

「じゃあ私が用意してあげるのはお食事だけでいいわけね。」

にっこりと母が笑う。

「それにしても本当に綺麗ね。常磐色の髪。さらさらね。もしかして蜜薔薇様ま髪が常磐色なの?」

「えっと、後ろが常磐色。前髪が薄紫の髪色をしています。ぼくが常磐色の部分を受け継ぎました。だから弟は髪が薄紫なんですよ。」

「まぁ、弟がいるのね。会ってみたいわぁ、その子に。会えないの?」

興味津々のお母さん。やけに馴染めているのは、やはり狂魔が秋人お父さんの血を継いでいるからだろう。

顔も面影があると言っていたし。

「弟。奈落華は今大事な仕事中なんです。霊界と硝子を守る大事な仕事で。」

狂魔が私の方にくるりと向く。

「そうだ。そろそろもう一度奈落華と連絡を取らないと。硝子。」

「あ。はい!」

いかなり呼ばれてびっくりする。

「事もひと段落ついた。一度弟と連絡して情報を共有する必要があるから、ぼく一度狂夢店に戻って用事を済ませてくる。」

「わかった。いってらっしゃい。」

狂魔は服の内側の胸ポケットから私と同じ形の夢合鍵を取り出した。

「夢合鍵。ぼくを狂夢店「時眠りの姫君」へ導いて。」

狂魔が唱えたと同時にその場に光が現れ、すっ...と彼の体が消えた。





しばらくして狂魔が戻る。

「お帰りなさい。何をしてきたの?」

「面倒だからぼくが狂夢店を留守にしても大丈夫なように魔手鏡と店を繋いだんだ。」

「店を繋ぐ?」

「ぼくが留守の間、狂夢店にいてもらう店番を帽子月に頼んできたんだ。」

「帽子月?」

「うん。霊界に住んでいる不思議な生き物て使い魔みたいなものだよ。そいつに狂夢店にお客さんがきたらぼくに伝えるように言っておいた。」

「へー。どんな子なの?会ってみたい。」

私がそう笑うと狂魔はすごい顔で

「会わない方がいい。」

とだけ言った。

嫌いなのかな?

と、その時だった。いきなりガラガラ声の怒声が飛んできた。

「ぢょっどぉー!いきなり呼び出して店番じろなんで、酷いじゃないがー!」

「帽子月....。」

気がつくと目の前に顔が三日月の形をした不思議な生き物が浮いていた。

「あなたが帽子月さんなの?」

私は近づいて目を合わせた。


「あ。あう。人間の女の子だぁ!」

「そうだよ。硝子っていうの。よろしくね、帽子月。」

「よろじぐ、よろじく!」

そんなやりとりを狂魔はただぼーっと眺めていた。ので。

「なぁに?」

と聞くと

「別に?」

と、物凄くびっくりした目で見られた。

そして。

「硝子ー!狂魔君も!ご飯の時間よー」

お母さんが料理の盛り付けられた皿を並べながら私達を呼んだ。

「「はーい!」」

私と狂魔の声が重なった。

なんとなく可笑しくて笑ってしまう。

「オレもぐう!」

帽子月も空中でぴょこぴょこする。

「お前は店に戻ってくれるかな。店番だって言ってるだろ。」

狂魔が帽子月の首を締める。

「ぐっ...あいあいざー。ご主人様。」

帽子月は苦しそうな声で答えてボンと姿を消した。

「さってと。お母様の作ってくれた料理を食べようか。ね、硝子。」


自分の手から帽子月が消えると狂魔は満面の笑みを浮かべた。

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