第8夜 戦いのあとの休息

「ひっく...ひっく。」

「硝子さん...」

あれから10分くらいたち、私はようやく泣き止んだ。

「落ち着いた?」

私はこくりと頷いた。

「ごめんね。わんわん泣いたりして。」

「しょうがないよ。当たり前さ。」

月猫君が私の頭を撫でてくれる。

その月猫君が何かに気が付いたようで自分の目の前をまっすぐ見つめる。

「と、ほら。来たよ、王子様。」

「え?」

私は顔をあげて前を見た。

「あ....」

「硝子ー!」

「狂魔!」

私は思わす走った。

「狂魔ぁー!」

走ってきた私を狂魔は受け止め抱きしめてくれた。

「狂魔!ぐす...会いたかったんだよ?寂しかったんだよ?...もう離さないで。」

「ごめん。ごめんね。もう離さないよ。毎回肝心な時にいなくてごめんね。」

「ううん。狂魔が大変なのはわかってるの。だから、平気。」

「ありがと。硝子、ありがと。」

それから私達はゆっくり体を離す。

「月猫ありがとう。硝子はぼくが連れて帰るよ。」

「うん、わかった。じゃあとりあえずあいつに謝らないとね。」

言って月猫君は苦笑いした。




「きっ貴様らぁ!俺が何時間この場で待っていたと思っているんだ!」

「ごめんね、黒時君。」

「ごめんねですむかー!」

あれだけの出来事があって忘れていた。

私達は黒時君を森の入り口で待たせていることに。

「たくっ。とりあえず俺の家へこい!待たせた分ケーキを作れ!手作りだ!いいなっ!」

「俺も行くの?」

月猫君が言うと

「お前は来なくていい!俺の量が減るだろうか!」




そんなわけで。

狂魔と私は黒時君の狂夢店とは別に生活している大きな家に居ます。

今はケーキ作りの前にさっきまでの戦いの話をまとめている最中。

「そうか。鏡硝子は本当に神臓だったか。」

「うん...」

「しかもだ。話をまとめると鏡硝子と狂魔は....」

「何百年も離れた兄妹ってことだよね?」

私が答えた。

「別に。ぼくの硝子って事に変わりはないし。」

そう言って私の肩を抱いてくる。

嬉しいんだけど、人前でされると恥ずかしいな。

「血とか言っても、時間や空間、世界がバラバラだしね。関係ないよ。ぼく、硝子と結婚するつもりたし。」

「えっ!!!?」

私は思わす大きな声をだして固まった。

「結婚?」

「ためなの?」

狂魔が私の顔を見つめる。

ちょっ、顔近い。久しぶりに会ったから余計にドキドキする。

「でも、狂魔、私は...霊界の動力である神臓なのに。結婚なんてできないんじゃあ。」

私が言うと狂魔はふんわりと笑う。

「ぼくが守るから。硝子を神臓に目覚めさせたりなんてしない。」

「狂魔...」

そんな私達のやりとりに黒時君が割って入る。

「あーもう!いちいちイチャつくな貴様ら!早くケーキを作れ!」

「あ、そうだね。何個がいいかな。」

横に見えたケーキを作る部屋らしき場所を見つめながら質問する。

「10個だな。」

「みんなで10個も食べるの?」

「1人で10個だ!」

「ふ、太っちゃうよ?」

「太らん。」

「なんで?」

「俺を誰だと思っている。」

「え?」

「なんだ。前に話すのを忘れたか。面倒くさいな。」

「なんの話?」

「俺は体内の自分の時間を戻せる力を持っているんだ。凄いだろ。」

「へー...」

私はその能力が心から羨ましいと思った。



「はい。ケーキできたよ!黒時君のは10個バラバラって面倒くさかったからホールね。」

私は大きなキッチンを使って特大サイズのチョコレートケーキと三角のチーズケーキを作り、みんながいる部屋に運んだ。

「これでバラバラの10個分はあると思うんだけど。」

私は巨大なケーキを白テーブルに乗せた。と、その瞬間、黒時君から喜びに満ちた声があがる。

「おお!素晴らしい!美味そうだ!」

目をキラキラ輝かせて子供みたいだなー。

言ったら怒られそうだけど。

「凄い。では食べよう!いただきます。」

黒時君は大きな口でチョコレートケーキを食べる。

「美味しい?」

私が聞くと黒時君がこっちを向いて

「美味い!素晴らしいぞ鏡硝子!今度はチーズケーキを作ってくれ!」

「はいはい。また今度ね。」

それから私はさっきから無言で自分の分を待っていた狂魔に気が付いた。

「あ、そうだ。狂魔は何が好きかわからなかったからとりあえずチーズケーキを作ってみたんだけど...。」

私は小さな皿に乗せたチーズケーキを狂魔に渡した。

「食べれる?」

「霊界にはこういう食べ物はないから食べてみないと...」

狂魔は私から受け取ったケーキを味見程度にほんの少し口にした。

その姿が小動物みたいでなんか可愛かった。

「硝子、料理上手なんだね。今度お礼にぼくも何か作ってあげるよ。」

わっ...褒められた。

やっぱ好きな人に褒めらると嬉しいな。


好きな人?


そうだ。そうなのよ。


私、知らないうちにこんなにも狂魔の事が好きになってたの。

だからね、何百年も離れているとは言え血が繋がっているってわかって少し寂しかった。

だって、今更お兄ちゃんなんて呼べない。

狂魔はそんな事関係ないって言ってくれたけど。



私は狂魔の事をどう思えばいいの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る