第7夜 魔女狩りについて
霊界には様々な種族が存在する。
霊界人と呼ばれる種族にあたる悪魔、死神、吸血鬼、魔女etc...
その中でも一番危険とされているのが魔女だった。自分達にだって、それぞれ特別な能力を持っているのにもかかわらず、他の種族達は魔女だけを差別した。
「魔女だ!呪われるぞ!」
「近寄るな!汚い存在め!」
当時幼かった満優姫にはたくさんの友達がいた。その中にはもちろん魔女以外の種族も。
ある日のことだった。
「ねぇねぇ満優ちゃん。」
1人の女の子が言った。
「なぁに?」
「私満優ちゃんの魔法がみたい!」
「えっ?」
「ね?いいでしょ?」
「いっいいけど...」
満優は目の前の花に指をつける。
不思議な魔法で咲いている花を宝石に変えた。
「わぁ!凄いよ満優ちゃん!どうやってるの?」
「え?だから魔法だってば。」
「へへ...凄いねー。」
少女が笑った。
満優はそれが嬉しかった。
しかし。
「ちょっと!何してるの!」
少女の母親が来た。
「こら、魔女なんかと遊んじゃダメでしょう!こっち来なさい!」
母親は少女の手を掴み、満優から少女を引き離した。
そしてこの状況を影から見ていた人物が1人。
「許さない!満優を...私の娘を!あんなっ!」
満優の母親だった。
彼女は言った。「貴女を虐めた相手を仕返しする」と。
それを聞いた満優は母親を必死で説得した。
「だめ!私は大丈夫だから!あの子のお母さんには何もしないで!」
「でもあの人のせいで満優は傷付いた。...前にも同じ事があったでしょ?」
母は満優の瞳にある漆黒の眼帯に触れた。
「前も」とは満優がさらに幼い、人間で例えたら4歳の頃の年の話。
同じように友達と遊んでいた時。
満優達を囲むように見つめていた数人の大人達。
「おい幼い魔女だ。」
「死神の子と遊んでるぞ。」
「魔力が暴走するかもしれない。」
「どうする?」
「どうするって...」
それから口を揃えて言った。
「殺すしかないだろ。」と。
そして男達は頷きあい、遊びに夢中になっていた満優に火の玉をぶつけた。
熱さに驚いた満優は泣きわめいた。
「熱い!痛いよ...誰か...しぃちゃん!」
しぃちゃんと呼ばれた少女は、困ったような、怯えたような表情で満優を見つめていた。
「助けて...助けて...!!!」
それからじゅわぁという音が満優の瞳からしたのだ。
「あ、ああああ!!嫌っ!助けて!」
その声を聞いて駆けつけたのが満優の母親だった。
母親は魔法で大量の水を生み出した。
そしてそれを満優に浴びせた。
「お母さん....」
「満優...みゆーーうっ!」
母親は満優の名前を呼び、抱き締めた。
「かわいそうに...」
その腕は我が子を守る母親の腕だ。
「お母さん...」
満優はもう一度泣きそうになりながら母親を呼んだ。
「お母さんどうして?どうして私達は魔女なの?みんなと違うの?」
「満優...」
「私魔女なんかに生まれたくなかった!そのせいで私の目が...目が...!!!」
「あの日から他の種族とは遊んじゃだめだって言ったのに。」
母親は過去の話を終え、再び満優の漆黒の眼帯に触れた。
「ごめんなさい。でも!あの子は悪い事してないの!あの子のお母さんの事も、しょうがない事なの!」
「しょうがない事なの!」
満優の一言で母は決めた。
あの子を虐めた者を全て殺すと。
そして次の日の朝。満優の母は本当にその子の母親を殺してしまった。
怒った他の種族は満優の母を大勢で殴り、叩き、殺し返したのだ。
それから満優は自分のせいで母親が死んだのだと考えるようになった。
数日後、満優の住んでいた村の人達は全員である決断をした。
全魔女抹殺計画『魔女狩り』
満優の母親が満優の友達の母親を殺してしまったあのような出来事を生まないようにと、魔女以外の種族が考えた計画。
その計画を考えた次の日から、早くも魔女狩りはおこなわれ始め、その村に限らず全域に渡り戦争になっていった。
老化した魔女も幼い魔女も関係なく、彼らは無差別に彼女達を殺してまわった。
危険を感じた満優は自分の家に強力な結界をはり、閉じこもり数日を過ごした。しばらくしてその出来事は少しづつ収まっていった。
それから満優は見つけたのだ。
自分と同じように隠れ続け生き延び、魔女狩りから逃げ切った、たった数十人の魔女達を。
「そして魔女全員は考えた。今の霊界をなくし、新しい世界を...自分達魔女も苦しまずに暮らせる霊界を作ると。それが俺達ファウストハンドか作られた理由だ。」
高雅くんの話が終わった。
「だから私を殺して新しい霊界を作るつもりなのね!」
「そうだ。俺と真凛はこの話を聞いて満優姫の力になりたいと思った。だからファウストハンドに入り協力してる。」
ここまで聞いて、理由がわかっても。
私はわからない。
「そんなのおかしい!どうして今の霊界で事を解決しようと思わないの⁉︎」
「なに?」
高雅くんが私を睨む。
「話を聞いてなかったのかよ神臓。」
「ちゃんと聞いてたよ。」
「ならなぜそんな事を言う⁉︎」
「だっだって...」
「あの村にいた人々全員が魔女を嫌ってたんだぜ!そんな状況で何を解決するんだ!」
「それは...」
言葉がつまる。
何を言えばいいの?
なんでこんな事言っちゃったんだろ。
私に何がわかるんだろう。
「おい。」
考える私を高雅君が呼んだ。
「...?」
俯いていた私は顔をあげた。
「お前も真凛と同じように学校とかいう場所に通っているそうだな。」
「なっなによ。」
「そこは集団で何かしたりする場所なんだろ?」
「そうだけど...それがなんなの?」
「お前そこでいじめられた事あるか?」
「なんでそんな質問してくるの?ないよ?」
「じゃあいじめられたらどうする?」
「え?そういうのってわかんないけど、多分先生に相談する...かな?」
「なら、もしその先生すら敵に回ったらどうするんだ?」
「え?」
「満優姫はあの魔女狩りの時、霊界の王妃、蜜薔薇に助けを求めた。」
「蜜薔薇って...あ!狂魔のお母さん!」
高雅くんは頷いた。
「あいつは助けを求めた満優に他の種族のためだとか言って、話を無視しやがった。」
「そんな...」
「そんな態度をとった蜜薔薇に人間の王であった
ドクン。
私の心臓が激しく動いた。
「あ、秋人?」
「お前も狂魔の魔憑かいなら知ってるだろ?あいつの父は人間で..」
「鏡...秋人?」
「ん?あ。ぎへへへへ!!そうか!お前の名前は鏡硝子!とんた偶然だな!そうかそうか!霊界のくたばった王と神臓が親子!こりゃすげー!」
「嘘...だって魔女狩りは何百年も前の話何でしょう⁉︎そんな時に私のお父さんが生きてるわけないじゃない!」
「ならてめぇの父親はてめぇが生まれた時にいたのかよ!」
そうだ。いない。いなかった。
物心ついた時にお母さんに聞いた事がある。
「あなたのお父さんはね、不思議なところからきた、お父さんなのよ。でもね、私が貴女を産んだ少し後にすぐにいなくなってしまったの。」
「お前の父親がすぐに消えた理由。」
私はすぐに理解した。
何百年も霊界にいたせいで身体が霊界に馴染み、人間界に帰ってきた時にリバウンドで生命が砕けたのだ。
そしてここまで聞いてようやくある事を思い出した。
「父上は死んだ。ある事件をきっかけに。」
狂魔が言ってたのはこの事なんだ。
でもあの言い方。
きっと魔女狩り事件の途中で巻き込まれてお父さんが死んだと思ってる。
自分のお母さんのせいで死んだとわかったら狂魔きっと...。
「今頭がよくわからずに混乱してんだろ。だが安心しな。てめぇら人間の脳みそじゃ、この世界の年表を作る事はまずできないからな。」
「説明して。」
私は強気に言った。
「この霊界と人間界は実は全く違う時が流れている。つまり、本来はけして交わる事のない世界。時間空間が異なる世界なんだ。そんな場所を行ったり来たりできるのはお前や真凛が魔憑かいだからだ。魔憑かいとなった人間は無自覚にこの時空を操っている。」
「でもお父さんは魔憑かいでも神臓でもない男性。時空を超えて人間界に戻ってきた事で体が壊れて寿命が縮んだ。だからお母さんが私を産んだすぐに死んでしまった。」
「まー、そういう事だな。さてと。」
高雅くんの目付きが変わった。
「神臓にふさわしい知識を詰め込めた事に感謝しな。そして...礼として俺に殺されろ!」
物凄い速さだった。
「あっ..!!」
私は1秒もかからないうちに巨大な獣の腕につかまれて地面に押し付けられた。
「ぐっ...!!」
苦しい。息が...
私このまま死ぬの?
これだけの話を聞いて?
だめそんなの!私もこの戦いを止めたい!死ぬわけにはいかない!
その時だ。いきなり私の体から光が溢れてきた。
「これは、魔具製造機の光⁉︎」
「(これって前にドロップちゃんが傘を作った時のあの光⁉︎)」
「魔具が出来るだと!人間の力で!?いくら神臓だとはいえ、そんな事が出来るわけが...!!」
高雅くんが私から離れた。
頭に浮かんでくる。イメージする。
きて。
「
光は形を変え、大きな細身のレイピアとなった。
これなら私も戦える!
「上級レイピア天使の風だと!?馬鹿な、」
「風よ舞え。」
私は頭に浮かんだ言葉を唱えた。
「なんだ!あいつはなぜ魔具を作れた!...そうか。血か..狂魔の店主の血か!」
「西風の
全ての呪文か唱えられたその瞬間。
「うっうわぁあああ!!」
高雅くん黒い炎に包まれた。
「こわれ...死ぬ!まさか...こんな!こんな女に!」
高雅くんは死んだ。
私がやったの?
「これが私の力?」
高雅の死体はなかった。
あまりの力の強さで体ごと消滅したのだ。
「硝子さん!」
後ろから声がした。
「月猫くん...」
「大丈夫?」
「真凛って子は?」
「いきなり倒れたんだ。高雅は?」
私は黙って後ろを振り返った。
「硝子さん?」
月猫くんは心配して私の顔を覗いた。
「....たの。」
「え?」
「私が...私が殺したの!わあああああああああ!」
はじめて誰かを殺した。
自分が怖くなり、私は大声で泣いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます