第6夜 精霊樹の森

狂魔と離れて2週間がすぎた。

夢合鍵でも狂夢店に行けない。

きっと狂魔が来れないようにしてるんだろうな。

テレビ見たり本読んだりしても面白くない。


狂夢店に行きたい。

狂魔に会いたい。

でも鍵は私を狂夢店へ連れて行ってくれない。


どうして?入れてよ。

連れて行ってよ、狂夢店に。


私は...私は神臓なのよ!


次の瞬間、私の体は物凄い眠気に襲われた。

この感じ...狂夢店に行く時の...行ける!今なら!


ふわふわする。

私はベッドに倒れた。



「ん?あ...あれ?また違うところ?」

私が目を開けるとそこには森が広がっていた。薄暗い不気味な森。

「ここも狂夢店の1つなの?さすがに違うよね?森だし...」

ここが店のわけない。じゃあここは?考えても埒があかないので。

「とりあえず進んでみますか。」

私はゆっくりと森の奥へ進んでいった。



その頃。

薄暗い店の中で。

「あ...ああああああ!わぁあああ!」

床にいた小さなネズミを追いかけまわし、ぼくはそれを殺した。

「あ....」

ねずみの体を剣が貫いた瞬間、ぼくは我に返った。

「ぼくは、何してんだろ。」

こんな...

なんの罪もない小さな生き物を殺して...

「助けて...助けて...硝子。自分が怖い。」

なんでこんな事になったんだ?

ノアールを殺した事で悪魔側の血が増えた。

今もこうして血がぼくを狂わせた。

そうだ...このまま硝子に会ったらもしかしたら。

ぼくが硝子を殺してしまう?

だめだ。そんな事をを考えては。

なぜだ。確かに母である蜜薔薇姫は純粋な悪魔だが、人を殺すような血筋ではないのに。

優しくて儚くて...そんな母親と人間の父から生まれたぼくがなんで...。


硝子...。

それから悪魔の血はどんどん増えていった。





あれから一時間は歩いたと思う。

汗もかくし、喉も渇く。

「疲れた...」

それにしてもこの森は深い。

どこが出口なんだろう。

「出口なんてないよ。」

え?

「出口なんてない。」

どこから聞こえてくるの?

「ここだよ。」

「あ...」

足元を見ると、青色の毛を纏った小さな猫がいた。

「そう、月猫。」

「猫が喋ってる。」

「霊界だと動物も喋るんだよ、人間さん。」

「え!霊界!?ここ霊界なの!?なんで?」

「君、ここに自分の意思で来たんじゃないの?何があったの?」

「迷い込んじゃったの!どうすればいい?」

「迷い込むって...どこから来たの?」

「えっと人間界の自分の家たよ。多分狂夢店からでも行けるとは思うけど今日は自分の...」

「狂夢店だって!?君、もしかして魔憑かいなの?」

「う、うん。そうだよ。」

「少し目を閉じて。俺がいいって言うまで。」

月猫くんに言われた通り、私は暫く目を瞑る。

「いいよ。」

月猫くんの声で私は目を開ける。

「え?」

目の前にいたのは短髪の青髪に猫耳が付いた、背の高い少年だった。

「月猫くんなの?」

私は目を丸くしながら月猫さんを見た。

「そーだよ。俺は猫の霊界動物。」

「へー。じゃあ宵月さんやドロップちゃんと一緒だ!」

「お前、あの2人を知ってるの?」

「うん。」

「ふーん。あ、そうだ!君の名前は?」

「あ、硝子よ。鏡硝子。」

「硝子さんか。へへ...よろしくね。」

月猫くんは私に手を伸ばした。

「うん。よろしくね。」

私もその手を握り返した。

「さてと。とりあえず聞かせてくれるかな?」




「さて。話をまとめるとこういうわけだね。」

月猫くんは切り株を探し、そこに私と座り話しをする。

「君はとある事情から狂夢店に行けない。だけど強く願ったら眠くなって気がついたら狂夢店じゃなくて、この霊界の森に来てたってわけだ。」

あれから私はこの不思議な猫、月猫くんにここに来てしまった理由を話した。

狂魔の狂夢店の魔憑かいという事は、月猫くんがもし敵だった時のために隠しつつ、ここから狂夢店に行くないか方法を探った。

「あ、あの。私ここから戻れるのかな?」

「ここには水鏡がないからね。とりあえず少し戻ってどこかの家から人間界に帰るしかないね。君の話ならまだ狂夢店には行けないだろうし。」

「月猫くんが使う用の水鏡はないの?」

私が聞くと月猫くんが一瞬寂しそうな顔をした。私はそれを見逃さなかった。

「ここは迷いの森。俺以外のやつなんて近づかないんだよ。だから水鏡も必要ない。」

「じゃあ貴方はずっとここにひとりぼっちって事?」

なんかかわいそう。

私がそう言うと月猫くんは、

「別に1人じゃないよ。」

と言う。

「1人じゃないって...だって今、自分以外はここに近づかないって...。」

「近づかなくても、ここにもともと住んでるやつがいるだろ。」

月猫くんはすーっと大きく息を吐き、森の奥に向かってピーッという口笛を吹いた。すると。

「にゃ〜。月猫なんだにゃ〜。」

「にゃー達はまだ、ねむねむの時間だったのににゃー。」

月猫くんのさっきまでの姿と同じ青色の猫がたくさん奥からでてきた。

「わ〜!可愛いっ!」

私はその中の一匹を抱き上げた。

「ふわふわもこもこだ〜。」

私はその子に頬すりした。

「俺の仲間達だよ。みんなここで暮らしてるんだ。」

「へー。」

「と、話はここまでだね。帰るだろ?俺の知り合いのところまで行こう。」

「あ、はい!」

私は猫ちゃんを下に置いた。

「ばいばい猫ちゃん。」

「知り合いの家はすぐ近くなんだけど、近くじゃない不思議な場所にあるからな。本人の能力なしじゃ行けないから、今連絡するね。」

そういって月猫くんは小さな手鏡を取り出した。そして私はそれが何かを知っている。

「魔手鏡。月猫くん、狂魔の狂夢店に来た事あるの?」

私が質問すると月猫くんは物凄くびっくりした目で私を見た。

「え?君は狂魔の魔憑かいだったの!?てっきり今話した俺の知り合いの魔憑かいだったの!?俺さ、勝手にてっきり今話した俺の知り合いの魔憑かいかと思ったから彼のもとに返そうと思ったのに。」

「そっそうだったの?その人なんて言う名前?」

「デス・オー・クロック。」

「え!?黒時君⁉︎」

びっくりした。月猫くんと黒時くんが知り合いだったのか。

月猫くんは私の話を聞いて黒時くんの魔憑かいだと思ったのか。

「なんで狂魔の魔憑かい君が黒時の事を知ってるの?」

「前に助けてもらったから。」

「助けてもらった?」

「私がファウストハンドっていう集団の女の子に襲われて、それで...」

月猫くんが腕を組んで考える。

「私が霊界の新しい神臓かもしれないから」

「なっ!本当に!?じゃあここにいたらめちゃくちゃ危ないじゃんか!」

月猫くんが私の肩を掴む。

「ここはあいつらの基地があるんだよ!?だいたい狂魔は何をやってるの!?彼は王子としてちゃんとわかってんのかよ!」

「あ、あの!」

「なに?」

あ、少し怒ってる。

「あ、あんまり狂魔の事を悪く言わないであげて。悪いのはこっちの世界に来ちゃった私なの!」

私が言うと月猫くんは大きくため息を吐いて。

「わかったよ。とりあえず黒時のところに行こう。あとはあいつに任せるから、そしたらあとは自分でそっから帰ってよ?」

「うん。ありがとね月猫くん。」

私はお礼の意味を込めてにっこり笑う。

「別にいいよ。それより気をつけてね。これからまたファウストハンドの奴らが襲ってくるかもしれないし。」

「はーい。」

「はーい...って。本当に気をつけてよ?俺は一度あいつに、満優に殺されかけてるんだから。」

「月猫くんも⁉︎」

自分自身が一度戦った相手。

「だからそんなに心配してくれてるんだね。ありがと。大丈夫。」

「硝子さん...」

「さっ!黒時くんのところにいこ!」


この時まだ私は知らなかった。

私達を見てる2人の人物を。


私達は今いる場所から少し移動して月猫君は黒時くんと魔手鏡で連絡を取った。

「というわけで、硝子さんをそっちに預けてあげたいんだけど、いいよね?」

「わかった。で、お礼は?」

「ケーキでしょ?めんどくさいなぁ」

「チーズケーキとショートケーキと、モンブラン。あと、そうだな。生チョコのスペシャル2段重ねもあると...」

「どんだけ1人で食べる気なのさ!とにかく今から森をでるから精霊樹の森の出口で待っててよ。」

「む。了解した。」

黒時くんの返事を聞いて、月猫くんはパタリと魔手鏡を閉じた。

「さて、まずは森からでよう。あれ?」

「どうしたの?」

「誰かいる...。ファウストハンドの奴らかも。俺から絶対に離れないで。」




1人、狂夢店の中で。

ぼく、狂魔はただ息をし、何日も眠りにつけず食事もせずにそこにいた。

悪魔の血が自分を狂わせる。

客を傷つけないために店も閉めた。

硝子もこない。

何も考える必要もない故に考えてしまう。


今自分は生きている?

死んでる?生きてる?


そもそもこうして考えられるのが生きてる証だ。

ずっとここでこうしていてもしょうがない。

気晴らしに水鏡でも覗こうかな。

ぼくは水鏡の中を覗いた。

すると。

「う...嘘だろ。なんで精霊樹の森に硝子が...!!一緒にいるのは月猫か?それに..」

何かに怯えてる?

まさかファウストハンドの手下が硝子の近くにいるの?

だとしたらぼくもいかないと...!!

でも、また悪魔の血でおかしくなったら?

いや...今はそんな事考えてる場合じゃない!でも行くしかない!

硝子を守れるのはぼくなんだから。

「水鏡!ぼくを精霊樹の森へ!」






「月猫くん...あの。」

「大丈夫。平気だから。」

私は月猫くんの後ろに隠れた。

確かに私は戦う力がなくて足手まといかもしれない。

でも。

「私隠れない。私にできることならなんでもやる!」

「硝子さん...」

私は力強い目で月猫くんの顔を見つめた。

「わかった。何かあったら頼むね。」

月猫くんはそういった。

けど、私にはわかっていた。

月猫くんが私に向ける目は、「この子を守らなきゃ」という目で。

嬉しいけど。

「めっ迷惑かもしれないけれど、自分も何かしたいの!神臓だからっていつまでも守られてるのはいや!」

私が強い目で見ると、

「ありがとう。強い子だね。」

今度は私と同じ強く優しい目で見てくれた。そこに。

「おー?敵さんやる気まんまんって感じ〜?」

「行くか。真凛まりん。」

「そうねー。殺られる前にやっちゃお〜。行くわよ高雅こうが!」

何処からか聞こえてくる敵の声。

「何かくる!」

月猫くんが構える。

「誰だ!でてこい!」

「でてこいだって!ではこっちも行きまーす!」

キャピキャピ声が樹の上から降ってきた。

「女の子?」

私達が上を見ると短い青髪の女の子と、赤髪の角の生えた男の子が立っていた。

「はーい!女の子です!水野真凛でーす!こっちは私のパートナーの高雅君でーす!」

そういって女の子は笑った。

「あ、あんた!風白高校の制服⁉︎」

私は思わず声をあげた。

風白高校とは私が通う月雫高校の隣に位置する共学校である。

「はぁ?あんたなんでうちの学校の制服なんて知ってるわけ!?って、それ!改造されてて気がつかなかったけど月雫高校の制服⁉︎」

こんどは真凛が私の制服に気がついた。

「嘘!隣にいるんだ。まじうけるー!でもー」

女の子は後ろに隠し持っていた巨大な刃を前にだし。

「めんどくさいから今殺しちゃいまーす!」

高い木の上から高雅の腕につかまり降りてきた。

高雅の足が地面につくと同時にズシンと大きな振動が起こった。

「さーてさて。バトル開始といきますか。」

真凛はニヤニヤと笑う。

「君、真凛だっけ?君が戦うの?そっちの高雅ってやつは?」

月猫くんが聞くと、

「え?あんた高雅と戦いたいの?やめときなって。死んじゃう死んじゃう。あんたなんか私でじゅーぶんだし!」

真凛の余裕の表情。

「さ、行くわよ!」

真凛が走る。

「時間無駄にしないようにあんたはすぐに終わらせる。目的は神臓なんだし。」

真凛の刀が月猫くんに降りかかる。

月猫は軽々とそれを交わした。

「へぇ、やるじゃん。私の速さについてこれるんだ。さすが猫ちゃんね。でも」

真凛は高雅の方を向いて合図した。

高雅は頷き、そして

「楽しませろよ神臓の女ぁ!」

私は高雅の声を聞き、思いっきり走った。

「あんた達なんでなんでそこまで私を追うの?だいたい私は神臓かもって言われてるだけで、まだ神臓って決まってるわけじゃないの!何回もこんな目にあって神臓じゃなかったらどう責任とってくれんのよ!」

私は後ろを見ないで精一杯走りながら喋った。

そのせいでいつもより息がすぐに乱れた。

「はぁっ...はぁ...!!!」

まずいよ。

このままじゃ追いつかれる!

「おいお前今のセリフおかしいぜ!」

「なっ何がよ!」

「俺達はお前が神臓だとわかってるからこうして襲ってんだぜ?」

「えっ?」

私は足を止めた。

「お前は霊界の王子、狂魔の店にいる。狂夢店は意思を持った店で、店がそこにきた人間の客から神臓を選ぶ。だからお前は狂夢店に呼ばれたんだ。王子は気づいてないみたいだけどな。」

「うそ..そんな.」

私の顔が青ざめる。

「お前は神臓だ。今崩れかけてる霊界を支えている動力はお前そのものだ。お前が死ねば霊界も終わる。」

「えっ、待ってよ。それって変じゃない?あなた達は霊界の人なんでしょ?霊界がなくなったら住む世界がなくなるじゃない!」

すると高雅が言った。

「俺達ファウストハンドのリーダーである満優姫は大昔、霊界の奴らから魔女狩りにあった。」

「魔女狩り?」


「魔女狩り...魔力の強い魔女を危険だからと皆殺しにする計画の名前だ。」



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