戦場でのあいつの戯言

紅羽根

戦場でのあいつの戯言

「オレ、この戦いが終わったらあの子に告白するんだ」

「藪から棒にこの後死んでしまいそうな事を口走るな。俺まで死ぬだろ」

 俺は振り向かずにコックピットの後部座席にいるあいつに言葉を返した。

 ここは巨大人型兵器の操縦席だ。目の前のモニターには、うなりを上げながらその真っ赤な目でこちらをにらみつけている四足の怪物が映っている。つまり戦闘中だ。

「前に食べたあの子のハンバーグ、すっげー美味かった。だからもう一度食べたいし、出来れば今後戦いから帰ってくる度に食べたい。あれを食べるとまた次の日からしばらく頑張れる気になる」

「その気になるだけかよ」

 俺は右手で握っているレバーのスイッチを押す。人型兵器が右手で持っている拳銃型の大砲から弾丸が放たれ、怪物の左肩をかすめる。かわされた。

 そのわずか一瞬の後に怪物が俺に向かって突進してきた。

「ぐあっ!?」

 回避することも出来ずに人型兵器を倒されてしまう。

 モニター一杯に怪物の顔が映る。倒したと同時にこいつに乗っかってきやがったのか。

「くそ!」

 すかさず俺が頭の上のスイッチを押すと、人型兵器の頭部から無数の弾丸が発射され、怪物に命中する。思わぬ反撃に驚いたのか、怪物は自分の後方に跳んで距離を取った。

「お前が変な事を口にするから、危うく三途の川を渡りそうになったじゃないか」

「だけどまだ生きてる」

「結果論で語るな。だいたい何ださっきから。辞世の句か? あいにく録音はしていないぞ」

「オレは寿命以外で死にたくないね。さっきのは平和について考えた結果だ」

 キーボードを必死に叩く音と共にあいつはそういった。

「どういう事だ?」

 目の前のモニターの隅に怪物についての詳細なデータが次々と表示されて行くのを目にしながら、俺は人型兵器を立ち上がらせて体勢を立て直す。

「戦っている間は奴らを屠って生き残ることに必死で、誰かを好きになったり愛したいと思うようになったりなんて暇が無い」

「周りを見渡しても野郎ばかりだからな」

 右手のレバーのスイッチを何度も押す。弾丸が連射されて怪物に向かって飛んでいくが、いずれも寸前で回避される。俺は銃口を怪物に向けたまま人型兵器を横に走らせた。怪物もこっちを追いかけてくるように走ってくるが、俺の操作で人型兵器が銃を撃つ度に後ろに跳ぶため距離は縮まらない。

「平和になれば俺達みたいな兵士も余裕が出来て、愛を育むことが出来る。そんな未来を想像したらやる気がわいてきた」

「とどのつまりヤりたいだけだろ」

 弾丸が空気を切り裂く。怪物の身体から赤い血飛沫が吹き出す。命中した。

「身も蓋もないな。俺はただあの子とイチャイチャしたいだけなのに」

 銃を連射する。怪物の動きが鈍くなっていたからか、今度は全て身体を貫いた。

「どっちでも同じだ。ヤる事はヤるつもりだろ」

「まあな。そのためにも奴には何としてもくたばってもらわないと困る」

 小気味のいい打鍵音が聞こえたかと思うとモニタの両脇から二つの光線が怪物に向かって伸び、怪物の身体を焦がした。

「なら、奴の肉でハンバーグを作ってもらうか? ちょうど合い挽き肉みたいかもしれないぞ」

 人型兵器の拳銃をしまわせ、腰から頭身がビームで出来ている剣を取り出させる。

「冗談、前に誰か食ったことがあるらしく、あまりのまずさに眉間のしわが取れなくなったらしい」

「それは残念だ」

 俺は人型兵器をうずくまっている怪物に向かって走らせ、その勢いと共に剣を振り抜いた。怪物は綺麗に両断され、その場を血で真っ赤に染める。

「さあ、次に行くぞ」

「オッケー」

 駆け出す人型兵器。あいつの戯言が現実になるまで、まだまだ先は長い。

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