グラムの窯の魔創組合(グラムの窯のマギクラフターズ)

枝垂屋

第1話 グラムの窯は本日も─1─

魔創士─マギクラフターと呼ばれる彼等は、様々な魔物の素材や触媒、鉱石などを使い、多種多様な武具、防具、装飾品、はたまた日常生活に必要なありとあらゆるものを創る、この世界においてとても重要な役割を果たす者達である。


小さい頃から魔創士になることが僕の目標であり、夢であり……18歳になった今日、僕は遂に念願の魔創士になるべく、とある街に赴いた……の、だけども……。



「おらおら、あぶねーぞガキンチョ!! どいたどいた!」


「本日発売!! ガランド商会新作の魔法剣はいかがっすかー!!」


「さぁ張った張った!! サムに賭けるなら赤の札、ロイスが勝つと思うなら青の札を渡してくれや!!」



拝啓母上様、すでに僕は怖気づきそうです……






─グラムの窯は本日も─




グラムスケルツォ動力都市─大地に大きく穿たれた広大なクレーター、かつて空から降ってきた巨大な石が開けたとされるその大穴に築かれたこの都市は通称グラムの窯と呼ばれ、地底の熱や辺りに多く存在する鉱脈などで栄える都市である。都市内部はクレータの中心にある巨大な動力炉を主体に曲がりくねった大小様々な配管やバルブ、排熱口がいたるところに張り巡らされ、その隙間を埋めるように数多くの家屋が建設されている、そんな場所だった。


その都市の入口、ちょうどクレーターの縁の部分に設置された巨大な門。それを前にして、僕─アルノール・ゾルディアは途方に暮れていた。


「だからさぁ、許可証がないとこの門からは入れないんだって。此処は業者用、普通に入りたいなら反対側の門から入りな」


「や、だからですね? 僕はこの都市で魔創士になりたくて来たので観光って訳では……」


「ダメダメ! 魔創士になりたいったって、この中の組合にツテだって無いんだろう? それじゃあ話にならないよ。ほら、行った行った! こっちだって忙しいんだ」


門の受付は頑として受け付けてくれない。かれこれ三回目くらいの挑戦だが案の定結果は変わらずのまま……。


「はぁ……許可証が必要って、それ反対側の門でも言われたんだけどなぁ……」


許可証が必要と言うことを知らなかったのは確かにこっちの問題ではあるのだが、反対側でも同じことを言われているのでどうにもしようがない。かと言って都市の周りは高い壁で囲まれており入ろうにも入れない。まさかこんな最初の最初で長年の夢が潰えそうになるとは……。


「はぁ……故郷の人たちに、あれだけ盛大に見送られたからには何としても立派な魔創士にならなくちゃいけないのに……どうしよう……」


はぁ、と、今日何十回目かわからない溜息をつく。何か使えそうなものはないかと鞄の中を漁るも、出てきたものは地図と少しばかりの路銀と旅に必要だった食料の残り、それと護身用の古ボケた剣だけ……これでどうしろというのだろうか……。



門の付近をウロウロすること数刻、解決策が浮かばないまま日も徐々に傾いてきた。


「あー!! もう、どうすればいいんだよー……」


中に入っていく旅団をボーッと眺めつつ途方に暮れる。このまま此処で入れないまま一日過ぎてしまうのか……そんなことを思っていた時だった。


「おう、坊主。そんなところで何黄昏れてんだ」


ふと目の前に落ちる大きな影、しかし自分に声をかけられているとは気付かず、襟首を掴まれて持ち上げられるまで少しの時間を要した。



「うわぁ!? え、な、ななななんですか!?」


ぐいっと持ち上げられる身体、そのまま高く引っ張りあげられる。慌てふためく視線の先には赤銅色の肌の、無骨……そう、まるで大岩のような男の顔があった。


「何っておめぇ、辛気臭そうな顔して門の前をうろちょろしては溜息ばっかついてたら嫌でも気になるだろうがよ」


そう言いながら男は僕を地面に下ろす。


「い、いや……実は魔創士になりたくて、遠くからこの都市に来たは良いんですけど……その、許可証が必要だなんて知らなくて、それで入れなくて困ってて……」



「許可証? 何の話だそりゃあ」


「え? さっき門の受付の人に、許可証が必要だー……って、言われたんですけど……」



きょとんとする男に経緯を説明する。すると話を聞くや、男は突然大笑いしだした。



「ガッハッハッハ!!! そりゃあオメェ、担がれたんだよ」



「…………へ?」



「この都市、グラムの窯はな。ちぃっとばかし荒れてるもんでよ、まぁ見てろ」


「へ? う、うわぁ!?」


そう言うが否や、男は僕のことをヒョイッと担ぐとノシノシと門の方へ向かって行く。


「や、だ、ダメですって!! さっき何回も断られてるんだから!!」



「良いから良いから、おうガストン。元気でやってるか?」


「おおドリューの旦那、お陰さまでな。 お帰りかい?」


「おうよ、それとこの坊主も中に連れてくぞ。あんまりからかってやんなよ?」


「ハッハッハ、了解。悪かったな坊主、中にはいっていいぞ」



「へ?……へ!!?」



先程までの拒否っぷりは何処へやら……すんなり門が開き、僕たちは中に入ることができた。


「……とまぁ、こんなもんだ。まぁ有り体に言えばナメられてたんだな。まァ良くある話だ」


「え、えー……そんなによくあるんですか……」


「さっきも言ったろ? ちぃっとばかし荒れてるってよ。余所もんだったり弱っちそうにみえっと意地のワリィ事されんだ」


門を通り過ぎ、薄暗い通路を通りながら僕は男に説明を受ける。どうにもこの都市は一癖ありそうだ。


「で、そういやおめぇの名前はなんて言うんだ?」


「あ、そ、そうだ! 僕はアールノール・ゾルディア、この都市で魔創士になるためにヘイルウィークから来ました」


「ヘイルウィークってぇと首都の更に先じゃねえか! そりゃあまァいきなり災難だったな……っと、着いたぞ」


と、男が立ち止まる。目の前にあるのは鉄製の門。その門を押し開けると突如吹き込んでくる熱風に思わず顔を覆う。その熱風に驚きながらもうっすらと目を開け、飛び込んできた景色に思わず声を上げる。


「ようこそ、グラムの窯へ。 俺はバンディール・ドリュー、おめぇを歓迎するぜ」


其処は、まるで要塞だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

グラムの窯の魔創組合(グラムの窯のマギクラフターズ) 枝垂屋 @shidreya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ