パレットなSummerFestival!(14)
地面いっぱいに敷かれた夕方の橙色があさぎちゃんの影を長く薄く引っ張って伸ばしていた。
『さよなら』をするまで、もう間もなく。
ぷくっと頬を膨らませる彼女はとても名残惜しそうだ。
「うちがもうちょいお姉さんやったら、もっと遅くまで遊べるのに……」
「あはは、たしかにね。私も、あさぎちゃんとおんなじこと考えてたよ」
そう言ってほのかが不満げなあさぎちゃんの頭を撫でた。
でも、
「でもね?」
彼女はそれから『でもね』と付け加え、真昼に咲く向日葵みたいな眩しい笑顔を浮かべる。
「だから私、こういう時は楽しい約束を作っちゃうの」
「楽しい約束?」
「そう。そうしたらさ、今ある寂しいみたいな気持ち――結構、前向きになったりするからさ」
「ふぅん……?」
こてんと首を傾げたあさぎちゃんの顔には『よくわからない』と書いてあった。
残念ながら、ほのかの伝えたかったことは彼女に上手く伝わらなかったみたいだ。
けれど。
『浅緋、いっぱい思い出作ろう! 四年分くらいさ!』
楽しい約束。
あたしには、それがどんなものなのかわかってしまい、つい口元が緩む。
そして、こちらを向いたほのかと目が合った時、
「ねっ?」
っと、笑いながら同意を求めた彼女に、すかさず「うん」と頷いていた。
「本当に、そうだね」
だけど今……これはあたし達だけにわかれば良いというものじゃない。
だから、まだひとり、頭上に疑問符を浮かべるあさぎちゃんへ、
「じゃあさ、あさぎちゃん。あたし達で今から約束してみない?」
そんな提案を、ひとつ持ち掛けた。
「例えば……あさぎちゃんが中学生になったらさ、今度は一緒に花火大会に行かない?」
次の瞬間。
「花火大会っ?」
ぱあっと、あさぎちゃんの表情が明るくなった。
「それって、ちゃんと夜の花火大会っ?」
興奮気味の声音――この一瞬、彼女の瞳の奥で花火があがったように見えた。
なら、このキラキラした期待は絶対に裏切ることができない。
「もちろん――」
いや、そもそも花火は夜にしかあがらないとも思うけれど。
「――夜の花火だよ」
昼間の花火大会があるかどうかなんて、些細なことだ。
「どうする?」
もう一度、ビーズを散らばらせたようなあさぎちゃんの双眸へと問いかけた。
でも。
「行くっ!」
返事なんて、聞く前からわかっていたけどね。
快活なあさぎちゃんの声色が、深い夕闇へと溶けていく。
勢いよく抱き着いて来た体を受け止めると、あたしを見上げるやわらかな笑顔がよく見えた。
まったく……さっきまで膨れていた頬はどこへやら。
あさぎちゃんが抱えていた不満げな気持ち。
それはもう、たんぽぽの綿毛みたいにどこか遠くへ飛んで行ってしまったようだった。
あさひ色TOPIC 奈名瀬 @nanase-tomoya
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