第四傷
『連続通り魔殺人の犯人は高校生!』
連日その見出しが取りざたされているらしい。
俺は警察に連絡した後、急行した警察に逮捕された。
明里には痛い思いをさせてしまった。それだけが心残りだった。
「いやー最近の若者は怖いですねえ」
取り調べを行う船木が、そう言いながら腰を下ろした。
「私のことの目も潰しますかねえ?」
「明里に害を成すなら、な」
「ひっひっひ、相変わらずのナイト様っぷりですねえ」
船木は不気味に笑う。流石に聞き慣れて来て、あまり不愉快に感じなくなって来た。
「つまり動機はそういうこと、ですかねえ」
「まあな」
「反省の色なしですかねえ? それじゃあ裁判の時に不利になりますよお?」
苦笑いを浮かべながら船木は嫌味を言う。
「明里は大丈夫か?」
船木の口調のせいか、敬語を使う気にはならなくなっていた。
「自分で刺しておいて良く言いますねえ。全治一カ月の大怪我ですよ? ナイト様が聞いて呆れますねえ」
「それに関しては異論はないな。俺も最低だと思う」
「ふーん、そうですか」
俺に態度が気に入らなかったのか、つまらなそうに話を止めた。
「それじゃあ本題に入りましょうか。自白する気があるんでしょう?」
「ああ」
船木が来たのは通り魔事件の担当だったことも勿論あるが、俺が自白すると言ったからだ。
「最初の被害者。指名手配犯の林が殺害された時刻、あなたは月岡さんと一緒だったそうですね。月岡さんが証言していましたよ」
「ああ。それは本当だ。だが、ずっと一緒だった訳じゃない。寝静まった後、俺は衝動に任せて包丁を手に当たりをうろついていた。その時、その指名手配されてる男が女性に暴行しているところだったんだ。こんな奴が街にいたら明里が危ないって思った。それで気づいた時には」
「両目をさっくりと、ですかねえ。怖い怖い」
両手を振って船木は俺の言葉を続けた。
「後の二人は深夜に家を訪ねて、って感じだ」
「うーん。興味深いですねえ。本当に貴方がやったのですか? 月岡さんは自分の犯行だと主張していますよ?」
「いや、明里は俺を庇おうとしているだけだ」
「まあ、そんなところでしょうねえ。あまり言っちゃいけないんですがね、証拠とか結構出て来てましてねえ。日向さんが犯人だと固まりつつありますねえ」
「そうか。良かった」
「変なことを言いますねえ。自分が犯人で良かったと?」
「ああ。殺した記憶はあるんだけど、半分無意識のうちに殺してたんだ」
「無意識、ですか?」
船木は怪訝な顔で俺の発言を聞き返す。
「寝ている内にっていうのが近いかな。夢遊病みたいな感じだと思う。殺した時の意識はほとんど無かったんだ」
「……」
顎を抑えながら船木は俺の話に聞き入っている。
「最初は俺の異常性癖、傷跡が好きってのが暴走しちまってると思ってた。だけど、今は傷痕好きってのは無くなっちまった。明里いわく、傷は俺達の絆だと。再会した俺達には傷なんて目に映る絆は、もう不要だと。ほら」
そう言いながら船木に左手を見せる。
「傷が治っていますねえ。これが?」
「俺が物心ついた頃からずっとあった傷だったんだ。それが明里と再開してから治るまで放っておいたんだ。そんなの俺にとっては有り得ないことだったんだがな」
苦笑いを浮かべながら頭をかく。
「これは通り魔殺人を行っていたから、俺の欲求が満たされたと思ってたんだが、明里と再開出来たことで俺の傷(穴)が埋まったんだってさ。そう言われて納得出来たよ。今はこうして拘留されて傷に触れる機会はないが、欲求は満たされている。明里がいるからな」
「若い人の恋愛なんてオジサンには甘すぎますねえ。殺人なんてしてるから青春、とは言えませんがねえ」
そう言うと調書をまとめ終えたのか、船木は手帳を閉じて立ち上がった。
「今日はこれくらいにしておきましょう。また伺いますよ」
「わかった」
船木が帰り、俺は留置場に入れられる。明里は入院しているらしく、面会には来れないと船木は言っていた。
だが会えなくても俺は大丈夫だ。殺人欲求みたいなものも感じない。
左手を見る。
もう傷が広がることはない。
俺の傷は満たされたのだから。
傷痕 野黒鍵 @yaguro_ken
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