15.息が苦しい

(※作者注 R15くらいで…?)




 息が苦しい。

 侵入はいってくる彼の太い舌も。

 目の前で嚥下するたびに上下に動く、喉仏も。

 見た目も感触も、リアルで息苦しい。

 しかし、こんなに恍惚となる息苦しさは初めてだと散太は思う。

 唾を飲み込もうとごくりと喉を鳴らした際に、時雨の口内と自分の口内が摩擦して、ざらついた刺激がまた生まれた。


「んあ……」

 散太が喘ぎ声を漏らすと、自分の上に乗っかって息を弾ませる時雨が謝った。

「あ、ごめ……」

「……いいよ。」

 言葉とは裏腹に、彼の眼は充血しているように見える。

 まるでけものみたいだ。それどころか、動物でもなかったくせに。


「あ、痛って……!」

「…………悪り。」

 ゴブラン織りの花柄のソファの上に身体を挟まれて、散太は悲鳴を上げた。

「身体中、みしみしうんだよ。肩も痛いし腕上げても痛いし……」

 時雨の骨太な身体が当たって散太が文句を言うと、時雨はその広い手の平で散太の身体を服の上からさする。

「腰も痛いし、お前に負ぶわれてからまたも痛いし……」

「股とか言うな。」

 散太は雰囲気を和ませたついでに、曖昧にこの場を反故にしてしまおうかと企んでいたが、その企みは失敗に終わりそうだ。

 ぴしゃりと叱られ、散太は一時口を噤んだが、また軽口を叩きだした。

 そうでもしないと、胸の早鐘が鳴って落ち着かない。


「俺、身体硬いんだよ……」

「男だからな。股ってここか?」

「うぉあっ!?」

 時雨の膝が、縦の一文字につつ、と散太の股間を着衣の上からなぞり上げてゆく。

 裏筋が見事に反り返っている。散太は恥ずかしさで口を押さえながら抗議するが説得力がない。

「ぅわっ、……や、止め」

「これで止めろって……、説得力がない。」

 その通りである。散太は口を押さえながら押し黙った。その間も、時雨はごしごしと脚の間を擦ってゆく。


 思えば、嫌悪感などとうの昔から無いのである。

 カラオケボックスの密室にふたり籠って眠っても。寝起きのままファミレスで面付き合わせて飯を食っても。

 漫画喫茶で時間を潰しても。老人になった姿を見られても。

 二人で一つのケーキを食っても。……いつもこの部屋で、二人でいても。

 どうして自分はこの男と二人でいるのだろう。いつから?

 散太は考えるが、肉体の刺激がそれに勝る。


「時雨……、ちょっとだけ、痛い……」

「あ、悪ぃ……」

 片脚を浮かせるのがきついのだろう、だんだんと散太の局部に体重がかかって来て、散太は堪らず弱音を吐いた。

 押し潰すようにされても散太の股間が衰える気配は無かったが。散太はそれに自分で呟いた。

「おかしいの……」

「何……?」

「何でも、ないけど……」

 散太は困って横を向いた。自分に覆い被さる時雨を直視できない。

 散太の、青いチェックのネルシャツの襟は第二ボタンまで開いていて鎖骨が見える。それで彼を誘っていると思われるのは癪だったが、今更留め直すことも出来ない。

 自分を見る時雨の視線を、散太は目を逸らしながら意識していた。

「じゃあ、脱がせてもいい……?」

 そう言ってごくりと喉を鳴らし、自分のウエストにとうとう手を掛けた時雨の手の感触に、散太はぞくりとした。脇から首の辺りまで肌が粟立った。


「しゃ、シャワーも浴びてない」

「うん」

 そう言って、時雨は散太の上に跨りながら、着ていた黒いセーターを脱いだ。

 それから、再び散太の上に覆い被さる。散太は首を捩って逃げる。

「どうする気……」

 散太が首を反対側に背けても、時雨が負けじと追ってくる。訝し気に散太に聞く。

「キス、嫌いか?」

 そう言われて、散太は燃えるように頬が熱くなった。

 今日が初めてだから好きも嫌いも解らないのだ。時雨もそれくらい知っているくせにと、散太は彼を意地悪に思う。

「嫌なら、しないけど」

 焦らすようにでも、からかうようにでもなく大真面目に自分にそう言うから、散太は小さな声で答えた。

「嫌いじゃ、ないけど」

 どうしたら良いか解らないのだ。泣きそうになりながら散太が答えると、時雨が臆面もなく言う。

「全部飲み込んじまえばいいんだよ。俺のも、お前のも、全部」

 それはつまり、境界線を曖昧にしろということか。

 戸惑いながらも、散太が時雨の言ったことを反芻しているうちに、時雨は再び散太にキスをする。摩擦にびりびりと震えながらも、今度は上手にキスを受ける。


 時雨は次に、身体の境界線を曖昧にするかのごとく、散太の服の隙間から侵入を始める。

 シャツのボタンの隙間から指を入れ、逞しく挿し入れた指がボタンを飛ばす寸前で、今度はいとも繊細にそれをほどく。

 散太は、時雨がこんな技術テクニークを持っていることをこの日初めて知った。

 見とれているうちに、散太の青いシャツのボタンは全て解かれた。

 だが、時雨は全て服を脱がそうとはしなかった。

 そうして散太の服も時雨の服も解き切らず、服の末端が二人の肌をくすぐる中で、時雨は散太の身体に触れる。

 時雨が触れたのは表面だけだったが、散太にはそれで十分だった。

 彼の出したものは、彼の言葉の通り、時雨のも、散太のも、解らないくらいに混ぜこぜになった。


「寒……」

「うん。」


 夜が明けた頃、寝室から持って来た一枚の毛布に二人はソファの上でくるまっていた。

 暖炉の薪は燃え尽き、早朝に白んだ部屋は冷えようとしていた。

 

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恋ふる聖夜 大栗もなか @monaka

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