神様少女
その少女は、自分は神様に愛されていると思っていました。
たとえば、遠足の日に晴れてほしいと願えば、天気予報がいくら雨を主張しようとも、空は雲ひとつない快晴となりました。ハンバーグが食べたいなと思えば、魚を買いに行った筈の母親が、安売りしていたお肉を買ってくるのでした。
叶うのは、そんなささやかな願い事でした。
けれど幼い少女にとって、「ささやかなこと」は人生でとても大きなことであり、それが自分の思い通りになるというのは、まるで世界が自分の自由になるような、そんな感覚なのでした。
わたし、かみさまにきにいられているんだわ。
少女は、隣に住んでいた幼馴染に、神様の話をしました。だれにもひみつよ。幼馴染の男の子は、少女と同い年でした。だけど、少女よりも大人だと、見せたがるところがありました。年の離れた兄をもつ彼には、年上という存在への憧れがあったのでしょう。そんな彼は、少女にこう答えるのでした。
そんなの、こどもだましだな!
子供騙しの意味もよく分かっていませんでしたが、なんとなく、神というのは実在しないのだと知っていて、なんとなく、こういう時はこどもだましと言うんだと思っていました。
そういうの、ウソっていうんだぜ! おれ、おとなだから、しってるんだぞ!
少女はショックを受けました。……本当のことを言えば、周りの大人達が思っているよりも少女は利口なのでした。神様の話なんてしたって、信じてもらえないのは分かっていたのでした。だから、だからこそ、幼馴染に告げたのでした。仲の良い彼なら、自分の話を信じてくれる筈だったから。
…ホントウだもん。……あんたなんか、いなくなっちゃえ。
幼馴染は数日後、父親の仕事の都合で、遠くへ引っ越していきました。
それから、何年もの時が流れ、少女は高校生へと成長していました。
もう、自分が神様に愛されているのだとは、思っていません。
ところで、驚くことがありました。あの幼馴染が、帰ってきていたのです。高校で少女と再会した彼は、昔のことを謝りました。もう忘れてるかもしんないけど、昔、ウソって言ってごめんな。少女は、何も忘れていませんでした。そして、笑って言うのでした。
いいよ、嘘ついたのは私だもん。
少女は彼に、一緒に帰ろうと言いました。だけど彼は断ります。今の家、昔住んでたとこと方向違うんだ、お前住所変わってないだろ?
それを聞いて彼女は言いました。
大丈夫だよ、近道作るから。
少女は彼を連れて、空き教室に行きました。そして黒板にチョークで線をひき、出来あがった大きな四角形を、指でつまんでぺりぺり剥がしました。黒板には四角い穴が開き、その向こうには、少女の家が見えていました。
ほら、こんな風に作れるから。
彼には、何が起こったのか分かりませんでした。彼女は笑って、話すのでした。
ごめんね、昔、変なこと言って。でもあの時は私、本当に、神様に愛されているって、思ってたんだよ。でも、そんな訳ないんだよね。
だって私、ナルシストじゃないもん。
掌編集 月山 @momosui
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