エピローグ。

終章








 つらいとき。


 悲しいとき。


 いつも文章にぶつけている自分がいた。





 コトバは、玉手箱。

 つらい気持ちも悲しい気持ちも、ぜんぶ詰め込んで保存できる。



 思い通りにならない歯車の中で。

 負の感情は何もかも二次元に置き換えて、後は我慢。


 それがいいと思っていた。




 だけど人間、どんなに表現が巧みでも誤魔化し通せない事はある。

 ある日、そこに込められたさけびを自分以外の人に見つけられて。

 周囲への詐り、己への欺瞞、

 全てが融け落ちてキーボードに染み込んだ。



「苦しみをコトバに換えるのは、大切なこと。

 でも、それを隠し持つ必要はないんだよ。

 怖がらないで、見せてごらん。読んでごらん。託してごらん」


 そう言って、彼はわらった。




 もう、逃げるのは嫌だった。

 本当はずっと、吐き出す先が欲しかった。

 無機物でない相手が。

 溢れた泪を受け止めてくれる、手が。


 でも、今はそれが傍にいる。

 いや。本当はもっと前から、目の前にあったのだ。


 そう気づいた時、世界がまた少し、ひらけたような気がした。





 キモチを伝えるのは、難しい。


 時には跳ね返され、

 時にはかき消される。

 どんなことをしても、無駄に終わることだってある。



 それでも、

 例え声が届かなくても、

 彼方どこかの誰かに伝えたい、強い思いがある。


 そんな時のために、文章コトバがある。物語ストーリーがある。





 伝えたい思いも感情も、たしかにここにある。

 書くための手も、言うための口も揃っている。

 誰かに自分をられる覚悟も、もう万全だ。




 再び、

 筆を取る。

 冷たくて優しい感覚が、戻ってきた。






『某月某日


 今日、嫌なことがあった。────』














──おかえり。



 自分で書いたその文字が、

 私にわらいかけていた。








fin


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テガミ 蒼原悠 @shakefry

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