第6話 元の世界に帰るために

「「元の世界には帰れない!?」」

「悪いがな。そういうものだ」


闘技場での戦闘後、控室で長時間待たされ、その後例の少年の前に連れられたあげく、告げられた言葉は酷い現実だった。

何でも1つ願いを叶えてくれるとは、嘘だったのかと俺と桐生で抗議する。


「そういうものってなんだよ!ちゃんと説明しろ!」

「そもそも勝手に呼んどいて帰せないって詐欺じゃない!」

「……貴様らな。仮にも魔王の前だぞ。少しは態度を改めろよ」


目の前の角付き少年が何かを言っているが、よくわからない。

俺達の目の前には少年一人しかいないのだから。



そう、彼一人しか。





そう、彼一人しかいない。



「…………え、魔王?お前がその、RPGとかに出てくる?」

「あーるぴ……?それはよくわからんが我がその魔王だ」


マジでかと口をあんぐりとあけているのもその魔王は気にせず、


「貴様らを呼んだ時の目的は、『勇者を殺すこと』。つまり、勇者を殺せたらお前達は元の世界に戻れる。逆に言えば、勇者を殺せない限り、お前達は一生この世界で暮らすこととなる」


そういう契約だ。と、見に覚えのない契約を聞かされた。詐欺以外の何物でもない。

隣の桐生も怒りをあらわにしようとしたところで、俺と桐生の身体が光りだす。


「とはいえ、まずはこの世界を知らんと話しにもならん。人間世界の街を見て来い。その中で勇者と会うことでもあれば殺してこい」

「はぁ?いや、俺らやるなんて一言もーー」

「元の世界に、帰りたいのだろう?」


身体がどんどん光となって消えていく。

このまま現実世界に帰れるほど甘くはないのだろう。

目の前の少年を殴ろうとしてもそこに走っていく足がもうない。


「サポートとして1人派遣するから生活やこの世界のことはそいつに聞け。そうそう。遅れたがミノタウロスを倒したのは見事。期待してるぞ?勇者殺し」

「待ちなさいよ……話をーー!」


だめだ。身体が消えると同時に意識も薄れる。

横にいる桐生も同じように消えてるんだろう。振り向く余裕もないが、声の勢いが消えていってる。

もうダメだと意識が手放される寸前、


「……悪いがな、こちらも手段を選んでられないほど、もう時間はないのだ」


最後に聞こえたのは、少年の消え入りそうな言葉だった。

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さあ、勇者を倒しにいこう 波樹 純 @yosabito

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