《3》 七星降り立つ!

 酒を酌み交わしながら、騒ぐ人々。軽く流れる音楽。軽やかな足取りで注文を取り、グラスを届けるウェイターたちの姿に、2人の少年は目を輝かせ、その隣で蒼月は絶望してるのではないか、というくらい落ち込み、カウンターテーブルに突っ伏した。

「うわ~初めて来たけど……すげーな、酒場って」

「バカっ! あんまり大声出すな、セイト。子ども《ガキ》ってバレたら、追い出させるっての!」

「そ、そうだなっ……なら、大人しく」

「どちらでも同じだ、セイト、紅陽。それと、酒場ここは昼間は家族向けに開いてる店だから、子どもがいても問題はない」

 初めて来たバーに緊張して、若干興奮気味だったセイトと紅陽は呆れまくった蒼月のツッコミに、しぼんだ風船のごとく、シュンと大人しくなる。

 やれやれ、と大きく肩を落とす蒼月に、ウェイトレスがおかしそうに体を震わせながら、テーブルに頼んだ酒とお子様向けのノンアルコールカクテルを置くと、足早に引き上げていく。

 それとなく、様子をうかがっていた連中も噴出さんばかりに肩を震わせつつも、知らぬふりを通してくれたのが、ありがたくも情けなく、蒼月は琥珀色の酒が注がれたグラスを手に取る。それを合図に、目を輝かせたセイトはエメラルドグリーンに煌めくソーダに口を付け、一気に飲み干す。

「プッ……ハァー、うまいっ!」

「うまい……って、お前、どっかのオヤジみたいにソーダ飲むなよっ!」

「いいじゃん、うまいもんはうまいんだからさ。つか、紅陽は飲まないのかよ?」

「俺は味わいながら飲むの! お前とちがうわっ」

「なに~~」

 ギャンギャンと子犬のように言い合うお子様コンビに、冷静さが売りの蒼月もさすがに泣きたくなった、というか、激しく後悔していた。

 

「酒場にいくぅぅぅぅぅぅ?!」

「お前、今がどういう状況か、分かってんのかよぉぉぉぉぉぉぉっ」

「護衛は足りてるだろ? この近くのライブバーに顔を出すぐらいだし、俺一人で充分だ。情報も欲しいし」

 外套を着直し、軽装で出かけようとする蒼月に碓氷と羅瀬は顎を外さんばかり、驚くも、蒼月はあっさりと無視し、さっさと出かけようとする。

 拠点を持っている『火鷹』でも、大陸中を旅し、一所に落ち着くことはない。そういう場合、最も重要となるのが、情報。

 小さな噂話から傭兵・護衛募集など、様々な情報の中から、必要なものを集めていくことが重要……などと、大げさに言っているが、要するに、ご近所の奥様同士の噂だろうが、旅の必需品から生活用品のタイムセールだろうが、なんだろうが、メシの種になりそうなことは、自分たちでかき集めなければ生きていけない。それが冒険者・傭兵たちの宿命。

 まぁ、多くは傭兵・武装集団の組合ギルドに所属していれば、レベルに合わせて、仕事を紹介してくれたりするから、最低限は困らない。ちなみに超問題児のお騒がせ人間のファティナもギルドに所属しているお陰で、単発・短期の仕事に在りつけてるわけである。

 ともあれ、そのギルドという有り難い存在があるとはいえ、ある程度、高難度の仕事になると、自分たちで情報収集するのが鉄則。

 で、情報を集めて、売り物にしてる情報屋もいるのは当然で、そいつらが集まりやすい――つーか、人が多く集まるのが酒場なので、必然的に彼ら情報屋もいるわけである。

 なので、毎回、新しい街に移動したりすると、手分けして、酒場を回って、情報屋から情報を買っているので、別に問題になるわけでもないのだが、今回――このエンジュでの仕事は別だ。

 なにせ数週間前に、ギルドを通して、首相・セラト護衛の依頼があり、それを『火鷹』として受けたのだ。『諸王会議』が終わるまで食いっぱぐれることはないし、拠点に困ることもない。

 だというのに、わざわざ行く必要などないのに、蒼月は出かけようとしていた。

「ほんの3時間程度だ。何かあったら、すぐに戻ってくる」

「だからってな」

「行かせてやれよ、碓氷。蒼月だって飲みたい時もあるんだ」

食ってかかる碓氷をわけ知り顔のカイが制止をかける。その顔がなんだか全てを見透かしているようで、居心地が悪く、そそくさと宿を出ようとして……待ち構えていたセイトと紅陽に捕まった。

「何か用か?紅陽」

「俺じゃないよ!兄さん!セイトのバカが」

「な、何言ってんだよ!紅陽が蒼月兄さんに話しがしたいって、騒いだんじゃないかよ!」

仲がいいくせに、ケンカする2人に呆れつつ、蒼月は改めて尋ねた。

「ケンカするなら、話は聞かない……で、何の用だ?紅陽、セイト君」

蒼月に睨まれて、2人は気まずそうに顔を見合わせ――申し合わせたようにうなずいて、同時に口を開く。

「俺たちも酒場に連れてって!蒼月兄さん」

「俺も情報集めの手伝いさせて!」

にっこりと、笑顔全開で頼んでくるセイトと紅陽を前に、しばし蒼月は黙り込んだ後、がっくりと膝をついた。


 正直に言えば、蒼月は普段、紅陽はもちろん、首相の息子であるセイトに厳しく接している……つもりだ。つもりでいるが、首相夫人から見れば、結構甘い。

 それはそれで仕方がないことである。なにせ、蒼月と紅陽は『イヅキ』一族最後の生き残りにして、たった二人っきりの兄弟で家族だ。

 だが、蒼月は一族の真相を探るために『火鷹』の一員として大陸中を旅し、戻ってくるのは年に1、2度あるかないか。だから、自然と紅陽に甘くなってしまうのは当然のことかもしれないが、セイトまでに甘いのは、やはり弟のような存在だけでなく、恩人の息子と思っているからだ。

 蒼月が旅に出ている間、一人っきりになってしまう紅陽をセラトが不憫に思い、家族として面倒を見てくれている。それどころか、帰ってくる蒼月を息子として迎えてくれる。申し訳なく思うとともに、とてもありがたい。

 セラトとその家族には、返しきれないほどの恩があると思っている……だから、2人を夜の酒場に連れてきてしまったが、今は半端じゃなく後悔していた。

「だ~いっつもバカにしやがって!」

「うるさいっ、お前がガキ過ぎるんだ。それでよくもセラト様の跡継ぎやってられるな?!」

「あああっ?! 父さんは関係ねーだろーがっ!!」

「うっせー、少しは黙れ」

 お決まりの言い合いが始まったかと思うと、わずか3秒後、取っ組み合いのケンカに発展。ひしめき合う人々なんて目もくれず、床の上を転がって、殴る蹴るのお騒ぎ。

 その姿に蒼月は頭痛を覚えつつ、2人の襟首をつかむと、手加減無用に引きはがし、宙ぶらりんに吊り上げる。

「いい加減にしろ、2人とも。これ以上騒ぐなら、帰ってもらうぞ!」

「えええええええっ!!」

「ええええ、じゃない。ここは子供がケンカするところじゃないんだ。お前たちは何しに来たんだ?」

若干、目を座らせた蒼月が訊くと、セイトと紅陽は真っ青になって、ごめんなさいと即座に謝罪した。普段はすごく優しいだけに、怒ると並はずれて恐ろしい蒼月の逆鱗に触れかけていたことを察し、平謝りするしかなかった。

と、その瞬間、大きなピアノの音が鳴り響いたかと思うと、それに重なるように、女の歌声が響く。

弾かれたように3人が酒場の中央――ステージを見ると、シックな銀のドレスに身を包んだ女―レティアが歌い始めていた。

ざわめいていた店内が、水を打ったように静まり、ステージで歌うレティアに誰もが魅入られ――しばらくすると、冷やかしの口笛や野次が飛ぶ。

だが、そんなことに目もくれず、レティアは力強く、人気のあるロック調の歌を歌い、時折、客たちに声をかけるなどして、盛り上げることも忘れない、といった場馴れしたステージ力は見事だった。

1曲を歌い上げた途端、すさまじい拍手が沸き起こり、その迫力に蒼月は一瞬圧倒されるが、その視線はレティアから外さなかった。

―人を惹きつけてやまない歌声はさすが、というところか……だが、それ以上に、この立ち姿、顔立ち……間違いない、彼女は

記憶の中の少女と目の前でステージを去ろうとする女が一致した瞬間、蒼月は慌ててステージに向かおうとし――情けなくも、思いっきり服を引かれ、前のめりにつんのめり……そのまま床に顔面から激突するはめになった。


「な、なんだぁ~」

「ばっかじゃね―の? こいつ」

「に、兄さん!!」

「ぎゃはははははっ!! なんだよ、お子様連れかよ!? ウケるぜぇ、マジ」

間抜けた蒼月の姿をあざけり、大笑いするガラの悪そうな男たち。

恥ずかしさと怒りで、真っ赤になりながら、倒れた蒼月を助け起こす紅陽を男たちは標的にして、指をさし、更に大笑いする。

「おいおい、いくら家族連れもいるっていっても、いい年した男がガキ2人の引率なんて……ワラエネー」

「ひぃっっひひひひひひ、オニイチャン、弟君たちが心配してまちゅよ」

「さっさと出てけ。ガキ連れなんてめーわくなんだよっ!!」

ゲラゲラ、と品なく大笑いしながら、バカにしてくる―どこかの武装集団らしい―重厚な武装した男たちに、紅陽は悔しそうに真っ赤なって睨むが、歯牙にもかけられない。

ぐっと唇をかみしめる弟の頭をポンとたたき、蒼月は気にするな、とつぶやきながら、相手の男たちを見て―小さく息を吐き出した。

先ほど、自分の服を掴んで引き倒したのは、間違いなくこの連中だと気づいていたが、これ以上の騒ぎを起こすのは得策ではない。

自分たち兄弟だけではなく、恩人で首相の一人息子であるセイトが一緒、とそこまで蒼月が考えをめぐらせた瞬間、金色の小柄な塊が男たちに突撃していくのが見え、慌てて止めようとしたが間に合わなかった。

「蒼月の兄さんをバカにすんなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「げほぉぉぉっ!!」

男たちの中でリーダー格らしい、まだ笑っていた男の腹に強烈なヘッドダイビングを決め、睨みつけるセイトに一瞬、あっけに取られていた男たちだったが、すぐに事態をのみ込み、殺気立つ。

「テメッ! ガキのくせに何しやがる!」

「うっせーっ! 蒼月の兄さんのこと、知らなねーくせにバカにすんなっ!!」

「んだとっ、オラ」

「おい、蒼月っつたな? まさか『火鷹』の蒼月かよ」

「おいおいっ、あの孤高の蒼月がガキのお守りとは、笑わせんぜっ!!」

腹に一撃入れられたリーダーは怒りを爆発させ、セイトを掴みあげる。

普通の子なら、そこで恐怖して凍りつくか、泣き出すかのどちらかだが、セイトは負けじと言い返す。

だが、襟首をつかみあげられ、宙づりになりながらも、向かっていこうとするセイトを男たちは床に叩きつけ、寄ってたかって、殴る蹴るの暴力を振るう。

弱い者に容赦ない連中に、穏便にすませようと仲裁に入りかけた店主と店員たちは青ざめて、その場から動けなくなり、周囲にいた客たちも青ざめ、非難のまなざしを向けつつも、男たちに対する恐怖から、そこに縫いとめられたように微動だにできない。

「よせ、その子は関係……」

「うっせーんだよ、蒼月ぃぃぃぃ。ガキを助けたかったら、大人しくしてな」

「っ!! なんだよ、放せっ!!」

「テメーは人質だ。蒼月の弟だろ? よく似てんからよ」

慌てて駆け寄ろうとした蒼月だったが、いつの間にか背後に回り込んでいた男の仲間らしい――同じ武装を着たガラの悪い、頬にイモリの入れ墨をした男たちに抑え込まれ、紅陽も羽交い絞めにされ、振りほどこうと足をばたつかせるが、何の効果もなかった。

「お、お客様っ、他の方々にも迷惑になりますし、ここはどうか穏便に」

「るせぇぇぇぇぇ、俺らは大国『レイキョウ国家連合』守護騎士団!少しばかり名が売れた武装集団や出しゃばりの小国がどうこう騒ぐなってんだよっ!!」

なけなしの勇気をかき集め、割って入った店員を恫喝し、いい年した男たちの一方的な暴力を受け、ぼろぼろになったセイトの頭を鷲掴みにして、皆に見えるように高々とつるし上げるリーダーに仲間の男たちは意味不明な雄たけびを上げ、騒ぎ立てる。

あまりのむごい仕打ちに、客たちは震えあがり、声も出ず、床に押さえつけられた蒼月は怒り狂い、抵抗するが、相手が数人―しかも、力自慢らしく、筋骨隆々の男たちで歯が立たない。

「放せっ、放せよ!! 卑怯者っっっ!!」

「あ~誰が卑怯だっうのぉぉぉ!」

顔を赤くはれ上がらせたセイト。無頼者のとしか言えない連中に押さえつけられた兄。なんとか助けようと暴れる紅陽を男の一人が拳を振り下ろす。

周囲から悲鳴が起こり、女性客たちは手で顔を覆う。


ふっと、白い風が人々の間を駆け抜けた。


一瞬何が起こったのか、蒼月はすぐには理解できなかった。だが、自分と弟を押さえつけ、危害を加えようとした男たちは苦悶の表情で倒れ、どす黒くはれ上がった腕や足、急所のみぞおちあたりを押さえて、のた打ち回る姿。

「子供相手に何の騒ぎだ? お前らのような無頼者バカモノたちが好き勝手していい場所ではない……失せろ」

いつの間助け出したのか、訳のわからないといった表情で床に尻もちをついたセイトを守るように、背にかばう1人の人間。

しかも、その周囲には白目をむいて、気絶した男たちが倒れている。

白い外套に頭からスッポリとフードを被り、表情を窺えないが、これ以上の暴力を振るわせないように腕を掴んで放さない。

掴むのは、細い腕で振りほどくことも出来そうなのに、リーダーの男は冷や汗をかきながら、1ミリも動くことが出来ない。

「テ、メ……!」

「レイキョウの騎士団、と言ったか?なら、レイキョウも落ちたもんだ……弱い者たち相手に乱暴狼藉……貴様らこそ、ガキだな」

穏やか過ぎる口調。だが、リーダーの男はそれだけで腰を抜かし、真っ青な顔で腕をつかんで離さない相手を見上げ―この世の終わりに遭遇したかのごとく、恐怖で引きつった。

「おおおおおおおおっお前っ……し、しち」

「へぇ、気づいたか」

泡を吹きつつ、青を通り越して、すでに真っ白となりかけるリーダーの男に、相手は面白そうに、口元の端を上げた瞬間。

その姿が掻き消え、鋭く輝く短剣が通り抜ける。とてつもなく派手な音を立てて、ひっくり返ったリーダーの男は―先ほどまでの威張り散らした、高圧的な態度をかなぐり捨て―派手な音を立てて、店の外に逃げ出そうとする。

見えも恥もなく、腰を抜かしたまま、出口へ向かおうとする男の前に見慣れない一対の脛当てが2つ、突如現れ、その行く手を阻まれる。

別の意味で、恐怖したのか、がちがちと歯を鳴らし、視線を上げ、今度こそ男は絶叫し、ひれ伏した。

「何をしている、貴様」

「おおおおおおおおおおお許しを!」

「従業員の方が知らせてくださったんですよ。我が国の騎士団員が乱暴狼藉をしている、とね」

だが、見る限り、お前の方がやられていたようだが、と不機嫌全開にした黒一色の軽装鎧の男と、困ったな、とつぶやきながら、あからさまな侮蔑を浮かべた紅い肩当てに黒い外套の青年は、一瞬にしてステージの上に移動した白の外套姿の人物を認め―店中の者たちが皆一様にして―息を飲んだ。

「危ないな、レイキョウの騎士」

投げつけられた短剣を弄ぶ、少しくすんだ金の髪。楽しそうにつぶやく若干高めの声からして、まだ少年。だが、それ以上に目を引いたのは、取れたフードの下から現れたのは、金の縁取りが施された白の―顔の上半分を隠す半仮面ハーフマスク

その特徴的な仮面を誰もが知っていた。

「まぁいい……これ以上、騒ぎを起こすな。弱い者いじめなど、ガキのやることだ」

「し……七星・神極しんきょく

呻きにも似た−妙な興奮に彩られた声がどこから上がり、さざめきが広がる。

―神極だ。あの七星の!

―七星最強の?!

―嘘だろ?なんでこんなとこに!?

―スゲー、神極が出でくるなんて信じらんねー!

尊敬と畏敬。憧れと恐れ。相反する感情が交錯する場の空気を断ち切ったのは、軽装鎧の―レイキョウの騎士。

溜め込んだ重い息を吐き出し−足元で腰を抜かした男とその仲間たちをギロリと睨み付けた。

「バカどもがっ!貴様ら、どこの」

「ゴウサ、だよ。騎士団長。ま、早いとこ片付けないと、元お仲間の我が侭大王が来るぜ」

怒りまかせの詰問を遮ったのは、クッククと楽しそうに喉を鳴らす神極。

ムカッとしたのは、一瞬。ついで言葉の意味を理解して、頬を盛大に引きつらせた。

「なんでしっ……いや、あのがいるのか?!」

「派手に騒いでたぜ?こーゆーの好きだからな」

じゃあな、の一言を残し、一陣の風が吹き抜けた瞬間、神極の姿は掻き消えた。

入れ替わるように、ドアが蹴破られ、一つの影が飛び込む。

「乱闘だって?おもしろい……このファティナ様が……って、あれ?」

嬉々とした表情で、殴り込んできたファティナは、すでに収束した状況に首をかしげ、周囲を見回し――騎士団長たちは、青ざめた表情で頬を引きつらせ、ゲッと声を上げるが、意に介さないファティナは両手を上げた。

「よー、クロム、創じゃん!ひっさしぶり~元気そうだね」

「マジで居やがった、大迷惑王女。お呼びじゃねーっての」

「何のことか、わかりませんね、シュレイセの王女殿下。店主殿、我が騎士団の者たちがご迷惑をおかけした。けが人の治療費、店の修理代などの損害はこちらで負担させていただくので、後日、ご請求をお願いします」

「って、おい!丸無視かよっ、創」

「警備隊を呼んだ。騒ぎを起こした者たちを引き渡してくれて構わん。他国の者に危害を加えるなど、あってはならん」

ギャンギャンと文句を言いまくるファティナをきれいに無視して、レイキョウの騎士団長―クロムと参謀である創は恐縮しまくる店主に頭を下げ、騒動の元凶たちを一喝し、ファティナに遅れた駆けつけた警備隊に容赦なく引き渡した。

「だぁ~お前ら、人を」

「レイキョウ騎士団、東方騎士団長と参謀……か」

「ご無礼をした『火鷹』の蒼月殿。貴殿の弟君はご無事か?」

いきり立って、文句を言おうとしたファティナを放っておき、頬についた汚れを払って立ち上がった蒼月に創が手を差し出した瞬間、紅陽が大声を上げた。

「うわぁぁぁぁぁぁっぁぁあああっ!兄さんっ、セイトがいないぃぃぃぃぃぃ!」

慌てて周囲を見渡す蒼月たち。だが、そこに威勢の良い金髪の少年の姿なく、周囲にいた客たちも騒ぎ出す。

あの温厚だが、誰よりも計算高い―このエンジュ首相をミニマムサイズにした―元気のよい少年の姿がいつの間に消えたのか、と。

が、さらにそこへ爆弾を放り込んだのは、能天気なファティナの一言だった。

「あ、セイトの奴なら、なんかすっげー楽しそうな顔して出てったぞ。でもさ、あいつって、『エンジュ』首相の子息だろ?命狙われてんじゃなかったけ」

あっけらかんとしたセリフに、蒼月やクロムたちだけではなく、客―特に大人たちが凍りつき―慌てふためいて、外へと駆け出して行った。


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七星紀伝~星の後継と破天荒王女 神楽 とも @Tomo-kagura

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