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マネージャーさんと入れ違いで、ジャケットを羽織った春馬がやってきて
「待った?」
いつもと同じ眼差しで、私を見て笑った。
ダメだ。
私の中で、悲しみなのか怒りなのか……ごちゃ混ぜになった感情が湧き上がる。
「聞いてない……」
掠れた声。
自分の声じゃないみたい。
「……美雪?」
「私、聞いてないよっ。今日は春馬の事務所の役員さん達に挨拶するって聞いてたのに。……メンバーの方にもだなんて」
「……美雪、いつかは話すんだから。本来なら1番に伝えたかったくらいだったんだし」
「……それが出来ないのは、私と和の関係があったからでしょ?」
「まぁ、そうだね。だから俺なりにイチには2人で飲みに言ったとき、醸し出してはいるよ。やっぱ、他のメンバーと同じようにダイレクトはマズイと思ったし」
「私は、ちゃんと自分から伝えたかった。春馬にも何度もお願いしたよね。でも、ダメって……だから今じゃないんだなって思って……」
春馬は、そっと近づいて私の髪を撫でる。
「……自分勝手だったかもしれない。それゆえ、強引にもなった。けど、美雪には俺だけを見ていてほしい」
落ち着いた声で、そう言った。
春馬は私の宥め方を熟知している。
感情に振り回される私を、冷静にゆっくりと導く。
だから、喧嘩なんて……こうやって、すぐに溶かしてしまう。
「……でも……」
「美雪は優しいから」
「……優しい……だなんて」
そんな、私は優しくないよ。
「……美雪は、俺より……イチを考えて、俺じゃなくイチに優しさを使うの?」
「……そんな事ない。春馬を考えてるよ。ただ……」
「美雪、優しさはね、時に残酷な罪となるんだよ。俺は、そんな美雪の揺れる心ごと、受け止めるから」
春馬は、そういうと私を両手で抱きしめて前髪を掻き分けて、おでこにキスをした。
「俺の一生をかけて、幸せにする」
罪という言葉の重さを感じながら
私は、自分の意思で会議室に続く廊下を歩いたけれど、心には徐々に不安が募る。
「……春馬……、私……」
「……じゃあ、先に俺がみんなに話すよ。で、呼ぶから。そうしたら来てよ。今日は顔見せ程度で構わないから」
「……うん、分かった」
胸の内は、まだ複雑。それに増して緊張が占めていく。
私は、小さい頃からみんなの前で発表したりすることが苦手だった事を思い出していた。
現実逃避なのかもしれない。
春馬と結婚することは、とても嬉しい。初めて幸せにすると言われて、ときめきさえ感じた。
今は、それに浸り浮かれたい。
でも、私の恋は罪となり
春馬も和も……みんなを傷つけていた。
曖昧な事情と都合 西下 牧甫 @makiho
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