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会食は和やかな雰囲気のまま、最終的には、私の隣で専務は春馬と手を取りあい握手をしていた。


「今日は、僕たちの為にお時間を作って頂きありがとうございました。今後ともよろしくお願いします」


「いや、おめでたい話を聞けて良かったですよ、こちらこそよろしく」


私は、専務に目配せをして、次の打ち合わせの為に乗車を促す。


「美雪、じゃあ後で」


そう言う春馬とマネージャーさんたちに会釈して


「うん。では、ここで失礼いたします。本日はありがとうございました」


その場から立ち去って……

改めて結婚って、色々と大変なんだな……と物思いにふけていると


「結婚準備はこれからですよ?」


専務は笑いながら、私に諭す。


「そうですね。……でも、想像していたよりも大変で」

「有澤さんの場合、彼が有名な方だからね。何か、私に出来る事があれば遠慮せず言いなさい」

「ありがとうございます」

「ちなみに、今後も仕事は続けてくれるのかな?」

「……続けるのは難しいと思います。でも、公表するまでも期間を設けておりますし、今年いっぱいは続けたいと考えています」

「そうか、やはり難しいか。結婚は嬉しいけれども寂しくなるね」

「……はい」


専務に話の流れで退職する方向でいる旨を伝えても、今の生活が一転するなんて想像もつかなくて、どこか他人事のような気がしてしまう。


会社に戻り、1日の仕事を終えると春馬との約束の時間が迫っていて急いで帰る支度をした。


「あれ?今日は早いですね。しかもなんか服装も……あ、デートですか?」


今日も女子力高めな森さんは、私の白のスカートを指差しながら、視線を上昇させてスモーキーピンクのインナー通過して、やっと目が合った。


「今日デートかぁ。いいな……やっぱり特定の人がいるのは羨ましい」


「デート……うーん、まぁそんな感じかな」


初めて自白した私に、森さんは目を輝かせて畳み掛ける様に、質問がいくつも飛び出すから、まるでげいのうりみたいだなと、口元が綻ぶ。


「有澤さんの彼氏ってどんな人?なんの仕事してるの?付き合ってどのくらい?」


「優しい人だよ。お仕事は……忙しい人。仕事内容は詳しく分からないな。大学生の頃から付き合っているよ」


「へぇ……長いんだね。なんだか、有澤さんが話してくれたのが初めてだから、純粋に嬉しい!」

「そうかな……、聞かれなかったからじゃない?」

「ううん。なんか今日は雰囲気も違うし……もしかしてゴールインも近いとか?」


「……それはまだ分からないよ」




「そうなんだ。でも良い話聞けるのは、間違いなく私より早いね。進展あったら教えてね!」

「……うん。分かった。じゃあ、私行くね。お先に失礼します」


足早にオフィスを出て、化粧室にはいるとパウダールームの鏡の前でバックからアクセサリーポーチからピアスを取り出し、髪をかきあげると露わになった耳元に華奢なピアスを付けて人差し指で少し揺らした。


髪を整えて、肌馴染みの良いピンク系のリップをつけた。




まだ、分からない……か……。




森さんとの会話で、さすがにまだ結婚するとは言えなくても、もっと他にいくらでも返し方があったはずなのに。

私は、その分からない気持ちを抱えたまま、指定された通り春馬の事務所へ辿り着き、エントランスで待ってくれていたマネージャーさんと会うと控え室に通された。


「今、春馬を呼んでくるのでお待ちください」

「分かりました。あの……ありがとうございます」

「いいえ。お礼を言うのはこちらの方です。今までひた隠しに交際をするのは大変だったでしょう?今日は予定通り社長や幹部に会ってもらったあと、主要スタッフとメンバーに挨拶してもらうので、一言お願いしますね」

「えっ……?メンバーに、挨拶って……」

「あれ?聞いてません?まぁ、第一発表の場でもありますが、みんな身内みたいなものだから大丈夫ですよ」



春馬には、今夜は社長さん達に報告をするとしか聞いてないのに……


メンバーって……


……和。


思わぬ展開に動揺が隠せなくて、私は立ち尽くしたまま胸元のシャツをギュッと握りしめた。

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