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次の日、春馬からPCにメールが来て添付ファイルを開くと、2人で結婚の報告をしたほうが良い人のリスト化がされていて、そこにはうちの会社の専務の名前もあったから、別枠でアポイントを取って昼間に社外で会える時間を作った。
「春馬、忙しいんだからわざわざいいのに……」
「そうもいかないよ、専務は美雪の上司でもあるし、以前に美雪の会社のイメージキャラクターをさせてもらった経緯もあるからね」
「そうだよね……。うん、ありがとう」
「お互いさまだろ?むしろ俺の仕事関係で美雪同伴で挨拶してもらう機会の方が多いんだから。あと、リストにもあったと思うけど今夜はウチの事務所来て?」
「分かった。……あの、やっぱり和にはちゃんと話をしたいんだけど……」
あれから和に電話も……メールもしていない。
「……美雪。気持ちは分かるけど、俺の気持ちも考えてほしい」
「そうだよね。……ごめんなさい」
「いや、いいんだよ。ただ今は俺たちのこれからの事を優先的に考えてくれてると嬉しいな」
「……はい」
「じゃあ、昼に赤坂で会おう。店の名前教えたけど」
「大丈夫。場所も調べたしランチのコースも注文してあるから。人数は私達を入れて春馬側は3人で、こっちは2人」
「うん、完璧。さすが役員秘書」
「これがお仕事なので」
「段取りも俺好み。じゃ、昼に。あのさ、そろそろ俺の家に引越して来る事も考えておいて?それから2人で新居を決めよう」
「そうだね。分かった、連休も取れると思う」
「あと……仕事もね?」
「……うん」
そうだよね。
春馬と結婚したら、働けない……よね。
うちの玄関先で、いってらっしゃいのキスをして春馬を見送ると、私もジャケットを羽織ってブレスウォッチを身に付けた。
少しの時間差で家を出ると、駅まで数分の道を歩く。
私を春めいた陽気が包んで、ベージュのスプリングコートが体を軽くする。
お互いの両親に結婚を報告すると真実味を帯びて、春馬の完璧なスケジュール通りに何事もうまくいっている。それなのに、私はまるで水を差すかの様に、和の事を考えてしまう。
駅に着いて、ホームに立ち、急行のスピードがもたらす風の中見送っていると冷たい携帯が指に触れた。
和に連絡だけなら
してもいいかな。
だって……
きっと和は私の言葉を待っているから。
指先が、和へのメールを躊躇っているとアナウンスが電車の到着を知らせて、ギュウギュウの満員電車に列にならって入ると辛うじて掴めた吊革を頼りに人並みに揺られた。
新宿に着くと決まったルート通りに、カフェでソイラテを買って、社員証をかざし会社のセキュリティを突破する。
で……また、携帯を握りしめた。
けど
なんて和に伝えればいいの……
メールじゃ、うまく伝えきれないよ。
時間だけが無情に過ぎてしまう。
「……美雪?」
「う、うん。あ、ごめんなさい」
「いや、大丈夫だけど?疲れてる?」
「疲れてないよ。失礼しました」
和との事を考えるあまり、大切な春馬と2人のマネージャーさんと専務の会食の場でうわの空になって、愛想笑いをして誤魔化してしまった。
「すみません、ちょっと失礼します。
美雪、おいで」
「あ、うん」
私は春馬に言われた様に席を立ち、扉を閉めると手を引かれて
「春馬?ごめんね……私、ぼーっとしちゃって」
「いいんだよ。そんな美雪も好きだから」
廊下から非常階段に向かう途中の死角で優しく抱きしめられた。
「周りの人の理解は求めていかなきゃいけないけど、俺たちは今まで通りのペースでいこう」
「……うん」
春馬は、こんな時にも和を気にかけている私を見透かしているんだね。
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