44

ぼんやりとしながら目を開けると、窓の外では朝が始まろうとしているのか……鳥のさえずりが聞こえる。



いつの間にか、寝ちゃったんだ……。



えっと……、春馬とソファの上でシて……シャワーを浴びようとしたのに止められて、また始まっちゃって。


あれ……でも、私……今、ベッドの中……


ゆっくりと身体を起こすと


「おはよ」


隣で横になりながら頬杖をついてる春馬と目が合って


「……おはよ、あの……ありがとう。ベッドまで運んでくれて」

「いや?こっちこそありがとう」

「ん?何が?」

「また、誘ってる?そんな無防備に見せられると、またヤリたくなっちゃうよ」

「えっ……やだ、ごめん」


裸のままの身体を右手で手繰り寄せた布団で隠した。


「俺は、いいんだけどね。でも、ほら美雪の身体がもたないだろ。これから毎日一緒にいるんだから」


「……毎日?」


髪を左手でかきあげると、カーテンの隙間から微かに入る光が薬指に集まる。


ふと、左手の薬指を見ると見たこともない大きなダイヤが輝いていた。


「美雪、結婚しよう」


……け、結婚⁈


「……私と⁈」

「他に誰が居るんだよ、美雪とだよ」


急なことでびっくりしていると、指輪の重さがリアリティーを感じさせる。


私、和に心が揺れて、惹かれて、春馬と別れようとしていたのに……


どうしていいのか分からなくて、でも返事を待っている春馬に答えなきゃいけない……


「指輪、外して……見てみてよ」

「外して……?」

「そ、で……裏……読んでみて?」


明らかに戸惑っている私を包む様に背後から両腕を回して、スッと指輪を外すとカーテンを少しだけ開けて朝日を取り入れ指輪の裏に刻まれているのを翳す。




ー 2014.4.17 ー




「あ……4/17。私達の真ん中バースデー、でも、2014って?」


「そ……2年前、美雪と俺が別れた時期、本当は美雪にプロポーズしようと思って用意してたんだ。この指輪も。だけど、美雪の仕事が変わったり今じゃないなって感じたから、それからずっと持ち歩いてた。いつかコレを美雪に渡したくて」


「そうだったの……?全然知らなかった」


「だろうね。まぁ、プロポーズはサプライズだから知らない方が正解だよ。それにさっきも言っただろ?美雪の人生に責任取るって。むしろ取らせて欲しいんだよ。本当は2年前から結婚したかったんだから」


2年前、春馬は私との結婚を考えてくれていたなんて……それなのに、1度別れなければいけなかったのは、心変わりじゃなくて、全部私の為だったの?



春馬は私を胸に抱いたまま、肩に顎を乗せて耳元で囁く。


「……美雪、返事は?」

「うん……ちょっと、びっくりしちゃって……。あと、私でいいのかなって思ってる」

「それはどういう点で?」

「春馬のお仕事的にも結婚出来ると思っていなかったし……」

「まぁね、これからも周囲に理解を求める場面はあると思うよ?でも、事務所はもちろんだけど各社のお偉いさんには了承もらってるから、安心して?」

「……それに……私……」

「……もう、いいよ。イチの事は。でも、1つ約束してほしい」

「……約束?」



「もう、イチと2人で会わないでほしい」


春馬と結婚することは


すごく嬉しかったのに、素直に喜べなかったのは、私の問題で……春馬の言っている事は正論だと思う。



でも



「……会って、和に、ちゃんとお別れ言いたい」


「それは2人でって事?」

「……うん」

「……ダメだよ、美雪は弱いから引っ張られる、イチの強さに。だから、イチには俺からも話して分かってもらうようにするよ。それよりさ、ほら……返事、教えて?」


そうだよね……

……もう、和には会えない……。




「私で良ければ、よろしくお願いします」


力強く、春馬にギュッと抱きしめられて


「大事にするから」


私達は、新しい1日を始める。


朝靄が晴れて、空の青が映える中で。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る