FFF

20XX年 10月10日 2:40 京都府京都市左京区鞍馬寺



深夜の暗闇が鞍馬山を覆い、重苦しい空気を圧縮している。それは、まるで異次元への扉が開いてしまった為に、真空空間へと引きずり込まれていくようで、

山に住み付いている植物たちが醸し出す緑の香りは、秋の紅葉によって一年の内で最も爽やかな旋律を奏でている。

そんな現世(うつしよ)と幽世(かくりよ)の狭間のような歪な空間がそこに存在しているが、秋色に彩られた山風が運んでくるのは軽快な連射音と男達の断末魔......。


「うわぁぁあっ...がぁっがっ!!」


また一人、スーツ姿の男が倒れた。辺りには既に四人が倒れており、複数の呻き声が戦場(バトル・フィールド)に木霊している。


「ひっ....ひぃぃぃ....たっ....助けてくれぇぇ」


残された最後の一人が後退りながら怯えた声を上げている。顔は引きつり、青ざめているようだが、

その恐怖の対象である、綺麗なシルエットの女は両手に持つ二丁の短機関銃をハーネスに収めると、格闘戦の構えを取り、刹那の間に詰め寄る。

そして、掌手を振りかざすと、顔面を防御しようと身構えた男の懐に強烈な蹴りを入れた。

完全に予想外の動き、華麗なるフェイントだ。

 

“Splash one!”

(敵を撃破したわ!)


アノニマス02の透き通った声が無線から聞こえてくる。もうこれで何人目であろう?確実に十人以上の相手をした。

正体不明の強敵と戦火を交えた由岐神社での火祭りから、雑魚(チンピラ)の応酬は止むことなくブルーバードに襲い掛かり、二人はその最悪な歓迎に対していちいち応えなくてはならなかった。

 今のところは順調にいっている。訓練通りに隊形(フォーメーション)を組み、自分達にダメージは何もない。作戦を続行できている。バディとのコンビネーションも抜群だ。

しかし、何か妙だ。それは、黄泉の国へと誘われているかのような鞍馬寺の雰囲気だけではない。

また、深夜という不謹慎な時刻に、信仰の道場では御法度である激しい喧騒を沸き立たせているという呵責でさえも、この奇妙な胸騒ぎの十分な説明には成り得ないようだ。

この何とも言えない歯がゆい感覚は前方を進むクリスティーナも感じているだろう。

先程起こった一連の戦闘と、奇怪な発音の言語を思い出しながら山道を登り続けていると南野(ホークアイ)からの無線が耳に入ってきた。


“優二、ここからはエレメントや。慎重に行くで”


丁度、かつては休憩所だったような場所に辿り着いた時だった。だが、もちろん休憩などしている暇はない。

優二はクリスティーナとの距離を縮めて彼女に追いつくと、互いの弱点をフォローし合うように並んで歩を進める。

 そして、杉林と斜面に挟まれた細い石道を進むと、今までとはまた違った香りが漂ってきた。

昔、授業で行った実験で感じたことのあるような不思議な感覚を味わいながら、じりじりと地雷原を歩くように進む二人は再び両脇に紅い灯篭のある石の階段に出くわす。

その階段は大きな踊り場が三つあって三段に分かれており、その右手には大きなお堂が暗闇の中に現れる。そして、石の階段を登りきった先にあるのは尊天を奉安してある本殿金堂だ。


“It's too quiet......”

(やけに静かね......)


すぐ隣にいるクリスティーナがそう囁くのを聞くと、優二は軽く頷いてから三段に分かれた石の階段を登り始めた。

お互いの肩が触れ合うほど近づいているので、無線を通さなくても彼女の息づかいが聞こえてくる。

 二人が持っている物騒な装備を除けば、何か無意味なものに邪魔されて夏を逃してしまった男女が少し季節外れの肝試しをしているのと変わらない気さえする。

それほどまでにお姫様が漂わせている香水は甘い匂いがして、ただの若い青年である筈の貴公子に自分のバディも同様にただの若い女であることを確認させた。

あれだけの敵を相手にしていたんだ。少し疲れているのだろうか?そんなことを思わせる酸っぱい匂いが混じってきたが、三段に分かれた一段目の踊り場に着いた時には、

彼女は月のように美しい綺麗なシルエットの周りに佇む空気を甘酸っぱさに変えてしまっていた。


“Kristina....Are you ok not to take a rest?”

(クリスティーナ....少し休まなくても大丈夫かい?)


“Don't worry Yuzi-san.”

(心配しないで、優二さん)


二段目の踊り場に着いた時、彼女はそう答えた。

その声は太陽のように暖かく、少し心配をした彼の冷えかけた心を隅の方まで安心させてくれた。


“やけに静かや....何かおかしいで”


 三段目に差し掛かった時、南野(ホークアイ)の呟く声が聞こえてくる。

それと同時にゴロゴロと雷鳴が轟きだした。かなり近い。京都府北部では雷注意報が出ており、二人は作戦遂行前のブリーフィングでそのことを知っていたが、

深刻な障害に成り得るとは考えられない気象情状況であったので、その時は軽く触れただけであった。

だが、そんな夜空に稲妻を彷彿とさせる不穏な音は、大地のように力強いお姫様の頼もしい存在感にかき消されて、脅威を振り撒くことを遠慮しているようにも思えた。

 何か腑に落ちない。そんなことを考えさせる歪んだ空間を登りきると、景色が一気に開けて、何かを内側に留めておくには十分な広さの本堂が見えてきた。

尊天が奉安されている本殿金堂である。鞍馬寺では三尊を本尊として祀っており、千手観音、毘沙門天、魔王尊を一体にしたものが万物を司るエネルギーを持つとされている。

なんだかよく分かりづらい話であるが、要は三位一体、つまり三人の神様が集まってはじめて力を発揮することができるといった話である。

宗教に馴染みのない人間にとって神様と言えば、絶対神を想像しがちだが、日本の神道や仏教の宗派は多神教であり、不特定多数の神様が存在するのだ。

考えてみれば随分といい加減な話である。


“Hawkeye,this is anonymous01.the area is clear.”

(ホークアイへ、こちらアノニマス01。このエリアはクリアだ)


“Ragor.Advance forward.”

 (了解。先へ進め)


本殿金堂の前には、大きな六芒星が石床の上に描かれており、神秘的なものにも邪悪なものにも成り得そうな何か大きな力を封印しているように思える。

二人は寄り添いながらその場所を通り過ぎたが、頭上で雷の爆音が炸裂し、背筋が凍るような感覚に襲われた。


“Yuzi-san,wathch out!your six!”

(優二さん、危ないっ!後ろよ!)


後ろを振り返った時には、既にクリスティーナが身を翻していた。瞬時にサブマシンガンの連射音が響き渡る。

そして同時に、ピカッと走った稲妻の閃光が二つの人影を映し出す。

その人影は素早くこちらに迫り、愛銃を構えるより先に重たい音がしたかと思うと、後頭部に激痛が走り、そのまま硬い石床の地面に叩きつけられた。


「ユウジさんっ!!」


この季節の気温にしては冷たすぎる石床を肌で感じながら、うつ伏せで倒れ込んだ優二は自分が気を失っていないことを幸運に思う間もなく、

バディの置かれた状況を把握する。彼女は両手に持つMP5サブマシンガンを前方へ放り投げて、どうすることもできないといった具合に両手を上げていた。

そして、二つの人影は徐々に輪郭を現し、何やら小銃のようなものを持っている。

この内の一人はどうやらその銃床で優二を殴り倒した犯人で、もう一人はというと、彼のバディであるお姫様に銃を突きつけてジリジリと詰め寄っている最中であった。

優二は呻き声を漏らしながら、一瞬の隙にやられてしまったお蔭でこのような状況になっていることを悟り、また同様に自分を殴り倒した相手に銃口を突きつけられているらしいことも理解した。


“Bluebird,What happened!What's going on there!?”

(ブルーバード、どうした!何があったんだ!?)


 無線で関西弁訛りの英語が呼び掛けている。すまない、南野。やられた......

そう応えようと咳込みながらマイクに声を吹き込もうとした時、暗闇の向こうからもう一つ別の人影が現れる。

それは徐々に、黒いコートを羽織った長身の男としての輪郭を成し、愉快な拍手をしながらこちらに近づいてきた。


「ククッ....クハハハハハッ!....いいね、いいねぇ」


「くっ....げほっ....何だこいつ......?」


その声の主はしっかりと日本語を話しているが、一般的な日本人とはかけ離れた外見をしている。

背が半端なく高く、厳つい肩幅の図体で、髪型はオールバック。赤ら顔に高い鼻を持っている。そうか、天狗だ。例えるならそれである。古の時代に存在していたと伝えられるあの妖怪だ。

そして、その天狗のような長身の男はクリスティーナの方を見ると、相手を弄ぶかのようにこう叫んだ。


“Black-Vixen....It has been a long time.”

  (漆黒の女狐....久しぶりだな)


“....!!....Akai!”

(....!!....赤居っ!)


ヴィクセン?女狐のことか?一体何のことだ?優二は自分のバディが敵からそう呼ばれているらしいことは理解できたが、そうなるに至る経緯に関しては全く見当がつかない。

クリスティーナの表情は黒いアノニマスマスクに隠れて見えないが、これまでにないほど緊張しているのが伝わってくる。震えているのだ。あの屈強なFIGHTER(戦闘者)である筈の彼女がである。

だが、この訳の分からない状況を正確に理解する暇はなく、三井の声が無線で届いて、そのやり取りに割って入った。


“だめだっ!ブルーバード、聞こえるか?Mission abort!作戦中止だ!”


“三井か?クハハハッ!アノニマス(匿名集団)とは笑わせやがる”


相手の無線はこちらと同じ周波数を使っているようだ。しかし、これはどういうことだ?間髪入れずに本部(HQ)からの無線が再び入る。


“赤居か....クソ....なぜここに....優二君、無事か?”


“ほう....日本人か....中々面白いことをするじゃねぇか”


天狗のような男は赤居という名らしい。奴は嘲うかのように話を続ける。


“見てみろよ。この左腕をよぉ....これも日本人にやられたんだぜ....おい”


赤居という男は、そう言うと羽織っていた黒いコートから左袖だけを脱いで、腕を差し出すと、下に着ていた服のその部分をビリビリと破り捨てた。

義手だ。だが、ただの義手ではない。金属でできているそれは、ハリウッド映画さながら、レーザーの一つでも飛び出してきそうな外見をしている。

奴は首を傾げてコキッと骨の音を鳴らすと、その派手な左腕をよく見えるようにかざす。すると、再び雷鳴が頭上で轟き、稲妻によって周りの景色が不気味に照らし出される。

 と、その時、スーツ姿の雑魚(チンピラ)が一人、本堂の影に隠れていたのか、走り出てきた。


「ひっ....ひぃぃぃい....もうご免だぁあ!助けてくれぇぇえ!!」


「あ?何だこの役立たずはよぉ?死んどけよ。てめぇ」


奴はそう言うと、そのサイボーグのような左腕を垂直に振り下ろした。刹那、眩しい光がピカッと走り抜け、稲妻が上空から獲物を目がけて大地に根を下ろす。

優二は目を開けていられず、何が起こったのかを見届けることができなかったが、スーツ姿の雑魚(チンピラ)は一瞬のうちに黒焦げの人形へと変えられていた。


「まぁ、お蔭でこんな手品ができるようになっちまったんだがなぁ」


「なっ....はぁあ!?何だよこれ!?嘘やろ?」


雷を落としやがった....。確かにそうだ。間違いない。いや、そうとしか考えられない。奴の左腕がどういう機構になっているのかは理解する余地がないが、

事象と事象の因果関係からそう推理せざるを得ないのだ。そして、そのことを裏付けるように南野(ホークアイ)が状況を説明する。


“聞け優二、その男は赤居玄人(くろうと)、元警視庁公安部の人間や”


「....公安....?」


“あぁ....何でここにおるねん....最悪やで....クソったれが”


「なっ....なにが....どういうことだ?」


“そいつは、秘密結社FFFの幹部や。イルミナティの日本支部みたいなもんやな”


秘密結社FFFはMr.三井の陰謀論に度々登場する団体だ。日本の有力な政治家や資産家、大企業の経営者、タレントやトップアスリートまでもが属し、日本社会を裏で動かしていると言われ、

その活動内容の詳細は全て謎に包まれているので、一部では国際的な秘密結社イルミナティの日本における工作活動を請け負っているとも言われている。

そして、この陰謀論はここでは終わらない。彼らが武力行使を行う際に用いるのは独自の軍隊で、そこに存在する装備は.....


“気を付けろ、奴らは生体兵器(ヒューマノイド)だ”



三井の声が雑音混じりに聞こえる。そう、彼の陰謀論において最も興味深く、胡散臭い話だとされている、生体兵器(ヒューマノイド)の存在。

それによると、イスラエルやアメリカは軍用目的でそれらを開発しているというのだ。


“ネズミが来るのは知っていた”


“......”


“それで、巣はどこにあるんだ?”


“........”


“まぁいい。この小娘にでも聞いてやるか....じっくり楽しませてもらってからなぁ”


赤居はそう言うと、ブルーバードの動きを封じている人影の一つに何かの指示を下した。そうすると、それまで明らかになっていなかったそれらの全貌が現れ、優二は驚愕する。

まるで、次世代機のゲームに出てくるような装甲(アーマー)を身に纏った兵士。それは頭の先から足の爪先まで身体のありとあらゆる部位を覆っている。

そして、彼らが両手に持っているものは、どうやらただの小銃ではない。近未来型の宇宙的な形状をしたコンパクトなアサルトライフル。

優二はインターネットの動画サイトでその銃を見たことがある。そう、あれだ。イスラエル製の『タボール21』。銃身下には擲弾発射器が装着してある。

なぜイスラエルの兵器たちがここに存在しているのか?そんなことを疑問に思い、考える暇などなく、この訳の分からない状況に追い打ちをかけるかのように、

装甲(アーマー)を纏った兵士は、お姫様にジリジリと詰め寄って行く......

嵌められていた。初陣でいきなり強敵が出現した驚きよりも、敵を出し抜いて潜入したつもりであっただけという事実が腹の底から沸き立つ屈辱感を呼び覚まし、

神ですらも諦観してしまうような絶望感が戦場(バトル・フィールド)を包み込もうとしているが、

なぜか彼のバディは群青色の戦闘服(コンバット・ユニフォーム)を覆っている蒼い希望の光を灯したままであるように思える。

彼女は黒いアノニマスマスクの下から一瞬だけこちらに視線を寄越すと、地面に向けている右手でクイッとVサインをつくって見せた。

それが『何かをする』というサインであることを悟った優二は自分に銃口を突きつけているもう一人の兵士から血液がポタポタと滴り落ちていることに気付く。

そう、由岐神社で交戦した際に放ったNATO弾が命中していたのだ。装甲(アーマー)ではなく、肘関節の部分に偶然........


「最後に一つ教えておいてやるよぉ」


赤居の叫び声が響き渡る。


「ここにいる奴らは神なんかじゃねぇ。悪魔なんだよ。俺たちはそいつらを召還できるんだ」


獲物を目がけて今にも大地に根を下ろしそうな稲妻の雷鳴が頭上でゴロゴロと轟く中、優二は生き残る為にするべきことを理解した。

その刹那、無線であの奇怪な発音の言語が聞こえてくる。


“הרוג”


それがヘブライ語であると分かったときには、装甲(アーマー)を纏った兵士が、クリスティーナに手が届くところまで近づいていた。

と、次の瞬間、彼女はハーネスから手榴弾を抜き取ってその場に落とし、それと同時に前方へ飛び込むように転がり込む。

地面に転がっている愛銃を鷲掴みにして回収したクリスティーナは、信じられないスピードで前転を続け、爆発に巻き込まれる寸前のところで離脱してゆく。

人間の動きじゃない。それは、柔軟な動きで相手を翻弄する女狐そのものだ。最後の前転を終えた彼女はそのままの勢いで立ち上がり、愛銃を構え、そして発砲した。

二丁のMP5サブマシンガンから放たれた無数のパラべラム弾が、もう一人の兵士に殺到する。

ところが、敵の装甲(アーマー)は強力な防弾性能を持っているようで、甚大なダメージを与えられていない。

その隙に転がるように距離を取って立ち上がった優二は、銃弾を撃ち尽くしたクリスティーナが飛び蹴りを入れている姿を目にする。

相手はその一撃を食らって後退したが、すぐに体勢を立て直して銃床で殴りかった。彼女はその攻撃をひらりとかわすと、柔軟な動きでバック転をして、距離を取る。

そして、再びハーネスから愛銃を抜き取り、予備弾倉(マガジン)を装填(リロード)すると、両手でそれらを構えた。

だが、手榴弾の爆発をもろに受けた方の敵は、装甲(アーマー)のお蔭で健在し、『タボール21』の照準を女狐の背後にビタリと合わせていた......ズダァァァン....

先に火を放ったのは、優二のスナイパーライフルH&K MSG90だった。放たれたNATO弾が向かった先は、敵の身体ではなく、最も脅威となるもの。

金属がぶつかり合う音がした。刹那、ターゲットの持つアサルトライフルが両手から吹っ飛ぶ。


「ユウジサンッ!アブナイッ!!」


クリスティーナはそう叫ぶと、全速力で優二に走り寄り、体当たりをするように抱きつき、突き飛ばす。

二人で転がるようにその場を離れた瞬間、妙な殺気を感じた彼の目に映ったものは、左腕を振り下ろしている赤居の姿だった。

雷鳴が轟き、稲妻が大地に根を下ろした光が轟音と共にほとばしる。すんでのところでかわした二人に追撃をかけるかのように、赤居は再び左腕を振り上げる。

その時、何か不確かなものが優二の頭をよぎった。神秘的だと言うには大袈裟な目に見えないエネルギーのようなもの......

それが死ぬ間際に走馬灯のように駆け巡る映像ではないことは確かだ。なぜなら、彼の中には今から何を実行しなくてはならないかという明確な動きが上映されている。

蒼い貴公子は素早く愛銃を構え、照準(レティクル)を合わせる。十字にクロスされた線の先に捉えたターゲットは、サイボーグのような左腕。そして、引き金を絞った。

一瞬にしては長すぎる時間がスローモーションのように流れた後、垂直に振り下ろされる筈の左腕は地面に対して四十五度の角度で稲妻を誘電する。

その雷撃が向かった先はブルーバードの二人ではなく、肘関節の部分に傷を負って動きが鈍っている兵士。

刹那、閃光が走り抜けたかと思うと、そのイスラエル製の兵器は装甲(アーマー)の有無など分からない黒焦げの人形へと変わっていた。


「クハッ....クハハハハ!!おもしれぇ!おもしれぇぇえ!!日本人がぁあっ!!」


「おいっ!待て!」


「子羊どもはすぐに殺さない方が楽しめるからなぁ」


赤居はそう叫びなら嘲うと黒いコートを翻し、人ならざる動きで暗闇の崖下へと消えて行った。

反対側を見ると、そこにいた筈の装甲(アーマー)を纏った兵士も消えており、激戦の終結を知らせた。


“優二、クリスティーナ、無事か?”


耳慣れた南野の関西弁が無線から聞こえて我に返った優二は、本殿金堂の前にある六芒星が描かれた石床が先刻の雷撃でパックリと割れていることに気付く。


“Bluebird,report implementation Status. ”

  (ブルーバード、状況を報告せよ)


三井の問いかけに、アノニマス01が応える


“Bluebird to HQ,Operation is currently in process.”

   (ブルーバードから本部へ 作戦は継続可能だ)


額から滲み出る冷や汗を拭いながらクリスティーナの方を見た優二は、彼女の綺麗なシルエットの周りに蒼い神秘的な光が宿っているような気がした。

それはさしずめ、三位一体の悪魔を召還するつもりが、鬼門である京都の北側を守る美しい戦闘神を怒らせてしまったということなのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アノニマス スサノオ @susa-no

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る