優秀な剣士を育て、その腕前を必要とする雇用主に売り込むのが、吟遊詩人である主人公の仕事。
この独自の設定が、まず目を惹く本作品。
斡旋といっても、WEB小説にありがちな「ギルドの窓口に行くと、ちょうどいい雇用主が紹介される」ような簡単なものではありません。諸方に根回しをしなければなりませんし、さまざまな場所を巡っては、売り込みたい剣士を称える詩を吟じるという地道な宣伝活動をして、ようやく雇用のチャンスが生まれるといった具合です。
ほかに類を見ない設定であるでしょう。少なくとも私は類似する作品を知りません。
物語は、主人公センギィが、吟遊詩人という自身の職のありように疑問、そして絶望を抱くところから始まります。
あてもなく放浪するセンギィがたどり着いたとある村での出来事が、彼を大きく変えることになるのですが――そこから先は実際に読んでいただいたほうがいいでしょう。
物語が大きく転がり始めるのは、二章から三章にかけてでしょうか。ストーリーが大きく展開していくこともさることながら、このあたりから戦闘シーンがたびたび挿入されるようになります。
この戦闘描写がすばらしい。魔法や魔物など、超常的な存在は登場しない、純粋な剣戟アクションなのですが、表現には過不足がなく、テンポと迫力が両立されています。また、勝利にいたるまでのプロセスに、いちいち説得力があるのも好印象です。
綿密な設定も本作の魅力のひとつ。
建国神話とそれに由来する『剣士の十法』。これらがストーリーと有機的に絡みあり、重厚な世界観を創り上げています。
……本当のことを言いますと、私自身少し前に一章に目を通して、そのまま続きを読まずに放置しておりました。しかし、閲覧履歴からふたたびこの作品を読み始めると、すぐにその魅力に引き込まれ、一気に読了したという経緯があります。
冒頭をお読みになり、「自分の好みと合わなかった」と思った読者の方、判断するのはもう少し読み進めてからでも遅くないですよ。