第3話

中原さんが見当たらない。

入居者にお茶を持っていってほしいと頼んだら嫌々行ってくれたのだが、その後戻った気配がない。かれこれ1時間になる。話し込んでいるのだろうか。でも、行ってもらった部屋の入居者とは、中原さんはあまり関わりたがらない。かなり認知症が進んでいるのだ。

90歳になるカズさんは、50年前の世界で生きている。男性職員のことは誰のことでも息子だと思って「のぶゆき~」と頭をなでようとする。にこにこしてかわいらしいのだが、中原さんは「何しゃべってるかわかんないから話したくない」と言ってカズさんとあまり関わろうとしない。

ちょっと心配になった。慣れない職員が関わると不安が強くなり、怒鳴ったりものを投げつけ

たりすることがあるのだ。昔、泥棒に入られたことがあるらしく、息子ではないとわかると、今度は泥棒だと思うらしい。中原さんが逆ギレして大変なことになっていないだろうか・・・

様子を見に 行こうと思い部屋の前にまで来たら、中から話し声が聞こえた。以外にも、カズさんと話し込んでいるらしい。

「のぶゆき~、どうしたね?大丈夫だよ~母ちゃんがついてるから。泣くんでないよ~」

耳を澄ませると、そんな声に混じって男性がすすり泣く声が聞こえた。

中原さんが 泣いている。きっと、カズさんに抱きしめられて頭を撫でられながら泣いているのだろう。

私は部屋の前を離れ業務に戻った。

しばらくすると中原さんが戻ってきた。

「なおみちゃん、今何時?」

「あゆみですよ。今5時です」

「じゃあ上がる時間だ、じゃあね、まゆみちゃん」

中原さんは、その日珍しくさっさと上がり帰って行った。

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ダメ男と介護士の恋 バーバレラ @3753

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