第17話

 美奈がパンツをはいて、「Tシャツ借りるね」と言った。何をするかと見ていたら、ベッドから降りてバッグから何か取り出そうとガサゴソしている。

 俺は、自分がさっきまで着ていたTシャツが新たな役割を得て動くのを眺めた。


 (ふうん、俺のTシャツって人が着るとこんな感じなのか) 


 俺のTシャツは黒で、美奈のパンツはオレンジで、……美奈の太ももは白だ。


 バッグからは、歯ブラシセットとハンドタオルと、もう一つ何か俺の知らないものが取り出された。


 「何、それ?」


 「ん? 歯ブラシだよ」


 「じゃなくて、もう一つのやつ」


 「コンタクト」


 「へえ、そういうケースに入ってるんだ」


 「ええっ、見たことない?」


 丸が二つくっついた形。紺の蓋と白の蓋。LとR。

……なるほど、右と左で視力が違う場合もあると聞くし、ああいう形になっているわけか。


「歯ブラシ持ってきてたんだ?」


「鞄にいつも入れてるの。学校でもお昼に磨くし」


 急に俺も歯を磨きたくなった。さっきのキスのとき、タコ焼きやピスタチオやグレープの味がしたことを思い出す。

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秒針は璆鏘の音で鳴る 木原清武 @kiharakiyotake

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