第六話「失恋」

「どうしよ」

キッザーの顔は一気に顔が青ざめていく。

「母さんにもしつこく言われたこと言われた事だったからついかっとなったよ」

キッザーは自分の両頬りょうほほをマッサージをした。

「おい」

暗闇から出てきたのは髪を濡れてパジャマ姿のナイトメアが姿をあらわす。

「びっくりしたナイトメアか」

キッザーは胸をなでおろす。

「キッザーはリボがすきなのか? なぜあの執事を怒らせた?」

キッザーは苦悩で顔をゆがめ、自分の頭を激しく乱れさす。

「ナイトメアまで聞かないでくれ。僕でさえわからないんだ」

「わからない?」

ナイトメアは眉をひそめた。ナイトメアには恋愛という言葉は理解ができないのだろうとキッザーは解釈かいしゃくした。

傲慢ごうまんのときにさ」

キッザーは傲慢能力で母親に会った。ナイトメアも一緒のはずだ。

「ああ」

「僕は母さん言われたんだ。あ、あと僕の初恋は人形なんだけどね」

「……」

ナイトメアは呆れてため息を漏らす。

「『貴方が愛してやまない人がいるんでしょ?』って聞かれたんだ。僕には理解できない。リボに初恋したときの感情があるという実感がない。だけどダニエルの恋愛感は何か違うような気がするんだ。初恋と恋とは違うかもしれないけれど。僕の予想があっていればミランダがああなってしまったのはダニエルのせいなのかもしれない」

の言っていたとおりか……」

「そうなるね。でもまだこれは僕の直感でしかない。だから確実が欲しい」

ナイトメアの目がこの館に来て炎をちらつけるように鋭くなる。

「これは俺の言い分だ。決めるのはお前だけどな」

ナイトメアはダニエルが向かった先へ忍び足で忍ばせながらキッザーに言った。

キッザーもナイトメアの後ろで忍び足で続く。

「俺は人形との恋愛なんて認めない。そんなのありえない。そして恋した人間が悲惨ひさんだと思う」

「どうして……!?」

キッザーは自然と語気が強くなる。

「人形は壊れてしまえば元通りになるかそれっきりか壊れずそのままだ。恋した人は人間で永遠はない。そうだろ?キッザーは人形しか見ていなくてもいつか人間としての生を全うする。人形のほうは一生主人を待つことになるの感情がなくても悲しいものだよな。それは人の一方的な行為で事になったことだよな」

「……」

キッザーは自分の胸に手を置いた。自分の気持ちがよくわからないでいた。この気持ちがこうなってしまったのは傲慢の能力で母親に会ってからだ。

「おい、あの部屋からダニエルが出て行った。確認しに行こう」

奥の部屋からダニエルがお辞儀してその場を去る。

「あ、うん」

キッザーとナイトメアはダニエルが出てきた部屋にたどり着く。

「開けるぞ」

ナイトメアは声をころして、ドアノブに手をかける。

キッザーは静かに頷いた。

ナイトメアはドアノブをゆっくりまわす。

そこにはメルヘンで女の子の部屋だった。

フリルのベット、沢山のいぐるみ、白色のタンス。いかにも女の子の部屋だった。

「ここはあいつの部屋か?」

「ちがうよ」

ナイトメアは縫いぐるみを持ってぼやいた。

キッザーはベットで寝ていたミランダを見つけた。

ミランダの呼吸は浅く弱々しい。車椅子に座っていたミランダも痛々しく思えたが、実際にすぐ近くにいるとあまりの痛々しさに胸が苦しくなる。

「ねぇ、ミランダ。君をこうしたのはダニエルかい?」

聴覚もないミランダにキッザーは囁いた。

ミランダはピクリとも動きはしない。

「どけ。――――。」

ナイトメアはある一言をミランダの耳元で伝えた。

だが、ミランダの様子は代わりようがない。

「俺は伝えたぞ」

ナイトメアはそういって部屋を出た。

「もー、自分勝手なんだから」

キッザーは両頬をふくらませておこる。

「っ……」

かすれ、強張こわばっていて、恐れている声がベットの中で聞こえた。

「ミランダかい?」

ミランダの目からき出るようになみだあふれ止まらない。

「ぁァ……っ!」

「ミランダよく聞くんだ。僕の名前はキッザー。仲間と一緒に旅をしている者だ。あさって僕達はダニエルと交渉こうしょうの末に石をもらうことになっている。石ってわかるよね?色欲の石だよ。それで君は自由になる」

ミランダの目はうつろで聞いているのかよくわからない。でもミランダの心を動かしたのは事実だ。

「涙を拭いてあげる。だから、待ってて」

涙を拭くとミランダは泣かず、虚ろの姿は変わらない。

「じゃあね。ミランダ」

キッザーはミランダをはげましたあと部屋を後にした。キッザーはダニエルが用意した寝室へ向かった。明日の私服まで用意してある。

「リボ。どこに言ったんだろ」

キッザーはミランダの部屋を後にした時にリボの部屋へとすぐさま向かっていた。しかし、リボは部屋にはいなかったのだ。

ベランダに出てつぶやく。

「よんだか?」

驚いて声がするほうへと振り向き、上を見上げた。

月の光で照らされているリボは人形と思えないほど神秘しんぴでミステリアスだ。

リボは屋根の上で座り込んでいた。

「ずっとそこに?」

キッザーは椅子を持ってきて上がろうとしたが届かなかった。それをみたリボは手を貸して右手で軽々とキッザーを上げた。

「ありがとう」

「いいんだ」

リボはキッザーに優しく微笑ほほえむ。

「なにしてたの?」

「とくになにも」

リボは明るい月の光を浴びながら言った。

「人間が言うには月の光には心を落ち着かせる効果がある。ダニエルと言い争っていたのか?」

リボは驚いている。キッザーは特に怒ることはしないのだ。リボはそれを知っていた。

「そんなに声張り上げたつもりはないんだけどな。聞こえていたのかい?」

「まぁな」

リボは「ハハッ」と笑いながらうなずいた。

「あとね」

キッザーはミランダのことを話す。

リボは黙って聞いていたが、話が終わると口を開いた。

「ナイトメアにはミランダのこと言わなくていい」

「え?なんで?」

「メアリーを人質に取られるとしゃべりだしそうだからだ」

リボは唇をとがらせて言った。

「んー、確かに言いそう」

「だろ」

リボのき通りそうな肌が月の光でめいて見える。

そんなリボを見てドキマギしてしまっているキッザーはダニエルが言っていたことを思い出す。

『リボ様に恋を抱かれてますよね』

キッザーはそのセリフを振り払うように首を振った。そのセリフはあまりにも深く心に鋭利えいりえぐられていた。

「どうした?気分が悪いなら下ろすぞ」

「ちがう」

「じゃあ、なんだ?」

「ちがうんだ」

キッザーは懸命けんめいで必死に否定を繰り返した。

「何がちがうのだ?」

リボはキッザーの顔をのぞき込むが、様子をうかがうことができなかった。

「ダニエルが言ったことは気にするな!」

キッザーは苦しそうにリボのひとみを何かを望むように見つめた。

(いいたい。何か言いたい。でも、これを言ってしまうとリボが離れてしまう。絶対これは言ってはだめなんだ。リボは本来元技術者の持ち物に過ぎないんだから僕は代わりでしかないんだから)

キッザーは自分の気持ちにブレーキをかけた。

「どうしたんだ?お願いだから言ってくれ」

リボはキッザーの行動が理解できず、困り果てていた。そんな姿を見て愛おしいと思うのはもうリボを好きだと自分に認めさせることがやっとできた。ごみ置き場の少年少女に言い聞かせてるリボはマリアのように美しく清らかだった。たぶんあのときからキッザーはリボに惹かれていたのだ。

リボの赤くきらめく美しい瞳が心配そうにキッザーの顔を窺っている。そんなふうに見られるとキッザーは我慢できず、つい口が開いてしまう。

「愛してる、リボ」

身体が自然に動く。さっきまで熱くうずいていた身体はその言葉をしただけで軽くなり、リボの唇を自分の唇と重ねた。

触れたか触れてないかで終わったキス。

「リボに僕のファーストキスをあげるね」

キッザーは無邪気な笑顔でリボから離れた。

その瞬間にリボは機体は真っ赤に染まり、湯気を発して屋根からキッザーの寝室のベランダに落ちた。リボの身体はピクリとも動かない。

「今のキスでリボはショートした?」

キッザーはショックでその場から動けないでいた。

キッザーの頭には罪悪感と理性、冷静が圧し掛かってくる。

キッザーはようやく重たい足を上げて、ベランダに下りた。

「ごめんね。リボ。僕の身勝手な行動で僕はリボを傷つけてしまったんだね」

キッザーは自分の身勝手さに嫌気が差し、リボの修理を済ませ、機体を寝室に移動させたあとにデーターを一部修正した。キスのデーターは消去し、今夜はただ綺麗な月を見て、エネルギーの補給へと自室に帰ったと上書きした。



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ドールストーリー 桜井 智也 @edo5237

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