第五話「愛を語る」

「ようやく来たか」

リボは目を閉じたままたっていたが、三人がホールへ入ると目を開けてにやっと笑う。

「リボ、こっちで勝手に決めちゃったけどナイトメアとまず組んで踊ってね」

リボが鼻にしわを寄せてナイトメアをみる。そしてキッザーをみた。

「こいつ踊れるのか?」

「何でお前まで聞くんだよ!」

ナイトメアは不愉快なこのやり取りにじたん場をむ。

「だって、事実だもん。ナイトメアは迷子になるわ、自分の身を立てて助けるのはとっても素晴らしい事だと思うよ。でも、実際はその表現しか助けたい意思を伝えられない不器用なやつだと僕は思ってたけどちがうの?」

的確な性格を見抜かれてしまっている。

「いいから、見てからいえよ。文句ならその後にいくらでも聞く」

ナイトメアはメアリーの傍により、しゃがみ込んで片手を取って、自分の手を取って両手を重ねた。

「踊りが嫌ならやめればいい。踊りの相手が嫌なら俺と代わるか、リボと代わればいい」

「いい、私はキッザーと踊るよ」

メアリーは甘やかすナイトメアが嫌いだ。何か隠しているように見えて仕方がない。だけど何度も問い詰めても泣いても喚いても聞いてはもらえなかった。だから甘やかすときだけ嫌いなのだ。

「では、音楽を」

その声と一緒にゆったりとしたクラシックが奏でられる。

ナイトメアとリボは一緒に歩みながら手をつなぐ。

「実は私は踊れない。ナイトメアが踊れるなら動きをコピーさせてもらう」

「・・・・・かまわねーよ」

ナイトメアのステップはとても軽やかで、あのロリコンナイトメアとはかけ離れた存在とは対照的で紳士的しんしてきなダンスをしていた。リボもナイトメアに身体を預けるように踊っている。

「僕達も行こう」

「……」

メアリーはうつむきながらドレスのすそつかんでいる。

「大丈夫?」

ナイトメアアには気づかれないようにささやく。

するとメアリーは苦しそうな笑顔で顔を上げた。

「お願い」

片手をキッザーに差し伸べる。

「疲れたら言ってね。じゃないと怒られちゃう」

キッザーは飛びっきりの笑顔でメアリーの手を取ってダンスホールの中央へ。

キッザーはナイトメアのとは違い、簡易的で、踊って楽しいませるダンスをメアリーに教えるように踊る。メアリーもそれに一生懸命ついていく。

ナイトメアとリボは完璧なダンスの選手のようにエレガントに踊る。

その様子をメアリーは踊りながら遠い目でナイトメアを見つめる。

「どうしたの?」

「おにいちゃぁはどうしても何を隠していることを教えてくれはしない。その悲しみはとても辛い。それにおにいちゃぁがどうして貴族以上が踊るようなダンスを身につけられる機会がいつあったのか……」

確かにナイトメアが踊っているのは、下町育ちのキッザーより断トツに優れて美しいフォームをたもったダンスをしている。

「確かにそうだね。僕もナイトメアは何か隠している。でも、ナイトメアも頃合を見てメアリーに教えてくれるときがくるんじゃないかな。この旅を成功したあととかね」

キッザーは無邪気な笑顔につられてメアリーは細く微笑む。

「そうかも」

「そうですね」

メアリーは苦く笑う。

「でも、私にはこう見えて仕方がない。あにいちゃぁはその秘密にしていることに怯えているのと重たいものを感じるわ。とても重たいの。実際は一人で担げるものではないはずなのに。大人も妹さえにも秘密しなければならない悲しさはだけはよく伝わる。私はまだ幼い。それを気にしてない。ただ、おにいちゃぁ何かに怯えている。重たいものを担ぎながら、沢山の秘密という名の鎖をぶら下げてそのうち身体が言うことを聞かなくてもそんなのみてはいない」

メアリーはナイトメアの踊っている姿を見てボソッと囁くように語った。今まで見てきたナイトメアの姿をキッザーに言った。

「そうだね。僕もそこまで言われると気になってきたよ」

キッザーはメアリーの例えは正確且つ自分から見たナイトメアもそんなふうに見えていたのは確かだ。妹はよく兄を見て気遣っていたのがよく伝わる。

「交代だ」

リボとナイトメアが傍まで来ていた。

曲は次への曲へと変わっていることに二人とも気づく。

「うん。ごめんね、気づかなかった!」

キッザーは笑いながら、誤るとリボはキッザーの手を取る。ナイトメアはメアリーの手をとろうとするがメアリーはすっと逃れ、ダンスホールのすみへと言った。

「メアリー?」

「私、いい」

「そうか」

ナイトメアはメアリーの傍まで駆け寄ると隣に座った。

「メアリー、うんざりしているね」

キッザーはその様子をリボのナイトメアからコピーしたダンスに合わせた。

「なぜだ?」

リボは不思議そうに言った。

「メアリーはナイトメアに教えてもらいたいことがるのに教えてもらえてないんだ。つまり、秘密だね。その秘密はとってもナイトメア自身を傷つけていることはメアリーは観察力があるからどうしても伝わってしまう。でもナイトメアは決して口を開こうとしない。そのもどかしさにメアリーは今戦っているんだ。」

「それは兄妹の問題だな」

「そうだね」

「では、関わるな」

リボはダンスをやめた。リボの視線はとても冷たい。赤い目がとても温かみがあるはずなのにとても冷たい。

「え」

「それを解決するのは兄妹の問題だ。キッザーが関与することはあの二人の間に狭間はざまができてしまう」

「どうしてリボにわかるの?」

「どうして……かはわからない」

リボは何故そんなことを思い、口にできたのかわからない。

「お疲れになりましたか?」

何処ともなく、ダニエルがナイトメアの傍に立っていた。

それではこのランプで足元を照らしください。こけてしまわぬように。ベットで休んでいてください。そのあとに姿を元に戻しに行きますので」

「行くか?」

ナイトメアが心配そうな目線を送るとメアリーはランプを奪ってダンスホールを後にした。

ナイトメアは慌ててその後を追う。

「おふた方もどうぞ続きを楽しんでください」

ダニエルは二人が出て行ったドアにお辞儀をして微笑を浮かべている。

「ダニエル」

「なんでしょうか?」

リボはもうダンスをする気もないみたいだ。鋭く上から目線で言った。

「ミランダは何処だ?部屋に待機するよう言われたときから姿が見えていない」

リボからの追求にダニエルはミランダのことになると愛しそうに白い歯を見せて笑った。

「すみません。ミランダ様は部屋で食事を済ませ、入浴、着替え、バイタルサイン全てを済ませて御休憩なされたところでございます」

彼女の話になると生き生きしていることが、キッザーには伝わってくる。

「そうか」

「ええ」

ダニエルはとても幸福であるかのように頬を染め、目を輝かし、キラキラした白い歯を見せて笑った。

その幸せオーラを発しているダニエルにリボは後退りしてしまった。

その姿を見てキッザーは笑っているとリボが目を鋭くしてにらんでいる。リボは傲慢ごうまんの石を手にしてから少しの変化があった。ほんの少しの変化でもキッザーにとっても嬉しい事だ。

どうして嬉しいのだろう。

「それはあなたが愛してやまないからです」

「!」

耳元を囁かれたのはダニエルだ。キッザーは驚いてその場を離れた。

「何故驚くのです?」

ダニエルの笑顔が怖い。

「リボは?」

「寝室へ戻られました」

笑顔で頭を傾げるダニエル。

「何故驚くのです?」

ダニエルは寝室へ向かうキッザーの後ろへとついてくる。

「そりゃあ、耳元で囁やかられると驚きますよ」

「ふふふ。違うでしょう?」

「なにが?」

キッザーはダニエルのしつこさに苛立ちを覚える。

「あなたはリボ様に恋を抱かれてますよね」

「僕は人形技師だ。確かに初恋は人形だけどリボは僕の今の相棒なだけだよ」

「今?」

「そうだよ。リボには本来のパートナーがいるんだよ」

「だから?」

ダニエルの言い方には裏がある。キッザーに何かを求めているように聞こえている。

「何が言いたいんだよ」

キッザーは珍しく言葉に苛立ちが表に出る。

「私にはわかるんですよ。私は色欲の石を持つダニエル。愛、恋には敏感びんかんです」

ダニエルがいう。

「ちがう。君の愛は何か違う」

「ちがう?」

「そうだ」

ダニエルの眉間みけんに皺が入る。

「どうちがうか。わからない。でも、僕の愛かどうかわからない。僕はリボが好きなのかもわからない」

「わからないのに私の愛がわかるとでも?」

ダニエルは色欲の石だ。それなのに愛を否定されると侮辱ぶじょくされたかのようにとらえた。

「そうだよ。何か違う」

「ではこうしましょうか。明日聞かせてもらいたい。私の愛と君のわからない何か」

「わかった」

キッザーの目は愛らしいんだ青い目ではなく、勝負に燃える男の目をしていた。

「では」

ダニエルはさっそうに暗くなり、月光の光が窓から漏れる廊下を歩いていった。




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