第5話 初戦闘

一面草原で、帰りのドアなんて見当たらない。どうやって帰るんだ? そもそも、俺達より先に入ったクラスの奴らはどこに行ったのか。んなこと、考えてもわかるわけがない。俺はどうする、と問いかけようとしたがそれより先に岩本が山井に喋りかけた。


「山井、お願いできるかな?」

「んー? なにを?」

「武器と出口、あと……」

「クラスメイトの場所も、だね」

「はぁ? んなのそいつに分かるわけないに決まってんだろ。ケータイで連絡取った方がはえーだろーが」

「確かに」


宮城の言うことに俺は同意する。岩本はまぁまあ、と俺達に言い、山井は何かを食べながら一枚の紙を取り出し文字を書き始めた。


「何してんだよ」


宮城の問に山井は答えない。大きな舌打ちをしながら宮城は睨みつけた。そはんな様子に岩本が山井に変わって宮城の問に答えた。


「お話。書いてるんだ」

「はぁ? なんで今なんだよ」

「だって山井の職業の力だから」

「職業の力ぁ? んなの聞いたこともねぇわ。てか、こいつの職業とか使えなさそうじゃねぇか」

「あはは、確かにお気楽屋は使えなさそうだけどさ」


岩本は苦笑いしながら、でも創作者の力は使えるよね、と呟いた。


「はぁ? 創作者ぁ? んだよそれ」

「お気楽屋の方しか聞いてないぞ」

「言ったよ。レベルは低いから印象に残ってないだろうけどさ」

「書き終わったの?」

「ん」


そう言って書いた紙を草原に投げ捨てた。その行動に、宮城がキレた。なにしてんだ、と。しかし、次の瞬間。バッと視界が真っ白になり、おもわず目を瞑った。そしてゆっくりと目を開けると、目の前にはへんな物体が浮いていた。


「なんなんだよっ」

「うっわ、趣味悪」

「流石にこれは私もフォローできないよ、山井」

「……とりあえず触ってよ」


そう言われても、誰も触らない。そりゃ

こんな変な物体は触りたくないだろう。


「ちっ……変なもんだったらぶっ殺すぞ」


そう言って宮城が最初に手を伸ばした。が、何も起こらない。あー、これは何もねぇじゃねぇか、ってキレるパターンだな、と思っていると宮城の前に一本の剣。シンプルな、剣。その様子を見て次に岩本が触れた。そして出てきたのは二丁の銃で、見たこともないような変なもんだった。そして、俺も触れる。目の前に出てきたのは三つの玉。色は赤、黄色、青の三種類。そして頭の中に浮かぶ変な図面。ただの四角の図面に真ん中に三角が書かれていて、端の方に大きくバツ印がある。それとは反対の方向にいくつかの小さな丸印が動いていた。俺はなんだ、これ、と思いながらバツ印の方に向かわないといけないんだな、と思いながら玉をポケットに突っ込んだ。その瞬間頭の中に浮かんでいた図面も消える。


「じゃあ、行こうか」


岩本がそう言って宮城が一歩足を出すとガラスが割れたような音が聞こえて、視界がぐにゃりと歪む。視界が元に戻ると少し離れたところに二匹の大きなリスと小さく不気味な角が生えた二足歩行の化物。こんな化物を俺はどこかのゲームで見たことがある気がする。何ていうか、小鬼みたいな……。


「ゴブリンみたいだな」


宮城がポツリと言葉を漏らした。ゲームの中や物語などでも有名なザコモンスター。レヘル上げに最適なモンスター。俺は簡単だな、と思いながら玉を取り出し、一歩前に踏み出す。その瞬間襲ってくる強烈な寒気。思わず小さな悲鳴が口から零れ前に出した足を引っ込めてしまった。


「ダメだよ」


誰かの声が後ろから聞こえ、軽い破裂音のようなものが二回響いた。


「殺す気でいないと」


振り返ると険しい顔をしながら銃をこちら側に向けている岩本と、すっごーい、とはしゃいでいる山井が目に入った。そして、また軽い破裂音が鳴る。


「こっちが殺されるよ」


銃をおろし、顔を背けながら岩本は言う。俺と宮城は何も返さずただ突っ立ったまま。


「まあ、仕方ないとは思うけど」


岩本はそう言って小さな溜息を吐いた。


「……感染」


はしゃいでいた山井の声が後ろから聞こえたような気がした……。


「山井……」

「岩本ちゃん、気楽にいこーよ、ね?」

「何言ってんだ! さっさと進むぞ!」


宮城の声で、山井の声はかき消され、俺は何の考えも抱かず歩き出した。そこに、慌てたような素振りをしながら山井が付いてきて、岩本は何かを考え込むように歩き出した。


「岩本! 何考えてんだ! さっさと歩け」

「……」


宮城はそう言ってズンズンと進んでいく。岩本は何も答えず歩き出し、山井はチラチラと岩本の方を気にしながら、同じようなペースで歩いていた。俺は、なんで女子ふたりは変な風に考えてるのか全く分からない。あのモンスターを倒して強くなれば考える必要もないのに。そしてこのダンジョンを攻略すれば神とやらの居場所を突き止める手掛かりが手に入るかも知れない。そして、神とやらの場所が分かれば世界を元に戻す方法もきっと分かるはずだ。だから、そんなに考え込む必要なんてないのに、バカだなぁ、なんて考える。とりあえず俺もさくさくと前に進む。そうすると、またガラスが割れたような音が響き、視界が歪んでモンスターが現れた。


「またゴブリンとリスかよ。ぶっ殺してやる」

「これくらい楽勝だな」


宮城と俺はそう言って一歩踏み出した。頭の中にどう動けばいいのか、どういう風に戦えばいいのかぽんっと浮かんでくる。俺はポケットから三色の玉を取り出して宙に浮かべた。この玉は俺から半径一メートルの間なら自由自在に操れる。ていうか玉は自分で用意しないといけないのかよ。めんどうな力。なんて思いながら、こちらに向かってきたリスを軽く横に移動して避けながら口の中に玉を入れて素早く移動するよう念じる。変な音を立てながらリスの体に穴が空いた。


「うっわ、きったねぇ……」


チラリとリスの死骸と玉を見て呟いて一歩後ろに下がる。木の棒みたいなものが目の前を通り過ぎ、ギィギィと鳴いていたものがギィイイと嫌な音を発しながら倒れた。音を立てていたゴブリンみたいな化物には二つ体に穴が空いていた。


「うげ、緑の液体ついてやがる。マジないわ」


そう呟いて玉を横で勢いよく振り、液体を落とした。玉は半径一メートル以上動かない。超えることはなく、空中で止まり、俺が動くと付いてくる。なんか、変な感じだ。辺りを確認すると、どうやら宮城の戦闘は既に終了していた。というより、宮城の剣ってどこにしまわれてんだ? 腰に下げてるってわけじゃ無さそうだしな。まあ、なんでもいいか。後ろを見ると何もせずに突っ立っている女子二人組がいる。今回の戦闘には参加してないみたいだ。


「その玉でも倒せんだな」

「そーみたいだけどさ、すっげぇ汚れんだよなぁ」

「ふーん」


反応薄いなぁ、なんて思っていると少し離れたところに放置してあった死骸はいつの間にか綺麗さっぱり消えていた。


「死体も消えたところで進むぞ」


宮城が簡単にそう言うと、俺達は簡単に返事をして進み始めた。会話なんてなく、山井が時々食べ物を探して見つけた時に反応する岩本の返事と宮城の舌打ちが聞こえてくるくらいだ。あぁ、後それを放っておけよ、という俺の声もたまに混じるな。それ以外は全くもってないな。不思議なくらいに。まあ、とりあえず迷宮を進めればいいだけなんだ。何も気にせず敵を倒して進むぞ!


そして、俺達は大きな扉に辿りついた。

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クラス・アイドル・育成物語! 柘榴ちゃん @629760-0818Nakatori

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