第4話 パーティ

放送が終了して、岩本の方をちらりと伺うと何故かクラス1の変人ーー山井 三奈が話しかけていた。なんで、あいつが……? と思ったのと同タイミングで離れていく。その時、岩本が悲しそうな顔をしたのは俺の見間違いだろうか。そんなわけないよな。聞きに行きたかったが流石になぁ、と迷った挙句聞きに行かなかった。俺は辺りを見渡す。相変わらず女子は殆どが三浦 華のところか、中木 海来のところに集まっていた。一部の女子は除くが。男子はそれぞれ色々なチームに分かれていた。何人かは一人で携帯をいじっていたが。というより携帯使えたのか。俺もゲームしよかな……。その前にウィンドウの見てない部分も見ておくか……?


ウィンドウを開いて見てないミッションか、スキルのどっちから見ようかと悩んだ。結果的に選んだのはミッションだ。なんとなく見ておいて出来そうなものをclearしていきたいから。ミッションと書かれた欄をタップする。そうすると、いくつかのミッションが表示された。



一人の人間が死ぬ or 殺される clear

新たな発見をする clear

レベルを上げる clear

迷宮にもぐる clear

外に出る clear

パーティを組む clear

隠れパーティを組む clear

迷宮の敵を一体倒す clear

外の敵を一体倒す

他の9個のミッションを clear する



なんだ、これ。ほとんど clear されてんじゃねぇーか。もしかして、これクラス全体でのミッションなのか。じゃなきゃおかしいもんな。レベルは岩本が上がったし、俺は外へ出る方法や迷宮の潜り方も知らない。ましてやパーティってどう組むんだ。全然知らねぇよ。どうしようか、と考えながら一人の男友達に話す。



「深ー」

「秋山? ……なんか用か?」

「用がなかったら話しかけちゃいけないみたいな言い方だな、おい」



けたけたと笑いながら中居 深にミッションについて話をする。どうやら深もミッションは見ていなかったらしく、驚いていた。深のミッションについて聞いてみると、やはり俺のミッションと同じだった。なら、このクラスの中の誰かが情報を秘匿している、ということになる。きっと聞いて回っても教えてくれるやつは少ないだろうな……。



「というか、どうやってパーティを組むんだ?」

「さあな。……なんかないのか?」

「……あー、なんも思い浮かばねぇ。深は?」

「いや、知ってたらこんな悩まねぇよ」

「それもそうだよなぁ」

「取り敢えず思いついたものからやっていくってのはどうだ?」

「思いついたもの……?」

「ほら、握手したりだとか……」

「あー、なるほどな! んじゃ、はい」



ん、と軽く右手を差し出すと深は少し呆れたような顔になりながら俺の手を握った。そうすると、目の前に新たなウィンドウが開く。



「マジか……」



何故か提案した本人の深が俺より驚いていた。そのことになんでだ? なんて思いながらもウィンドウに書かれている説明文を流し読んでいく。取り敢えず簡単にまとめるとパーティを組むと敵を倒した時に得られる経験値が自然と分配されるらしい。そんで、隠れパーティは他の人にパーティを組んでいることが確認出来なくなるみたいだ。見られて困ることなんてあるのか不思議に思うが、困る奴もいるんだろう。情報をこんなに隠し持っているのだから。



「で、秋山はどうする?」

「何が?」

「隠れパーティでいくのかって話だよ」

「ああ……そうだなぁ…」

「俺的には隠れパーティで行ったほうが動きやすいと思うんだけど」

「なんで」

「情報を隠してる奴がいるんだ。危ないと思わねぇか?」

「そりゃ、まあ、普通に考えればそうだけどよ」

「だろ? なら、俺らもいざって時に誰かと繋がっておくべきだと思うんだ」

「……確かに」

「まあ、俺は秋山が嫌なら普通にパーティ組むだけでいいと思うけどな」



俺はそう言われてうーん、と考え込んだ。確かに深のいうことも一理あるんだよな。このクラスのやつが誰かと隠れて繋がって、変なこと起きたら、確かに困る。だけど、隠れパーティと普通のパーティ。何が違うんだ? 隠れて繋がっていたって別に普通のパーティと同じようなもんなんだし関係がないように思える。俺は考えたけどなにも思い浮かばない。まぁ、深にも考えがあるんだろう。深に隠れパーティで行く、と伝えてウィンドウを操作した。パーティを組んでウィンドウを閉じてもう一回開くと項目が増えている。タップしようとした時、放送が鳴り響いた。



『はっはー! 君たちはすごいね! まさかこんに早く簡単にミッションが clear されるねんて。ヘルプには書いてなかったのに、すごいよ! まあそんな事はどうだっていいんだけどさ! さて、そんな君たちに僕から特別なプレゼント。プレゼントの中身は受け取った人のお楽しみ。ワクワクするね! じゃあ、引き続き頑張ってー』



プツンと、放送が切れる。いつものクラスなら、これで煩くなるはずなのに何故か異様に静かなままで時間が過ぎていった。俺はチラリと深の方を見る。深も俺の方をチラリと見やり、ウィンドウを出した。そして、少しまゆを寄せる。小声で何かあったのかと聞くと職業が増えていたらしい。



「皇帝?なんだ、それ」

「分かんねぇよ。なんか、嫌な職業な気がする……」

「そうか? 俺だったらワクワクするな」

「秋山」

「なんだよ?」

「お前のところにはメッセージ来てるか?」

「メッセージ……?」



俺は言われてもう一度自分のウィンドウに視線を移した。そこには小さなビックリマーク。タップすると短いながらも、驚くような文章が表示されていた。



第10階級のミッションが全て完了されましたので、新たなミッションを解放します。



「深、これって……」

「ああ、やっぱり秋山も同じか。新たなミッション……。どうする」

「いや、どうするってclearを目指すしかないだろ……?」

「……それも、そうだな」



少し目を伏せて深は答えた。なにかおかしなことを言っただろうか? 思い当たる節は何も無いが、聞こうと深の名前を呼ぼうとしたら何故か大声で呼びかけていた。まるで、なにかに動か……される……よ、う……。



……さっきまで、何を考えていたのだったか? 少し曖昧だがきっと深が大きな声を出したせいだろう。きっとそうに違いない。さて、深がなにについて話しているか。どうやら新たなミッションについて、らしい。新たなミッション、と聞いて皆様々な反応を見せた。ビクリ、と震える者。少し喜んでいる様子を見せた者。本当かどうか確かめている者。何も気にしていないように振る舞う者。そして、俺と同じように周りを見ている者など。



全員がペアを組む

五組のペアが迷宮に潜る

十組のペアが迷宮一階層を攻略する

五組のペアが外へ出る

十組のペアが外の敵を一体倒す

全員の職業レベルを上げる

全員のスキルレベルを上げる

三つのチームを作る

一つのチームが何かを作る

上の九つのミッションを clear する



またおかしなものが出てきたなぁ。ペアにチームか。パーティについてさえまだ全然分かってないのにチームとか分かるかけがない。まあ、深の指示で取り敢えず分かれることになったが……。男女のチームじゃ三つに分かれたとは言えないのではないか? そう思ったが何故か clear がついた。意味が分からない。皆が不思議に思いながら仕組みが分からないのにどうすることも出来ないのでミッションを clear する方向になった。次はペアを作るようだ。確かに、何かを作るよりもそっちの方が簡単そうだしな。とりあえず周りの奴らに声をかけるとどうやら皆はペアを決めているようだ。仕方ない。少し歩くか。机から降りて一番最初に目があった宮城のところに行く。そして、ペアに誘ってみるがどうやらもうペアがいるようだ。まじか、と少し落ち込みながら誰か空いてる人はいないか、と聞くと宮城のペアらしい岩本がなら山井と組んでくれないか、と提案してきた。なんでわざわざ山井なのか聞いてみるとコミュ症だかららしい。山井が。まあ、ぽいよな、ぽい。



「じゃあ、取り敢えずこのメンバーでパーティ組むか?」

「私は任せるよ」

「岩本ちゃんに任せる」



宮城の提案に全員が頷き、パーティを組む。今回は普通のパーティだ。しかし、組む時ウィンドウが開いて『情報を開示しますか?』と出たのには驚いた。俺的には別に開示しても良かったが何故か拒否されました、と浮かび上がって消えていった。宮城が俺達に拒否したのは誰だと聞くと山井だった。何故、と聞いても答えずにイヤホンをして音楽を聞き始める。宮城が睨みつけるものの、気にした風もなく肩から掛けられたカバンから何かを取り出して食べ始めた。岩本は呆れたようにため息をついて、宮城は怖い顔で睨み付けている。なんか、とてもカオスな空間だ。居心地? そんなものはなかったんだ。悪いってもんじゃない。最悪だ。俺、このペアで、このチームでやっていけるかどうか不安でしかない。



「まあ、宮城落ち着いて。山井は後ろを付いていくスタンスだから行動の決定にある程度は文句は言わないと思うからさ」

「けっ……本当かどうか怪しいもんだな。クラス行事だってほとんど参加しねぇヤツじゃねぇか。それに情報を開示しないってのはこの状態では正気を疑うね」

「それを言われたら何も言えないけど。まあ山井は山井なりに考えがきっとあるんだよ」

「だがなっ……」


「全員決まったなー!? じゃあ次に移るぞ」


「……チッ」



宮城は舌打ちして椅子に深くもたれかかった。その姿はどこからどう見ても不機嫌そのもの。少し離れていた奴らが更に離れていく。俺達だけぽっかりと取り残されたような感じだ。俺、ペアやパーティ組んだのは早まったかも知れねぇ。心の中ではぁ、と深いため息を吐きながら深の声に耳を傾ける。すると、深の彼女ーー中山 有紗ーーが偶然外と迷宮へ行く方法を見つけた、とみんなの前で発表した。すると、女子の一部が外に行ける、と喜び、とある一部の男子が迷宮に潜ろうと声を上げた。煩くなったので、深はこのままどうするかは各自の自由としてクラスでの話し合いは終了した。



「……」

「……」

「……」

「ふんふんふーん、ふんふー」



静かな俺達の空間に山井の鼻歌が響く。岩本は本を読み始めた。宮城は携帯をいじっている。俺はなんとも言えない空気を感じながら近くにあった机に座りながら三人を見ていた。静かな俺達の空間に響く音は山井の鼻歌と、宮城の携帯から微かに聞こえてくるタップ音、そして岩本が本のページをめくる音だけ。



おい、本当にどうなってんだ。空気が重い! 一人は自由人。一人は気象が荒い! 一人はマイペース! 俺はどうすればいい? なぁ! 誰か教えてくれ! これはどんな行動を取れば正解なんだ!? かれこれこの静かな空間で二、三時間経過してるぞ!? 教室に残ってるやつなんてほとんど居ないんだ! 気付けよ! お前ら気付けよ!!



「あ、岩本ちゃん。もうクラスに誰も居なくなってるよ」



そんな願いが通じたのか山井がイヤホンをようやく外し、岩本に話しかけた。



「ん? あぁ、本当だ……どうする?」

「どうもしないけど」

「まあ、そう言うと思ってたけどさ。でもこのままっていうわけにもいけないでしょ」

「あー、そうですねー」

「やる気ないなぁ」

「そんなことないよ。やる気じゃなくて動く気がないだけだよ」

「……ほとんど一緒だよ」


岩本は小さく溜息を吐いた。それを見た山井はどうでも良さそうにあくびを一つこぼす。宮城はチラリとふたりを見てまた携帯に視線を落としていた。



「まあこのままってわけにも行かないか」

「そうだよ。だから何かしよ?」

「うん。分かった。じゃあ単独行動取っていいかな」

「ダメ」

「ウィッス」

「どうせならみんなで行こうよ。折角のパーティなんだから」



そう言うと山井はあからさまに嫌そうな顔を見せた。岩本はそんな顔を見て困ったように笑い、宮城に声をかける。



「ね、宮城。こう見えても山井は意外と使える力を持ってるからさ。機嫌直して行こうよ」

「……チッ」

「あははははは……はぁ」



岩本がため息を吐くと宮城は立ち上がりスタスタと歩き出した。どうやら行くつもりらしい。俺と岩本もそんな宮城の後をついていく。歩いて目指す場所は前の出入口。行く先はどうやら迷宮のようだ。外に行くには窓に触れる必要があるようだからな。



そして、宮城は扉に触れた。



一瞬で真っ暗になる視界。フワッと宙に浮かぶ感覚のあと、硬い地面の感触。グッと上から押し潰されるような圧迫感を受け、視界が段々と明るくなっていく。そして、見えたのは澄んだ青。風に揺らめく緑。それが辺り一面に広がり、まるでどこまでも続いているかのよう。



「なんだ、これ……」

「すごい……」

「……この草は食べれるかな……」

「どこまであるんだ……」



それぞれが思ったことを口に出す。上から宮城、岩本、山井、俺だ。一つだけ変な思いが入っていることなんて気にしちゃいけない。取り敢えず、今はこの場所がなんなのか把握しなければ……。

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