第13話

一月二十五日、予定通り店を休みにしたまつりの一行は大蔵、安田と待ち合わせて湯島天神まで出掛けて行った。

この日雨は降っていなかったが前日からの冷え込みで一日曇天が予想された。

昨日から何を着ていくか悩んでいた茉莉花だったが、結局いつもの軽装にする事に決め、カルサンに羽毛の半纏にしていた。

由佳も普段は荷物を持たないが、今日は遠出をするので、なんとなく無人の店に色んな物を残して置くのが気が引けた。

そのため、辰五郎から受け取った山本の手紙や電源を落とした携帯などを一まとめにした袋を斜めに背負って出た。

「お母さんそれも持って行くの」と茉莉花に言われたが、無人なのが怖いと説明すると茉莉花も小さな袋を持った様だ。

あいにく丸山は御用多忙との事で不参加だったが、総勢八名の一行は足取りも軽く一刻あまりで着いた。

高輪から湯島までは東海道をほぼ真っ直ぐだ。


神社にはすでに人形を求める人が大勢集まっていた。まだ社務所は開いていないらしい。

梅はまだ三分咲きと言ったところだが、本数が多いため、なんともいえぬ良い香りが神社を包んでいた。

「間に合ったね、それにしても凄い人だね。人形買えるかな」と茉莉花は不安顔だ。

「一人ひとつしか買えないそうなので、皆で並びますかね、それともお参りを先にしますかぃ」と辰五郎に聞かれ、人形が買えないと困るとの意見で、天神様には悪いが先に人形を買う列に並んだ。

普段は特にお給金を渡していない由佳だったが、お年玉も兼ねて、夕べ一朱づつ、まつりの皆に渡してあった。

やっとの事で人形を買い、押し出されるように拝殿に詣でた。

「ふう、どんどん人が増えてくるね。手水舎の横に梅林があったけど、ゆっくり見ることも、休む事も出来ないね」

「お嬢さん、それなら、この先の女坂の辺りにも梅の木は沢山植わっているそうですぜ、そっちのほうが空いているはずですよ」と辰五郎が皆を案内してくれた。

「茉莉花、おいらと取替えしようよ」と文太に言われ、

「いいよ、替えましょ、替えましょ」と交換した。

おふきはと見ると人形を手にもじもじしている。

「おふきちゃん、取り替えないと厄が落ちないよ、ほら、大蔵さん、ぼーっとしてないでおふきちゃんと交換してあげなよ」と茉莉花に言われ二人はそっと人形を交換した。

「じゃあ大蔵さん、次は俺と交換して」と安田が大蔵の人形を取ろうとしたので、由佳はとっさに、

「安田さん、私と交換しましょう」と自分の人形を安田に押し付け、安田の人形を取り上げた。

由佳は茉莉花と目配せを交わし、大蔵とおふきを見た。二人はお互いを意識しながらも周りを見回しながら歩いていた。そんな様子を微笑ましく思いながら、「二人が幸せになりますように」と由佳は心の中で祈った。


「お、なんだか空がだいぶ怪しくなって来ましたね、こりゃひと雨来るかも知れねぇ」と辰五郎に言われ皆は少し急いで女坂を降りかけた。少し霧も出てきた様だ。

「見てみて、あそこの梅はずいぶん真っ赤だよ」と文太に言われ見ると、梅林の中ほどに他とは色の違う紅梅が一本立っていた。

「本当だ、珍しい木なのかな」と一旦は降りかけた坂を少し戻り、皆で梅に近づいた。

薄く靄がかかった中に赤い花を咲かせた梅の木はことのほか凛として見えた。

茉莉花と文太が木に近づいたそのとき、数羽のムクドリがバタバタと空に飛び上がった。

「なんだよ、脅かすなよ」と文太が鳥に向かってこぶしをあげた時、ぐらっと地面が揺れた気がした。

由佳はデジャブを感じ、咄嗟に「茉莉花」と叫んで茉莉花の元へ駆け寄った。

茉莉花も由佳に手を伸ばす。

文太は走って来た由佳に気を取られ、振り返りざまに尻餅を付いた。

「いってぇ、なんだよ、地震かい」と尻をさすりながら辺りを見渡した文太が、

「え、茉莉花さん、どこに行ったんだい、女将さんもいねぇ」と叫んだ。

その声を聞いた辰五郎と大蔵が急いで駆け寄ってきた。

「辰っつあん、茉莉花さんと女将さんが、今さっきまでそこにいたのに、消えちまった」と慌てて梅の木の周りを走り回った。

大蔵と辰五郎は頷き会うと、「文太、落ち着きねぇ」と文太の腕を掴んだ。

「何言ってんだよ、これが落ち着いていられるってのかよ、おいらの目の前で女将さんと茉莉花さんが消えちまったんだよ、神隠しにあったに違ぇねぇ」と辰五郎の手を振りほどいた。

「文太、二人は神隠しにあったんじゃ無いのだ」と大蔵に言われ文太は「えっ」と大蔵の顔を見上げた。

「二人はな、時滑りしたんだ」

「なんだよ、その時滑りって」と言い掛けて、文太ははっと気がついた。

以前雛屋にかどわかしにあった時、雛屋が「時渡り」と言っていたのを思い出したのだ。

「それって、時渡りとかいう言葉と一緒かい」と大蔵に聞いた。

首肯した大蔵は時滑りの事を簡単に説明した。

話を聞いた文太は懐から鷽替えの木彫りの人形を出し、

「それじゃ、もう茉莉花さんには会えないんだ」とつぶやいた。

辰五郎は文太の肩に手をかけ、

「こればかりはどうする事もできねぇんだ」と声を掛けた。

人形を握り締め俯いていた文太は、

「長崎帰りってのは嘘だったんだね。皆でおいらに内緒にしてたんだ」

「すまねぇ」

おふきは「ごめんね文太ちゃん、でも言えなかったんだよ。堪忍してね」とすがりながら泣いた。

「おいらに字を教えてくれるって言ったのに、女将さんはそろばんも教えてくれるって言ったのに、おいら、ちゃんと恩返ししてねぇのに」

と震えながら言い、梅の木に向かって

「茉莉花さん、女将さん、まりか、まりかぁー」と泣きながら何度も叫んだ。

おつたもたまらず文太に駆け寄り、抱きしめながら泣いた。

「無事に元の場所に戻れたらいいね」と安田が梅の木を見上げつぶやいた。

それに応えたのか、先ほど飛び立ったムクドリが戻ってきて木に止まり、「ギャー、ギャー」と鳴いた。


「由佳さーん、大丈夫ですか」と純子の声がした。

由佳は茉莉花の顔を見ると、両手で体を触り、「大丈夫、なんとも無い」と確認した。

茉莉花は「大丈夫だよ、それより戻ってきたのかな」と周りを見渡した。

目の前には楓が秋の日差しを受けて鮮やかな赤い色を誇っていた。

「とにかく降りよう」と二人は純子声のする方へ歩いて行った。


「由佳さん、茉莉花もその格好どうしたの」と純子に驚かれたが、

「話は戻ってからにするね」とだけ答えて足早にキャンプ場に戻って行った。

「お、お帰り、どうだった、紅葉はあった」といいかけた亮一は二人の様子を見て、

「どうしたのその格好」と目を見張った。

由佳は、「とりあえず缶チューハイ頂戴」と貰い、一気に飲み干した。

「あー、本当に戻って来たんだ」というと、皆を前に茉莉花と由佳が体験した事を話した。

最初は皆黙って聞いていたが、「そんな事あるわけないじゃん」と笑われた。

しかし二人が着ている物はさっきまでの服装とは明らかに違っていて、ダウンのコートに至っては半纏に作り変えられている為、半信半疑だが信じるしか無い。

「それにしてもタイムスリップって、出来すぎじゃね」と亮一は行ったが、

「そうだ、充電器、充電器」と茉莉花は携帯を充電して

「実は、下屋敷で一枚だけ取ったんだ」と携帯を見せてくれた。

そこには怪訝そうな顔をした若様と、髪を島田に結い、着物を着た茉莉花が居た。

「本当だ」と亮一はその写真を見てやっと信じる気になった様だ。

「しかし、同じ場所に戻って来れて良かったよね、もし違う場所や時間だったらこっちは大騒ぎだった」と亮一が心配した。

「うん、それは心配したよ。でも、こうして落ち着いちゃうと何だか夢を見ていた様な気がする」

「でもお母さん、私たちは確かに江戸で四ヶ月近く過ごしたんだよ、だからその四か月分は髪も伸びているし、年も取ったって事じゃない。それって損なのかな。それに、もしも、もっと長く向こう居て戻ったとしたら、うんと年を取ってしまっているって事になるよね。

それじゃまるで本当の浦島太郎だよ。私たちはそうならなくて良かったね」

「うん、そうね。短い期間で良かったのかも」とすぐに戻れて幸運だったと由佳は思った。


その夜二人は久しぶりにシャンプーで頭を洗い、みんなとバーベキューをし、遅くまで体験談を話しながら過ごした。

由佳は寝る前に袋の中身を確認した。

向こうから持って来たのは山本の手紙と財布だった。財布には二朱と小銭が入っていた。

「山本さんの住所に届けに行かなきゃね」と茉莉花が覗き込みながら言った。

「そうね、今度川越の資料館にも行ってみたいな」

「そうだね、あの後、川越藩はどうなったのかな」と茉莉花は窓から空を見てつぶやいた。


次の日、帰る途中に亮一にお願いして妙見神社を探した。

妙見神社は名前を星宮神社に替えていたが、確かに同じ場所に神社はあった。

「こんなに小さかったっけ」といいながら拝殿に向かうと、昔の面影を残した拝殿があった。

由佳は「無事戻ることが出来ました」とお礼を言いながら参拝した。

正覚寺にも寄ってみた。

「こんなに大きかったっけ」と茉莉花は先ほどとは逆の感想を漏らした。

正覚寺の案内には寺に一泊し座禅が組める催しを行っていて、今では人気の寺になっているようだった。

由佳は「道高さん、人々に寄り添ったお寺になった様ですよ」とつぶやき、

名栗を後にした。


「そうか、楠田親子は再滑りしたもようか」と丸山からの報告を聞いていた矩典は立ち上がって障子を開け、庭に出た。

「無事であれば良いがの」とつぶやいたが、振り返って、

「此度は存外短かったの、これで符丁が合えば再滑りする事がはっきりした。渋谷は記録し、丸山はこの件を急ぎ文左衛門に知らせよ」と命じた。

丸山が畏まって下り、渋谷も下がろうとした時に、

「渋谷、白モッコウの手配はどうなっておる」と聞いた。

「はっ、春になれば植えることが可能と聞き及んでおります。苗木は出入りの植木屋にすでに注文してございます」

「そうか、してどこに植えるかだが、渋谷、そのほうどう思う」

「はっ、僭越ながら申し上げますが、私めはこの本丸と喜多院にも植えられるのが良かろうと存じます」

「墓所にとな」

「はい、時滑りたちの話を聞きますと、幕末の後、城や屋敷はことごとく召し上げられ、手が入ると聞き及んでおります。しかし神社仏閣は多くがそのまま残されたと聞いております故、墓所にも植えられるのが良かろうと存じます」

「ふむ、しかし余はいずれ養子に出る身。いずこに葬られるかわからぬ。しかし、それはその時考える事に致すか。良い、そのように手配せよ」

と指示し、「もう下がってよい」と命じた。

一人になった矩典は再び庭を眺め、「茉莉花、壮健であれよ」と呟いた。


キャンプから帰り家に戻った茉莉花は早速パソコンを開いて、川越藩の事を調べた。

若様がその後どうなったのかを知りたかったのだ。

「ねぇ、ねぇお母さん、来て来て」と呼ばれ由佳は並んでパソコンを覗いた。

「若様って、あの後、藩主になったみたいよ」と教えてくれた。

「本当だ、自分は他藩に婿に行くって言ってたよね」と思いながら読むと、藩主の兄が急逝したため文化十三年に兄の養子となって跡目を継いだとある。

名を斉典に変えた矩典は、藩校を立てたり、飢饉や水害の対策を行ったり、さまざまな取り組みをして「好学の名君」と紹介してあった。特に茉莉花の目を引いたのは、水害の時、身寄りのない子ども達を集め、育てる場所を作ったとあった事だ。

「ちゃんと生かしてくれたんだ」とつぶやいた。

さらに検索すると、斉典の肖像画がヒットした。

「えーこんな顔じゃないけど」と茉莉花は抗議したが、「故」と書いてあったので、無くなった頃の姿だと思われる。

「それじゃ仕方ないか、まぁ確かに面影はあるけどね。しかしずいぶん太ったね」と言いたい放題だが、

「若様は藩主になって勉強したことを何とか実現しようとしたんだね」と感心してもいた。

由佳は「文左衛門さんの事も分かるかな」と検索を促した。

「苗字何だっけ」

「大河原だよ」

「あ、これかな、すこつへいだって、変な名前」

大河原文左衛門は家業の薬屋の傍ら漢詩、批評、風刺、和歌、俳句などの著作を残し、風刺小説家、周滑平として一流の学者などを比喩した「学者必読妙妙奇談」という本を残していた。

「今度読んでみようかな、現代文訳があればだけどね」と由佳は文左衛門との約束を思い出して言った。

若様や文左衛門に出会わなければ由佳たちはどうなっていたのか分からない。

そう思うと、いまさらながらに身震いがした。

正覚寺の事も調べてみた。

正覚寺は「武州世直し一揆」の集会場所で、地元の農民達の拠り所になっていたことが判った。

「あの名栗で一揆が起きたなんて信じられないね」と茉莉花は驚いた。

由佳も頷き、「幕末は色んな混乱が起きて、食料が無かったり、理不尽な事が多かったんだろうね」と思いを馳せた。


後日、由佳と茉莉花は山本の住所を尋ねた。山本の家は都内で思ったより近かった。

ちゃんと山本が戻ってきているのかは解らなかったが、家族の人に手紙を渡すだけでもと思ったのだ。

家を探し当て、呼び鈴を押すと、出てきたのはすこし歳をとったが紛れもなく山本本人だった。

一瞬二人を窺うように見ていた山本は、「あっ」と驚きの声を発した。

「山本さんですよね」と問いかける由佳に、

「楠田さんも戻って来れたんですね、いやー二人とも無事で良かった」と涙を浮かべながら言った。

「山本さんこそご無事で何よりです」と由佳は山本の手をとり、お互いの無事を確かめた。


「どうぞあがってください」と案内してくれた山本は少し足を引きずっているように見えた。

「ああ、これ、あの時再滑りして同じ場所で同じ時間に戻ったんですよ。そしたらそのまま大怪我をして、次に気がついたら病院のベッドの上でした。その時の後遺症が少し残ってしまったんですが、クライミングには支障ないんで大丈夫ですよ」と例の屈託の無い笑顔を向けた。

「大変でしたね」

「それじゃ、山本さんは二回も大怪我したって事」と茉莉花も驚いたが、当の本人は気にしていないようだ。

その後、お互いのその後を話し、思い出話をして過ごした。そして今度一緒に川越に行くことを約束した。

帰り際に、「本当にお二人に会えて良かったですよ。最近は、あれは怪我をしたときに見ていた夢だったんじゃないか、と思いだして、少し寂しい気がしていたんです。だから同じ経験を共有出来る人が居てくれて良かった」と言われた。


川越の喜多院は建立は古く、平安初期とあった。江戸初期に、徳川家康の信頼を得ていた天海僧正が住職をしていた寺で、幕府からの厚い庇護を受け、江戸城から豪華な壁画や墨絵で装飾された「客殿」と呼ばれる家光誕生の間や、三代将軍家光の乳母として知られる春日局が使用していた「書院」と呼ばれる春日局化粧の間などが移築されいる場所でもある。

駿府で没した徳川家康公の遺骸を日光山へ運ぶ途中で法要が行われたことから建設された日本三大東照宮の一つである仙波東照宮も隣接しているとあって、参拝客は後を絶たないという。

山本と待ち合わせをして由佳達が訪れた日は桜の時期も終わり、連休の前とあって、参拝客はそう多くは無かった。

大師堂と呼ばれる本堂の裏手に松平大和守家廟所があり、由佳たちは斉典の墓石を探した。

墓石を見つけ、それぞれ手を合わせて瞑目した。

「若様、報告が遅くなりましたが、無事戻って来る事が出来ましたよ」と山本がつぶやいた。

参拝が終わり、ついでに境内を散策しようと庭園に向かった。

「ねぇ、お母さん、川越藩のお屋敷はもう無いんだよね」と茉莉花に聞かれ、

「うん、玄関あたりしか残っていないみたいだね」と由佳はネットで入手した情報を伝えた。

「そっかぁ」と茉莉花は残念そうだった。

庭園の入り口辺りに差し掛かった時、微かに柔らかな花の匂いがした。

匂いの元を探すと、こんもりと形付けられた蔓性の木に白い花が咲いていた。

「あ、モッコウバラだ」と由佳が花に近寄った。

「モッコウバラ?これは白いからシロモッコウというの?」と茉莉花は由佳に聞いた。

「よく知ってるね、モッコウバラは白と黄色があるんだよ、これは白モッコウだね」と答えた。

この白モッコウはいつ誰が植えたのかは定かではないが、茉莉花はきっと若様が植えたんだと思った。

藩主になり、川越を離れることの無かった若様は喜多院が無くなる事は無いと踏んでここに植えたんだと信じたかった。

摘んでいた小さい花をパッと離し、茉莉花は「ふふっ」と笑い由佳を振り返って言った。

「わたしさ、やっぱり進路は日本史にする。江戸時代の事もっと知りたいしさ」と言った。


由佳は白モッコウから空へと目を移し、丸山や渋谷、そして安田や大蔵の顔を思い浮かべた。まつりの皆はあの後無事に幕末を乗り切ったのだろうか、それを知る術は無いが、もしかしたらこの空の下に、おふきや、文太の子孫が居るかもしれない。そう願いたいと思った。

そして、「若様、みんな、どうか茉莉花の事を見守ってください」と心の中で念じた。


おふきは不意に立ち止まって空を仰いだ。

先を歩いていた文太が、

「どうしたんだい、ぼーっとしてさ」と戻ってきておふきの顔を覗き込む。

「なんか茉莉花さんや由佳さんの声が聞こえたような気がして」と当ても無く空を見上げた。

「もしかしたら向こうもおいらたちの事を考えていてくれるのかも知んねぇな」

文太は馬鹿にせず、一緒に空を見上げた。

あれから文太は正式に辰五郎の養子になり、おふきのことも「姉ちゃん」と呼ぶようになっていた。

昨日はおふきの父親と兄の墓参りをしに名栗まで出掛け、おつたの再婚の報告をし、村長にも挨拶をして、皆で一晩おふきの家に泊まった。

そして今日は、物見も兼ねて喜多院に寄ってみたところだ。

おふきはもう一度耳を澄ませてみたが何も聞こえるはずは無い。

それでもきっとどこかで繋がっているんだと信じて、

「お二人とも元気ですか、こちらはみんな元気にやってますよ」と空に向かってつぶやいた。それを聞いた文太は、

「おふき姉ちゃんは大蔵さんといい感じですよ」と真似して空に向かって言った。

「こら」おふきは赤くなって文太を打つまねをしたが、

「へへっ、だって本当のことだろう、だから茉莉花さんに報告しなきゃ」と言い捨てて走り出した。

「まったく」とため息を吐きながらおふきはおつたと辰五郎が待つ茶屋にあるきだした。


空はどこまでも青かった。


                                    終

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マツリカの時 梶原ユミ @balbal

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