終章:高校生という素晴らしき日々

真世ちゃんという仏のひ孫を娑婆しゃばに留めることができたお陰で、わたしたちの未来に希望が残った。もしあの時、悪鬼神・近本を滅することができずに真世ちゃんを6歳の誕生日に死なせる運命のままだったとしたら、この世はわたしたちが見た地獄そのものの世界と化していただろう。


それが悪逆の神たる悪鬼神・近本が望んだことだったから。


でも、本当にそうなんだろうか?


「もよちゃん」

「ん? な〜に〜、ちづちゃん」


受験目前の師走の下旬、ここへきて焦りまくるクラスメートたちの鬼気迫る空気に飲み込まれ、推薦入試かあるいは一般入試かそもそも大学進学するのかという全ての選択肢の中、『勉強だけはしときなさい』というお師匠の至極もっともなお達しでわたしも受験勉強に喘いでいた。そのわたしにちづちゃんが思わぬ難問を突きつける。


「悪鬼神って、今はどうしてるの?」


ぱたん、とテキストの一切合切を閉じてわたしはちづちゃんの目をまっすぐ見つめた。そして・・・


「さあ?」

「え」

「わたしにはわかんないよ」


事実、なのだ。

あの時近本は地獄をくぐり抜けるというお釈迦様ですら悩み苦しんだことをわたしが呆気なくやった、みたいなことを言ったもんだから、もよりも神か仏かみたいにしばらくもてはやされた。(内輪からね!)


けれども日が経つうちに、『はははっ!』とわたし自身が笑い飛ばしてたらやっぱり違ったか、という感じになったのだ。だから、わからない、人間ごときでしかないわたしにはね。


「でもね、ちづちゃん。お師匠は檀家さんにおやしろの御寄進を募ってね。この間お寺の敷地に建てたんだよ」

「え、そうなの!?」

「うん。って言っても、ほんとみんな経済的に大変で10万円ぐらいしか集まらなかったから、『トコトコ』行ってDIY一式買い込んでさ、お師匠とわたしで小さな小さなお社を自分たちで建てたんだよね」

「すごい」

「でも、そこに近本が入ってくれるかどうかは分かんないし。ただ、放っといたらまた力をつけて悪逆の神として跋扈しようとするかもしれないからいつでも入ってもらえる場所を作っておこうってことで」

「へえ・・・」

「近本はああ見えてウチのご本尊に本気で心服してたみたいだから。勝てない、って。だからそのうち来てくれるんじゃないかな?」

「怖くない?」

「うーん。そりゃあちょっとは怖いけど、元はと言えば人間の愚かさから出たことだし。ほら、『神さまなんて見えないしそこにいるかどうかも分かんないから住まいを無くすような酷いことしたって自分のせいじゃない』って勝手に解釈してさ。何かに似てない?」

「え。なに? もよちゃん」

「『いじめ』に似てるよね」

「・・・うん、そうだね」


そこまで話したところでいつも通り男子3人も集まって来てた。

学人くんが訊く。


「もよりさん。シイナさんて巫女さんの学校に入れたの?」

「うん。戸籍とか色々と大変だったみたいだけど、檀家さんの中に司法書士さんがいたから色々と調べてもらってね」

「シイナさんの巫女姿、見れたらいいね」

「お? ジロー、珍しく艶っぽい発言」


学人くんがからかう。空くんがフォローする。


「ジローくんはお正月に千鶴さんの振袖姿見たいって言ってたよね」


顔を赤らめるちづちゃんとジローくん。

どうなるかわかんないけど、この2人はいい感じだとわたしは思ってる。


「真世ちゃんは普通じゃないけど普通のフリして幼稚園に通ってるし。夏の『合宿』が終わって東京に帰っちゃった真世ちゃんロスを埋めるべく、ひなちゃんが咲蓮寺に遊びに来てくれるし、こうやって5人組のみんなも一緒にいてくれるし」


その後に続く、わたし幸せだよ、という言葉は言わずもがなだったので省略した。


「もよちゃん、受験だけど、お誕生日祝ってあげるね」

「いいよいいよ、ちづちゃん。そんな年の瀬に」

「いやいや、もよりさん。それぞれの進路の安全航海を祈念して二年参りをしに行かないと」

「それぞれの進路、か・・・」


学人くんの元気な発言に対し、空くんがしんみり言う。


大晦日、わたしは18歳になる。


この5人組もそうだし、この高校や高校の外で出会ってきたみんなも、いずれ歳を重ねる。


そして、別離が来る。


「みんな、この縁はまだ続くよ」


ジローくんが微笑して言った。そして続けた。


「だって、一緒に地獄の底まで覗いてきたんだから」


一瞬止まって、それから大笑いした。

5人組で。それから・・・


「ねえねえ、なにもよりたちだけで盛り上がってんのよー!」


クラスのみんなも勉強に飽きたのか疲れたのかわたしたちの周りに集まってきていた。


「いや、あのね。みんな縁あって集まってんだろうな、って言ってたわけよ」

「ぷ。なにそれもより。縁ったってウチらなんて、悪縁でしょぉー」


誰かがそう言ってケラケラとみんなして笑いあった。


そう、だよね。


ハッピーエンドって、そこで終わりじゃない。


てことは、バッドエンドもそこで終わりじゃない。


地獄があるなら極楽もあるよね。


別離があれば再会もある。


わたしはなんだか嬉しくなった。

そして、意味もなく叫び出したい気分になった。


みんな大好きだよ! ってさあ!



おわり


☆とても長いこのお話に最後までお付き合いいただきありがとうございました。

名残惜しい気持ちでいっぱいです。

書き手であるわたし自身もよりを初めとしたキャラたちが大好きです。ですので、いつかどこかで彼女たち・彼たちと再会できる場面を持てたらなと思います。


最後に改めて、この物語を自ら紡ぎ出してくれたキャラたちと、応援してくださった皆様に感謝いたします。

ありがとうございました。

また、お会いしましょう🌺

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もよりがシュジョーを救う法 naka-motoo @naka-motoo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ