2章
第9話
『Freikugel……その意味から、そいつは巷で“魔弾”と呼ばれているそうだぜ』
進吾は、件のプレイヤーについて説明するゲンキの言葉の言葉を思い出す。
数週の間、進吾は学校にその“魔弾”と呼ばれるプレイヤーが居ると分かっていても、特に見つけ出そうとはしなかった。
チートを使う様なプレイヤーとは関わりたくもない、と思ったからだ。
だが、“魔弾”と距離を置く進吾の態度は、ある事をきっかけに一変する。
それは、AGTの運営による告知であった。
『不正が疑われたプレイヤー“Freikugel”につきまして調査を行いましたが、不正が行われた形跡は見つかりませんでした。』
“魔弾”はそれまでデイリーランキングトップに居座り続け、AGTのプレイヤーから不平不満が続出し、ゲームが荒れ始めた。
そして運営へ「”Freikugel”はチートツールを使用していると思われる。規約違反ではないか」という通報が多数あり、それに対応する措置としてこのような告知がされた。
運営の告知を見た多くのプレイヤーは、そんなことはないはずだと憤慨した。
だが、進吾は違った。
改めて模擬店説明会の用紙の裏をじっくり見て、そして確信したのだ。
“魔弾”は確かにチートなどの不正行為は行っていない、と。
「初心者だと思っていたがとんでもない……こいつはかなりのやり手だ」
進吾は唸る。
“魔弾”の戦法は、ゲームの仕様をよく熟知していて、なおかつ相当の修練を行わなければ到達できない、AGTにおけるキャラメイクの一つの極地とも言えるものだった。
ステータスが極端な特化型なのも、“魔弾”の取る戦法を考えれば、当然であった。
それから進吾は、“魔弾”が学校の生徒の誰であるかを考え始めた。
これ程の凄いプレイヤーならば、ぜひとも現実でも関わってみたい――そう思わせるだけのものが、“魔弾”のキャラメイクにはあったのだ。
好奇心が赴くままに、進吾は考察を進める。
手掛かりは、たった一枚のA4用紙だけ。
しかし、それだけでも幾つものヒントが隠されていた。
最初、“魔弾”が誰か見極める際に、一つ懸念があった。
それは“魔弾”の正体である人物を、進吾が元々知らない可能性。
帰宅部である進吾にとって、縦の繋がりは皆無に等しい。学年が違う生徒はほとんど知らないのだ。
更に言うならば、女性恐怖症である進吾は女子を極力避けてきた。だから同じクラスの女子はともかく、クラス外の女子についてもあまりよく知らないのだ。
元々その人物を知らないのであれば、辿り着ける可能性は限りなく少ない。
だが、そんな心配は杞憂に終わった。
進吾が考えを深めた末に導き出した“魔弾”の正体は、進吾と学年は違えど、学校中の誰もが知っている男。
進吾が通っている学校の生徒会長であった。
◇◇◇
生徒会長、
その男は、生徒会総選挙において対立候補を記録的かつ圧倒的票数差で打ち破り、生徒会長に就任した伝説の男。
まず、目を引くのはその外見。
クォーターであると噂の彼は、地毛が白に近い灰色で背が高く、顔が小さい。顔のパーツも綺麗に整っていて、特に女性人気が非常に高い。
だが、勿論見た目だけでは選挙で打ち勝てない。
ハキハキとした声。理路整然とした語り口。人を思いやる行動を真っ先に自分から行う優しさと行動力の高さ。
それらの性格の良さが会長就任に寄与したと考えられる。
生徒会に就任してからの仕事ぶりも生徒・教師の間で共に評判が良く、非常に有能であることが伺える。
弱小部活動取り潰しの学校方針に異を唱えるため、理事長と直談判を行ったことでも有名だ。
そんな完璧を絵に描いたような生徒会長であるが、どこか抜けていて、人懐っこく憎めない部分もある。
彼は、ゲーム好きを名乗っていて、そう公言するだけのゲームの知識量、プレイ時間を誇る。
その為か、勉学に関してはトップクラスという訳ではなく平均程度である。
「呑み込みは早いのだから、ゲームの時間さえ減らせばもっと成績もあがるのに……」というのが、教師の間で共通する生徒会長の学業に対する評価である。
ゲーム好きという趣味を持ち、その趣味によって平均的な成績しかとれないという如何にも現代の男子高校生らしい点は、「生徒会長だって、完璧超人ではないのだ」という親近感を他の生徒に与えている。
さて、進吾がそんな生徒会長のことを“魔弾”の正体だと思う様になった理由は幾つかある。
一つ目。
前述の通り、生徒会長がゲーム好きであること。
生徒会長はオンラインゲームも嗜んでいると聞く。
ならば、AGTをプレイしている可能性も考えられるだろう。
二つ目。
件の紙の表側が学祭の模擬店に関する打合せ用紙であること。
この紙を持っているのは、恐らく何らかの部活の部長・副部長――でなければ、学祭を取り仕切る生徒会の人間の誰かだ。
三つ目。
“魔弾”が戦闘しない日が一度だけあった。
それは、進吾の通う学校における2年生の模試が行われる前日であった。
現生徒会長は、2年生である。
四つ目。
プリントの裏面に書かれたメモの筆跡。
生徒会が設置した目安箱の投書に対する返答は、一枚一枚生徒会長の手書きで行われている。
その筆跡とメモの筆跡を比較した結果、よく似ていた。
五つ目。
「Freikugel」という“魔弾”のキャラクター名。
その単語の読みを調べると、「フライクーゲル」と読むということが分かった。
生徒会長の名前は、白井茂。
オンラインゲームプレイヤーの中には、自分の名前をもじってキャラクター名にする人も一定数居る。
「フライクーゲル」という名前も、「しらい しげる」をもじったものだと進吾は考えた。
これら全てを総合して、進吾は生徒会長が”魔弾“であると結論付けたのだ。
だが、“魔弾”の正体を探ること自体が進吾の目的というわけではない。
目的は、その“魔弾”の正体である人物と関わること。
聞きたいこと、話したいことは沢山あった。
なにせ相手は、AGTにおける正真正銘のトップランクに位置するプレイヤーなのだ。
だから、進吾は生徒会長に接触しようとしたのだが、それには困難が待ち受けていた。
遠く彼方へ届け魔弾 第旧惑星 @erudy128
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