末裔

5

実はこの神社、裏手にあるこの家を含む土地全てが一体である。木々が覆っている為か、外からはこの家の存在が確認できないような造りになっている。中へ入ると、そこは平安時代にタイムスリップしたかのように思える、美しい光景が広がる。京都の街並み同様、代々守り受け継がれてきた場所だ。

「いつ来ても無駄に広いお屋敷やな…。僕の借りてる寝所から本殿まで遠いわ」

「あの離れは、元は使用人の為の建物で、出入り口の近くだからな。大体、お前の家もそう変わらないだろう?」

「比べてもここのが広いわ。第一、あの家の当主は兄や。ほんなら紫様のお傍に居る言うてこっち来たんどす。今更争う気も無いわ」

「なんだ…陽明ようめい殿は引退されたのか?」

「はい。この前兄が正式に引き継ぎました。兄は紫様のお傍に居りたかったらしいで?」

秀明しゅうめいが?そうか、それはめでたい事だな。よし!今度挨拶をしに行こう」

「…いや、その必要は無いと思いますよ?きっと会いに来るに決まってます」

ゆっくりとした歩調の紫に合わせる高倉。一時一時をたのしむかのように。そして歩きながらも話し込む二人。暫くしてようやく本殿へ辿り着く。

玄関の手前中央に紫の草履が、端に高倉の靴が配置される。玄関から上がろうとするが、地面から膝下10センチくらいまでの高さの段差で少々上がりにくい。

「ここの造りおかしいで…」

「あぁ、ね。実は家が焼かれる前はここ、階段だったんだよね。修繕した時はもう大人だったし、面倒だと思ってこうした」

「…その階段も実は仕掛けもん?」

「勿論。子供の頃は、危うく片脚が無くなる思いだったよ」

笑ながら昔の話をする紫。

「…ほんにトラップやったんやな」

左斜め下に目をやり、ボソボソと呟く高倉。

上がった後、廊下を歩く二人。途中、中庭のある方へ向かい、歩き進んでみれば行き止まりである。

「ほう…道に迷おうたんか?」

「いいや?——」

後ろからそーっと紫の顔を覗く。高倉は思う。この顔は、悪戯いたずらをしようと企む少年の顔つきだ。何があるのだろうか?辺りに目を配る。

「ゴトッ」

何か音がしたのでその方向を向くと、いつの間にか紫が消えていた。

「な!…紫様!?」

驚くのも無理はない。高倉は本殿に上がった事がない。むしろ御蔭家本邸に足を踏み入れたのも高校一年生の頃で、高倉からしてみれば目に映る全てが新鮮なのだ。

半分パニックになった頃、行き止まりになっている壁からキィィという音が鳴り、その壁はゆっくりと回転し始めた。

「驚いたかい?」

中からは無邪気な顔をしてこちらを伺う紫が現れた。壁に見えたその行き止まりは実は隠し扉で、その奥は陽の射すことがなさそうな暗い小部屋となっていた。

「さっ、中に入って?この陰の間でないと話せない内容なんだ」

高倉は溜息をつきながら中に入った。あたりはすっかり更けこみ、頭窓とうまどと呼ばれる窓から月明かりが射してきそうだが、木々が邪魔しているのだろうか?光が射さない。二人は座布団を置いて座り、早速本題へ入る。

穏やかだった空は、徐々に雲行きが怪しくなり、辺り一面を雲が覆い月を隠す。そしてとうとう、月明かりは絶たれた。

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闇の守護者 高山 昶 @sat

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