高倉家
4
夕方頃、高倉が事務所へ帰ってきた。
「ただいま帰りました」
「絢君、お帰りなさい」
「宮園さん!?まだ居ったの?もう六時やで?残業させられとるの?」
質問のオンパレードだ。単語、単語で質問された為、思わず笑ってしまう宮園。
「あははっ。もう帰ります」
「サービス残業は程々にせえよ?ウチは残業代出ーへんのやから」
「はい。あ、あの…」
一瞬、やっぱりもう一人の巫女についてを高倉に問いただすつもりだったが、高倉に聞いたところで返ってくる答えは目に見えており、諦めて聞くことはせず、とうとう忘れる事にした。
「ん?何⁇」
「なんも……。お疲れさんどした」
「そう?ご苦労さんどす」
事務所内の所定の位置に荷物を置く高倉。そして着替えを済ませ、辺りに宮園が居ないかを確認した後、高倉は事務所の裏手にまわった。そこには別の入口があり、宮園はこの事を知らない。今では知る者は紫と高倉だけとなる。
「結界が弱まっとる。面倒やけど張り直すか⋯」
高倉は集中し、小さな声で何かを唱えながら印を結ぶ。肉眼では見えないが、何かが変わっているだろう事は肌で感じ取れる。高倉の周りに風の渦ができ、袖や前髪がその風に流される。
その頃の宮園は階段を降りようとしていた。
「あ…桜吹雪……」
背中に勢いよく吹く風に押されるような形で階段を降りた。——まるで、追い出されているような感覚。
「ふぅ…」
結界が張り直され、息をつく高倉。この結界内には御蔭の人間と高倉絢ノ介のみが入れる、高倉家が代々受け継ぐ秘技の特殊な結界なのだ。つまり、御蔭紫と高倉絢ノ介しか入れない事になる。目の前の門が開き、中から紫が現れた。
「…ご苦労様。脆くなっていたのか?」
「はい。何せあの時の僕はまだ小学六年生。結界も未熟やったから…」
「それでもあの歳であそこまで出来たんだ。天才だよ。流石は名門高倉家…といったところかな?」
「よして下さい、僕は僕や。それに紫様は僕なんかより家柄も何もかも凄いやん!」
「……中へ。仕事だ」
門には十六八重裏菊の家紋が彫られていた——
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