桜の秘めごと

3

紫に言われた通り、車の元へ向かった宮園。

「コンコンッ」

黒塗の高級そうな車の窓をノックする。すると窓が開き、新品同様に整ったスーツを着た男性が、それを受け取る。

「ご苦労様です。…初めてお見受けしますね……」

やや間を空けながら話す男性。

「あ、初めまして。御蔭神社巫女の、宮園と申します」

「初めまして。もう一人の巫女様は本日お休みでしょうか?」

話し口調やイントネーションが違う。多分、ここら辺の人間ではないのだろうと直感する。

「…いいえ?巫女は私一人どす」

「…そうですか、これは失礼致しました。では。」

用が済んだ為、その場を去る男性。宮園は去って行く車を見送りながら、胸の奥が何かで突き刺さる感覚がした。

「…誰なんやろう?私以外の、もう一人の巫女って…」

急に突風が吹いた。桜が天高く舞う。

「宮園舞桜…こういう日はまるで、君の為にあるようだね」

声がしたので振り向くと、いつの間にか御蔭紫が背後に立っていた。いつ歩いて来たのだろう?足音は見事なまでに全く聞こえなかった。異様な感覚に包まれた宮園であったが、気にせずそのまま話す。

「…春生まれやから。私が生まれた日が桜吹雪やったそうで、この名前なんどす。というか、来はるくらいなら最初から自分で渡してください!」

「あはは、ごめんごめん」

二人は事務所へと戻る。戻る途中、紫がポツリと呟いた。

「桜舞う、綺麗な名前だよね…」

隣で、その小さく呟いた言葉が嬉しく思える宮園。名付けてくれた親へ感謝するとともに、先程の男性が話していたもう一人の巫女に関してを紫に追求せず、記憶の奥底にしまい込んだ。

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