一章 まだ肌寒い空の下 7

「え?あぁ、大丈夫だ永瀬。ちょっと考え事をしてて」

 声をかけられた方へ顔を向けると、永瀬が上目遣いで太一を覗き込んでいた。

 予想以上に近かった距離以上に、何もかもを見通しているような眼に危機感を感じて思わず目を逸らす。


「で、でも……太一の顔、すごく青いよ?」

「え?」

「ホントに真っ青じゃない!ど、どうしよう!保健室いかないと!!」

「そんなに深刻なのか?今の俺の顔」

「なんというか、この世が終末を迎える直前みたいな顔をしてるな」

 桐山に続き、稲葉も心配そうに太一の顔を覗く。

「もしかして現象に対して分かったことでもあるのか?」


 稲葉が発した何気ない台詞に、太一の背筋に冷たいものが伝った。

「き、昨日プロレス見ながらついウトウトして、布団を被らずにソファーで寝たんだ。そのせいで少し風邪気味かも知れない」

「……そうか。体調管理には気をつけろよ。まだ具体的に現象が把握しきれていない今は、孤立するのが命取りになりかねない」

「あ、あぁ。今後は気を付けとくよ」

 稲葉が自分から視線を外したのを見て、太一はホッと息をついた。

 なんとかまともな言い訳を思いついたはいいもの、さっきから永瀬の視線が痛い程突き刺さっている。今すぐにでもこの部屋から逃げ出したい気分だった。


「しかし太一が風邪となると、余り長引かせる訳にはいかないか。どうせ、ふうせんかずらが来て現象が確定するまでは具体策なんて思いつかん。ここらで解散にしておこうか?」

「……すまん。こんな時に迷惑をかけるのは申し訳ないが、そうしてくれると助かる」

 まさに降って湧いたような助け舟に、太一は迷わず飛びついた。


「家に帰ったらすぐ寝るのよ!暖かくして頭冷やして、そういえば、ネギを首に巻くと直ぐ治るって聞いた事があるわ」

「桐山は俺のおかんか……」


「まあ太一が体調崩したとなると、俺も今日は終いにするのに賛成するけど、このままだと、今後のスケジュールちっとキツくなっちゃうかも知れないな」

「スケジュール?いや、現象の全容が発覚していない今、大体どれくらいで収束するかなんて分かりっこねえだろ?何言ってんだ?」


 何気なく口にした青木の台詞に、訝しげな顔をして稲葉が返す。だが、それに対して青木が取ったリアクションは、鳩が豆鉄砲が喰らったような顔だった。

「いや、文研新聞のスケジュールだけど……あれ?文研新聞の特別号出すんだよね?え?俺なんかおかしいこと言ってる?」

 その瞬間間違いなく部室の空気が止まった。

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