第23話 「〆は友三」
友三は掃除道具が入った倉庫のカギを閉めた。
きょうも一日、無事に終わった。
ゴミの仕分けのできない分は、明日にすることにした。
なんだかんだと、賑やかなで忙しい一日だった。
それでも仲間に囲まれて。
いままでにない充実した日々を過ごしていた。
この仕事についてから気持ちが変わった。
穏やかになり、若返った。
夕暮れ時から、街に明かりがともり、夜になる。
海風が、冬の名残をのこし冷たい。
冷たい風が街の埃を払う。
小樽の街は美しかった。
ランプが似合う小樽。
オレンジ色の街頭がアメ色の街をつくる。
助手席には「たのしい水族館」の箱菓子があった。
「奥様にお土産です」祥子さんがくれた。
「いいえ。買います」と話しても受け取らなかった。
ほとんど手つかずの箱菓子だった。
大田館長までが、「試食用にメーカーから贈られたものです。どうぞ、お持ち帰りください」と話した。
「そうですか。すみません。ごちそうになります」
友三が受け取ると、お土産売り場のスタッフが手を叩き「ご苦労様でした」と笑った。
頼りにされている。
嬉しい限りだ。
「水族館」ではみんな笑顔だ。
友三自身、ここにきて変わった。
そして妻の恵子が変わった。
「おかえりなさい。どうだった?」と、帰宅すると必ずきく。
いままで仕事のことを聞いたことのない妻が、よく聞いてくる。
「あ~今日も忙しかったよ」
「それで?ペンギンのあの2匹?今日もショーへ出たの?」
「あ~結局、また出たな」
「まぁ~かわいいこと。」
とにかく妻は、水族館の生き物が大好きになっていた。
たまに一眼レフカメラを持ち、撮影に来る。
殺風景だった家の居間は、いまでは、水族館の生き物の写真が額に張られるようになった。
友三はそんな妻の姿をみると嬉しくなった。
そして、「オレも族」を卒業しょうと・・思った。
今年から大型バイクの免許を取るつもりで教習所に通っている。
もう年だから、無理な運転はしない。
そう思いながらも、若いころ憧れたバイクに乗るために週に一度学校へ通っている。
目標もうまれ、そして仕事もある。
幸せだった。
助手席に置かれた「たのしい水族館」の箱が揺れた。
小さなエンジン音でかすかに揺れる。
まるで笑っているようだ。
人生、引き合う人は決まっている。
同じ志の持つ、似たような人が引き合う。
そして、引き寄せられたように勤めることになった「水族館」
まだ、まだ、元気で頑張らなければならないようだ。
優しい妻と、スタッフに囲まれて、今日も一日感謝して・・。
友三は信号が青になるとゆっくりと車を発進させた。
カチカチ鳴るウィンカーの音を聴きながら「たのしい水族館」のお菓子は家路へと急ぐ。
また明日。
また明日。
今日という日は、これでおしまい。
だから、大切に、みんな仲良く笑って働きましょう。
それぞれの家族。
それぞれの人の思い出の場所「水族館」
また来ようね。
また行きましょう。
おやすみなさい。
さようなら。
本当に・・・ 完(おしまい)ですよ(笑)
「たのしい水族館 」 haruto @picture-saru-5431
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