第2話 赤い車とボク

カズタカは固まってしまった八紘のことを怪訝に見ていたが、そっと隣に座った。


父親は愛してくれていたのだろうか。

車を大切にしていたと言っていた。

誕生日に買ってもらった車。

小さな頃は遊んで、そのうち飾ってみていた。

ポルシェが好きだったわけではない。

父親が乗っていたと聞いたから欲しかったのだ。

結婚して家族が増えたからと違う車に乗り換えたのだと母親が言っていたからだ。


「八紘。」

叔父が声を掛けてきた。

「俺はこのまま泊まり番するけど、お前はどうする?」

「八紘くんの部屋、そのままにしてあるんだけど。」

早衣子がそっと窺うように言った。


ふと横を見るとカズタカがにっこりと笑い掛けてきた。

明日は土曜日。大学は行かなくても大丈夫だ。

「じゃあ。」

早衣子は少しホッとした表情になった。

「部屋は掃除はしてあるのよ。ベットも。勿論、物にはあまり触ってないけど。」

八紘がうちに戻らなくなってから7年。

少し自分の部屋を見てみたいと思った。


「僕も寝ずの番しますから。一度部屋に行ってもいいですか?」

「もちろんよ。」

早衣子は少し微笑んだ。


二階に上がると右が八紘の部屋だ。

左は父親の趣味の部屋だった。今はどうなっているのだろう。

気にはなったが入ることには躊躇いがあったので、自分の部屋に入ることにした。


電気を点ける。

確かに片付いている。寮に入るときにみた最後に見たそのままかもしれない。


ぼーっとしてると、カズタカが入ってきた。

八紘の手を引くと、廊下を挟んだ向かいの部屋を指差した。

「こっち来て〜」


「これ、お兄ちゃんの?」

向かいの部屋はカズタカの部屋になっていた。

彼の描いたであろう絵やひらがな表がはってあり、本棚には沢山の本がぎっしり入っていた。

古びた本は八紘のお下がりかもしれない。


カズタカが手にしたのは八紘が気に入って読んでいた童話だ。

どうやら子供の時の八紘は持ち物に名前を書くのが流行りだったらしい。

八紘は苦笑いしながら本をみていた。

ふと気づいた。絵本が手作りだったことだ。

手書きで絵も手描き。誰がつくったんだろう。

そんな本が何冊もある。


「これね、パパが作ってくれたの。」

カズタカは一冊の本を見せた。

題名は『赤い車とボク』

赤い車が旅していく話だった。

赤い車は本当の車だったけど、大切な物と引き換えに小さなオモチャに変わってしまった。

でも車は幸せだった。凄く大切にしてもらったから。本当の車だった時には無かった感情っていうものが出来て、嬉しかったり悲しかったり楽しかったり悔しかったり、持ち主の男の子と一緒に成長していく話。

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猫の目の様な三日月の夜に ひろかわ よう @yoh927

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