赤鬼

あれは思い出しただけでゾッとする。

鬼の俺が言うのもなんだが“地獄”とはまさにあの事だ。

俺は物に触れる感覚もあるし、地に足をつけているという感覚もある。

あんたの姿もしっかり見えているし外から聞こえてくる雑音も拾う事ができる。

なにより630年という歳月を経て今もなおあの恐怖を覚えていて身体が震えるのだから生きているという実感はある。

だがあの“地獄”からどうやって生き延びる事ができたかは正直わからないんだ。

今からあんたに話す“地獄”の体験談は場所や日時を含め具体的には語りたくねえし語れねえ。

言葉に出してしまうと恐怖で発狂しそうになるんだ。

いや、言葉にさせない何か不気味な力が働いてしまうかもしれない。

身体が言葉を拒んでしまうのだ。だから許してくれ。

話せる部分は話す。かなり大雑把になる部分があるかもしれんがそこはあんた自身が聞いた通りに感じてくれればそれでいい。

俺の地獄の体験談を話すのはあんたが最初で最後だ。

あんたに話した後はもう誰にも話したくないし話す勇気は出ないだろう。

あんたを見て不思議と話す勇気がほんの少し出たことに神に感謝しなきゃいけねえな。

鬼でも神には感謝するぜ。あの地獄から抜け出してこうして生きていられるのはまさしく神の力があってこそだと思っている。

いや、その神でさえ俺一人を生かすのに精一杯だったのかもしれねえ。

その時助けてくれたのが天照大神かゼウスかテスカトリポカかアマルかキリストかそんなこたあどうでもいい事だ。神がどうなろうと知った事じゃねえ。今俺が生きていてこの話をするために生かされているという事に意味があるんだろうよ。

ああ話が少し逸れちまったな。すまねえ。それじゃあ話すぜ。


場所は言えねえが昔関西地方の島に“美草島”(みくさしま)という小さな島があった。

人間達は俺達の島を“鬼ヶ島”と言っていたがそれは奴等が勝手にそう名付けただけで俺達の住んでいた島は確かに“美草島”だったのさ。

四季折々に咲く美しい草花が島を彩り、風が草木の放つ優しい香りを島全体に満たしてくれていたし、森林に住む小鳥達のコーラスを聞きながら兎や野ネズミらはワルツを踊り、共に住む俺達“鬼族”は彼らと親しく、お互いに愛情を持って共存していた。

勿論彼らを喰らう事などしない。俺達は自分達で耕した土地ににんじんや、大根、ナス、キュウリ、米、麦などを季節に合わせて栽培し、それらを収穫して食べていた。

今でいうベジタリアンだな。見た目で判断されちゃあ困る。

動物や人間を殺した事のある奴なんか一鬼もいなかったんだ。

俺達“鬼族”も人間と同じで男と女がいる。

家族があり、そして子を授かり、育てながら島の中で平和に暮らしていた。

俺の家族は父“紅鬼”、母“銀鬼”と兄の“黒鬼”、姉の紫鬼”そして末っ子の俺の計5鬼だ。

俺は今でこそ赤鬼と言われているが、当時の名は“朱鬼”だ。

鬼族は名前で呼ぶ際“鬼”を省く。

つまり俺の家族の名前は父が紅、母が銀、兄が黒で姉が紫で俺が朱となるわけだ。

ああ、それと犬鬼のポチがいた。

あんた今笑わなかったか?ああ、ならいいんだが。

俺達家族の他に美草島には4つの家族があり合計25鬼が住んでいた。

島には人間はいない。要は鬼族だけが暮らす島だったんだ。

5つの家族はお互いに仲が良く一ヶ月に最低でも一回は全ての家族が集まり、酒盛りや今でいうダンスパーティーなどもしたりで本当に皆仲が良かった。

当時は俺もまだ小鬼だったから酒は呑まなかったが、小鬼は小鬼同士で仲良く遊んだものさ。

とにかく家族という枠を超えた絆で俺達は結ばれていたのさ。

毎日が愉快で楽しく、毎日がたくさんの笑顔と幸せの連続だった。

季節が何回か移り変わっていった後、島に一人の女性が流れ着いた。

それが地獄の始まりだとはこの時俺を含め全ての鬼達は想像できなかっただろう。


桜の花弁が散り、鈴蘭が顔を見せはじめ太陽の光が少し熱を持ち始めた頃、島の東側にある小さな浜辺に人間の女性が一人倒れていたのを隣の緑鬼が発見したのは昼を少し過ぎた時だった。

女は紅と桜色と葵と金色が見事な素晴らしい着物を着ていて女の下敷きになるようにして女の身長の3分の2ぐらいの板をしっかりと抱いていた。

着物の袖口から見える細く白い腕にはまだほんの少し血の通っている色があった。

我々鬼族は濡れた着物を脱がせ、女の小鬼の衣装を着せ(小鬼の衣装は人間の女より一回り大きい)ふかふかの暖かい羽毛の布団に寝かせ、島の女の鬼達が代わる代わる看病した。

看病の甲斐あってか女は3日後の夕方に目を覚ました。

大きな瞳と桜色の小さな唇が特徴的な美人であった。

年は15歳ぐらいだろうか。

女が目を覚ましたと聞き、島の皆は安心し大いに喜んだ。

次の日には女の体調もすっかり良くなったみたいで島の女鬼達の家事や洗濯の手伝いをしていた。

女は名を「薫姫」といい、某藩の姫君だということがわかった。

なぜこの島に流れ着くことになったかの理由は姫君曰く「板を使えば波に乗ってどこまでもいけると思った。」らしい。

無謀にも程があるが顔に似合わずワイルドな部分があるらしい。

まさに今でいうところのスキムボードみたいなことをしたわけだ。

薫姫はスキムボードのパイオニアだったのさ。

まあそれはさておき、姫君はこの島がすごく気に入ったらしくしばらく居たいとお願いしてきた。島の鬼達の中に反対する者は無く、この姫君を皆暖かく迎え入れた。

「この島が気に入ったのであれば姫君の満足がいくまで好きに居なさい。お城へ帰りたくなった時は送って差し上げますからいつでも言いなさい。」

島の長老的存在であった茶鬼は姫君に優しく言った。

「ありがとう。」姫君は満面の笑顔でそう返した。

姫君は家事や洗濯だけでなく畑仕事や小鬼たちとの遊びにも積極的に加わってその働きぶりや遊びっぷりに我々は感心した。

普通お城のお姫様などは仕事など嫌うと思っていた我々は自分達の思い込みが恥ずべきことだと教えられた。

そしてなにより充実感に満たされていた姫君の眩しい笑顔は我々に生きる喜びと幸せを充分に与えてくれた。

このままずっと姫君と居たい。島の鬼達は皆そう思っただろう。

だが不幸というのはいきなりやってくるものさ。

姫君が島へ来て一週間経った頃俺たち小鬼と姫君は今でいう草野球のような遊びをしていた。

空は雲一つない純粋の水色でその水色に決して交わることのない太陽の光が暖かく降り注いでいて体を動かすにはうってつけの気候だった。

太陽に負けないぐらい満面の笑顔の姫君は小鬼を相手に立て続けに三振の山を築いていた。顔に似合わず豪速球を投げるのだ。

俺に打席が回ってきたので金棒を構えて金棒枠に立つ。

ああ簡単に説明すると当時バットやボールなどは無かったからバットの代わりが金棒でボールの代わりが適当なサイズの石だ。

マウンドには気合十分の姫君、自然に金棒を持つ手に力が入る。

姫君が思いっきり振りかぶり凄まじく速い球が迫ってくる。

俺はフルパワーでスイングした。

カンッ。

金棒は見事に球を捕らえた。

球はフルパワーのスイングの力がプラスされて凄まじい加速をつけマウンドにいる姫君のおでこにクリーンヒットした。

「あっ。」

それの光景が目に飛び込んだ瞬間金棒を持つ手に力が抜け、すっぽ抜けた金棒がまるでアッパーカットを受けたように変に上体を反らせ大量の血を頭から噴き出し後ろへ倒れかかっている姫君のお腹へ突き刺さった。

姫君は血で真っ赤に染まったマウンドの上に倒れた。

あんた今笑わなかったか?ならいいが話を続けるぞ。

小鬼達が慌ててマウンドへ駆け寄ったが姫君は即死だった。

その場は深い悲しみに包まれた。

ただその悲しみに相応しくないぐらいの青空が広がっていた。


姫の死は島の鬼達を悲しみの底へ叩き落とした。

望んでももうあの笑顔を見ることはできないのだと思うと耐えられなかった。

鬼達は姫をせめてここではなく故郷へ帰してあげようと棺に姫の亡骸を入れ、そこに島に咲くたくさんの花をいっぱいに詰め、舟に乗せた。

船乗りの肌鬼は姫の棺を乗せた小さな舟を丁寧に漕ぎながら姫の故郷へと出発した。

島の鬼達全員岸から舟が見えなくなるまで見送った。

あれだけ俺達に優しく、曇りのない笑顔を見せていた姫なのだからきっと天国に行けると信じていた。

姫が亡くなり故郷へと旅立ってから10日後のことだ。忘れもしねえ。

“地獄”がやってきたのさ。


その日もいつもと同じような青空が広がっていた。

この季節に晴天が続くのは珍しいことだったが、姫を喪い悲しみの癒えない俺達には暖かい青空は俺達を慰めてくれているみたいでありがたかった。

午前中は小鬼も含め皆畑仕事に精を出し、昼飯を食べ終えた頃から天気は急変した。

西の空が濃い灰色に変わり稲光りが見えた。

灰色の空はまるで青空を飲み込むようにこちらへ向かってきた。

さっきまで感じることのできた優しい暖かさが少しゾッとする肌寒さに変わったように思えた途端に空が暗くなりポタポタと雨が降ってきた。

遠くで鳴っていた雷鳴がかなり近くで轟く。

天気の急変にどこか得体の知れない恐怖心が出てきた矢先に緑鬼が大声で叫びながら全力疾走でこちらへ近づいてきた。

「大変だ!お前達大急ぎで浜に来てくれ!」

俺達家族は訳が分からずとりあえず緑鬼の言う通り東の浜へ行くと既に他の鬼達も到着していて双眼鏡を覗きながらしきりに何かを話していた。

紅、銀、黒、紫の順で双眼鏡を覗いた途端皆の血の気が引くのがわかった。

震える紫姉さんから双眼鏡を奪い皆が指す方へレンズを向けたがそこに映る光景に恐怖した。

遥か沖合にいく隻かの巨大な鉄で造られた船が見え、中央の船の上には何人かの人影が見えた。

俺は手に持つ双眼鏡の倍率を調整しながら拡大されて映し出された光景に恐怖のあまりその場に倒れそうになった。

双眼鏡が映し出したものは船の上の人間達だがその中の一人が片手に持っているのは血塗れで痣だらけの肌鬼だった。

見る限りだと肌鬼は抵抗する力もないらしくダラリと体全体の力が抜けていて、その苦悶に満ちた表情がこれから起こる恐怖を暗示するかのようだった。

俺は双眼鏡を目から離し二、三歩後退した。確かに俺の意思で動いたのに後退りした感覚が無く、それが俺を更に恐怖に追い込んだ。

恐怖の対象が肉眼で確認できる距離(因みに鬼族の平均視力は5.4)まできた時、船首で肌鬼の頭を掴んでいた人間がこちらを指差して隣の人間に何か言ったかと思うと刀を抜き肌鬼の頭と胴体を切り離した。

胴体からは大量の血が噴き出して膝から崩れ落ち、手にした頭、正確には首から血が滴って掴んでいた人間は首から垂れる肌鬼の血を自分の口へ流し込むようにして飲んでいた。

船全体にこれまで感じたことのない殺気が充満していてその殺気と荒れた天候がリンクしかつて無い恐怖を視覚で島の鬼達に伝えていた。

船首に残った肌鬼の胴体を別の人間が掴み軽々と海へ放り投げた。

船は全部で12隻。肌鬼を殺した男の乗っている船は側面に「火猿丸(かえんまる)」と書かれていた。残り11隻の船には「雉丸(きじまる)」と書かれていた。

12隻の船は岸までおよそ50mぐらい来るとそこからそれぞれ等間隔に距離を取り出したところを見るとどうやらこの島を12隻の船で囲むようだ。

肌鬼が俺達の見ている前で殺され、島を囲むという事はつまりそれが何を意味するか小鬼の俺でも理解できた。

奴等は俺達を一鬼も残らず殺す気だ。

それぞれの船には大きな旗が立ち「日本一」という文字が不気味に靡(なび)いている。

俺達が見ている前で火猿丸と2隻の雉丸が浜に到着した。

「紅、おめえは小鬼達を連れて逃げろ。凄く嫌な予感がする。」

長老の茶鬼は親父にそう言うと紅鬼以外の島の男鬼達全員を従え浜へ向かった。

残った紅鬼と俺達4鬼の小鬼は紅鬼に言われすぐそこにある岩陰へと身を隠した。

岩陰から見つからないよう気をつけながら少し顔を出し浜の様子を伺った。

浜で待ち受ける鬼達は茶鬼を含め10鬼。

一方、火猿丸から出てきた人間の数は20以上いた。雉丸からも同じぐらいの数が出てきたように思う。ということは単純に考えただけで10対60。

しかも残りの船にも同じ数の人間がいると想像すると数で圧倒的に不利だ。

いまあんたは「そんなこと言っても鬼と人間とじゃ体格差があり過ぎでしょ?」なんて思ったかもしれないがそうじゃないんだ。

俺達が恐怖に震える要因の一つにその人間達が大人の鬼とあまり大差がないぐらいの体格をしていたのだ。大人の鬼は平均約3mに対し奴等は2mぐらいか。だが我々よりも強烈な殺気を醸し出していた分大きく見えたのかもしれない。

茶鬼とリーダー格の男が浜で対峙する。

「薫姫を殺めた(あやめた)のはお前達だな?」リーダー格の男が言う。

「殺めたのではない。あれは事故だったんだ。せめて姫の亡骸だけは故郷へ、」

凄まじい爆音とともに茶鬼の首が吹き飛んだ。残った胴体が幾つもの光の筋に包まれたかと思うと暫くしてバラバラに砕けた。その様はかなりの数の完成したジグソーパズルがいきなりバラバラになったような感じに似ていた。

リーダー格の男のすぐ後ろでバズーカを持った男がニヤニヤしている。

バラバラになった茶鬼がいたであろう場所には別の男がいて刀を鞘に収めた。

男鬼達はいま起きた一瞬の出来事に唖然としていた。

「俺の名は太郎。そして俺の後ろでバズーカをぶっ放したのも太郎。汚い茶色をバラバラに切り刻んだのも同じく太郎。その他ここにいる連中の名も皆太郎だ。薫姫の無念を晴らしに来た。お前ら全員皆殺しだ!」

なんということだ。推定約240人の太郎が俺達を殺しに来たのだ。

姫の敵討ちにきたのだ。俺達は姫を殺していない。茶鬼の言った通りあれは事故だったんだ。姫が投げた球を奇跡的に俺がフルスイングで打ち結果としてもろピッチャー返しになったけどそれは事故だったんだ。その後すぐに俺の手から離れた金棒が姫の溝落ちに刺さったのも全て事故だったんだ。あの時起こった悲劇は全部事故だったんだ!

「今からお前達全員殺すがその前に一つ聞いておく。姫を殺したのはどいつだ?」それを聞いた瞬間俺は気を失いそうになった。

確実に俺じゃん、、、。俺の頭の上には死亡フラグが立った。

地獄が始まったのだ。


すまない。少し水を飲ませてくれ。

ああ、もう大丈夫だ。では続けるぞ。

火猿丸と雉丸から続々と人間「太郎」が出てきた中には肌の色が黒くというか真っ黒で、背も3m近くありそうなのもいてどう見ても太郎じゃねえだろと思った奴も混ざってはいるが皆屈強な体格と頑丈そうな鎧を纏って手には槍だの刀だの武器を持ち殺意に満ちた眼光は我々に恐怖しか感じさせない威圧感を持っていた。

島の男鬼達9鬼が金棒を持って身構え、さあ戦うぞという姿勢を見せた瞬間、5鬼がバズーカなるものによって一瞬で粉々にされてしまった。その中には俺の兄である黒鬼もいた。

立ち昇る煙に唖然とする4鬼に無数の光の線が走る。

次の瞬間、4鬼の両腕、両脚が切断され浜に転がり、両腕と両脚のなくなった4鬼は太郎達の手によって横一列に立てて並べられた。

遠い岩陰から見ていると4つの置物が綺麗に並べられているように見えたがそれらは決して綺麗な置物ではなく島の鬼なのだ。

一部の太郎は切断した腕や足を拾い上げ食べ食べながら落ちていた金棒を拾い上げ、生きる置物とかした男鬼達を金棒でどつきまわした。

両腕、両脚を失った男鬼達は反撃することも出来ずに奴らの攻撃をもろに受けた。

中でも岩鬼は太郎の金棒による渾身の一撃が頭に当たり頭蓋骨が割れ、脳が飛び出し、目玉が飛んでそこから血が噴き出し後ろに倒れたかと思うとそれを待っていたかのように太郎達が連れてきた犬どもに喰われてしまった。

犬といっても大きさは土佐犬以上あったように思うし数は50匹はいただろう。

あの大きさからすれば50匹ではなく50頭という方が正解の気もするがまあそれはどうでもいい。

残り3鬼のうち2鬼もほぼ同様に痛めつけられ最終的には犬に喰われ残った緑鬼は死なない程度に痛めつけられた後頭を掴まれ金棒を振り回している太郎に「それでこいつ打ってみ。」と言うとまだ意識のある緑鬼を投げた。

飛んでくる緑鬼を待ってましたと言わんばかりに太郎は金棒でおもいっきりフルスイング。金棒は緑鬼の胴体を捉えたが太郎のあまりの破壊力に身体が耐えきれなかったのか「ビチビチッ」と音をたて空中で身体が破裂した。

血塗れの腸や骨が見えそれらが重力によって落ちようとしたところをバズーカが吹き飛ばした。

親父の紅鬼を除く島の全ての男鬼達があっさり短時間で殺されてしまった。

「ここは危険だ。村へ戻って村の裏山から西側へ移るぞ。」紅鬼は小鬼達を連れて急いで村へ続く道を急いだ。

村には女鬼達と数匹の犬鬼がいるが皆顔が青ざめている。

紅鬼は島の男鬼達が皆殺されたこと、なんとかして小鬼達を守り島から避難させることなどを伝え俺達を裏山へと連れて行った。

山を登る途中で振り返ると村は悲惨なことになっていた。

若い女鬼達は押し倒され服を破かれ、太郎達に犯されていた。

年老いた女鬼は槍を肛門から突き刺され槍の先が頭の角を貫通し、その状態で田に刺されてまるで案山子(かかし)のようであったがその案山子を犬どもが飛びつき喰らう。

その間も泣き叫びながらも犯されている若い女鬼達は太郎の精液を自分たちの身体の中に入れられ続け代わる代わるに回され、特に真っ黒な肌の絶対太郎じゃなさそうな奴らは性欲が強いみたいで一回では足りずに何回も抱きついていた。

そのうちの一鬼である桜鬼は犯されながら喉を切られ、血の吹き出る喉元に太郎が喰いつきチューチューと血を吸いながらも腰を動かし、事が終わると喉を喰いちぎりズボンを履く。微かに痙攣している桜鬼を犬どもが貪る。ブチブチッ。血塗れの内臓を咥えた犬に別の犬が群がる。

バラバラになった桜鬼の側で太郎にバックで犯されている紫鬼が見えたがヤッている太郎の手にはナイフがあり、そのナイフが紫鬼の首に当てられたのが見えた。

俺はこれ以上見たくない思いと次は俺達が殺されるという限りなく確信に近い恐怖で村へ背を向け西を目指した。

背後から女鬼の泣き叫ぶ悲鳴と断末魔の叫びが聞こえるが次第にそれらは小さくなり聞こえなくなった。

裏山は背の高い草木が生い茂り走りにくいがその分身を隠し移動できる利点があった。

太郎軍団から逃げながらも常に隣には親父の紅鬼がいる事で俺はなんとかいくらかの冷静さを保てたのだと思う。その親父が俺に一粒の飴玉をこっそり手渡した。

「飴玉?」

「シッ。声が大きい。その飴玉を今すぐ飲み込め。理由は聞くな。」

親父はそれだけ言うと遅れてついてくる他の小鬼達に近付き手を取り前を向いて走った。

とにかく一生懸命必死に死に物狂いで走った。

それでも確実に死が迫ってきている実感はある。

どうしてこのような目に合わねばならぬのだ。俺達は姫君を犯し、喰べたわけでもなくむしろ瀕死の重傷を負って流れ着いた姫を介抱し少しの間共に楽しく暮らしていただけなのにこの仕打ちは何だ?あまりにも酷すぎる。

俺達鬼族は太郎によって完全に駆逐された。

鬼の血で染まる太郎の顔。奴らの頭に巻いている鉢巻の中央に炎のシルエットがデザインされていたのを鮮明に思い出す。

復讐と憎悪の炎が島全体を焼き尽くすのは時間の問題だった。

裏山の山頂を通過し西側の山の中腹まで俺達は辿り着いた。

そこには小さな洞窟があって中に入ると狭い一本の通路になっていて通路をただひたすら進むと少し広い広場のような所に出た。

天井はかなり高く広場の中央には小さな泉がある。

まるで山に食べられ胃まで来た感じだ。

「暫くは奴らはここまで来れまい。だが奴らは犬を連れているから匂いを嗅ぎつけて確実に見つかってしまうだろう。お前達小鬼だけでも生き延びろ。いいかよく聞け。そこに泉があるだろ?この泉は海へと繋がっているのだ。この泉に入り底を目指して潜っていけ。そこまで行けば出口は見えるはずだ。」

小鬼達は頷く。次の瞬間俺以外の小鬼達の首が吹き飛んだ。3体の死骸が転がる。

奴等が来たのだ。

「朱よ!お前だけでも生き延びろ!ここは俺が食い止める。さあ!早く行け!」

俺は泣きたいけど涙を堪えて駈け出すと泉に飛び込んだ。

泉の底は暗く冷たい。それでも必死にそこまで泳ぐ。途中水面の方を見上げると上からゆっくりと何か落ちてくる。

それが俺と同じ目線まできた時親父の右腕であることがわかった。

なぜか悲しくなかった。

泉の底は思っていたより明るくて目の前に小さな洞窟があった。おそらく親父の言っていた海へと続く道なのだろう。

その時俺は気付いた。水中なのに呼吸が出来るのだ。一体何故?

それは後からわかったことだが逃げる道中、俺によこした飴玉はただの飴玉ではなく「水龍のキモ」だったのだ。鬼族の言い伝えには水龍のキモを食べると水の中でも陸にいる時と同じように呼吸が出来るのだという半ばおとぎ話のような伝説があった。

そう、その飴玉が俺に奇跡を与えたのだ。

俺は助かったのだ。その時になって嬉しさよりも悲しみが込み上げてきてどうにも止まらず泣いた。

水の中だから涙はわからない。それでも俺の涙は止まらなかった。

今の海の水の10パーセントは俺の涙で出来たものだと信じたい。

泣きながらただひたすら海底をどこまでも歩いた。


「これで俺の話は終わりだ。」そう言うと赤鬼は紙コップに再び水を入れて一気に飲み紙コップを置きながら小さく溜息をついた。

「大丈夫ですか?」

私は赤鬼のこれまでの体験談を手帳にポイントだけ書きながら彼を気遣う。

「ああ、大丈夫。先にも言ったがこの話をすることはもう二度とないだろう。あんたに聞いてもらえてよかったよ。」

私は慰めを含む笑顔で応えながらも気になる部分を尋ねる。

「一つ質問してよろしいですか?その地獄の体験の後の話を大まかで構いませんので教えていただけますか?」

「大まかでいいならな。それから俺は海底をどこまでも歩いて日本の最南端の小島に辿り着いてそこで暫く誰にも見つからないよう細々と暮らしたのさ。いつだったか覚えていないが人の話によると美草島は太郎達に占領され今も太郎の血筋の者が暮らしているらしい。」

「そうですか。今日は貴重なお時間をありがとうございました。あっ名刺を渡し忘れていましたね。申し訳ございません。」

そう言って私は赤鬼に名刺を渡す。

「今日は本当にありがとうございました。おかえりの際はどうかお気をつけて。また何かありましたらその時はよろしくお願いします。」

私は赤鬼に会釈しその場を去る。

あっ皆さんにも自己紹介がまだでしたね。

大変申し訳御座いません。

私はフリーライターをしています美草壮太郎という者です。

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妖暖話〜あやかしだんわ〜 葵 祐志 @siro556

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