川姫
俺の名前は都築脩斗(つづきしゅうと)。17歳の高校3年生だ。
サッカー部に所属し、ポジションはフォワード。背番号は9。もちろんレギュラーだ。
今年で最後になる県大会へ向けて日々練習に励んでいる。
サッカーは5歳から始めたが今日までスタメンの座を譲ったことがない。
名前の通り、父は俺にサッカーをさせたかったみたいだし、俺もまたそんな父の期待を裏切ることなく必死に練習してきた。
中学時代に一度全国大会に出場し、それなりに得点を決めベストイレブンに選出されたこともある。
こうなると複数の名門校から声がかかったが、それら全てを蹴り地元の高校へ進学した。
理由は単純。強いチームと戦いたいからだ。弱いチームに勝っても嬉しくもなんともない。強いチームから点を獲って勝ってこそ俺の価値が上がるし、なにより達成感が半端なく俺を満たしてくれる。
昨年は惜しくも決勝で敗れ、全国の切符を逃したが、その悔しさより決勝で点を獲れなかった悔しさの方が強く、しばらく寝られなかった程だ。
ゴールを決め、そして勝つ。
そしてその最後のチャンスが次の県大会予選なのだ。嫌でも気合が入る。まあ嫌じゃないが。
実はもう一つ理由がある。
それは俺の通っている高校の女は美人が多いのだ。
そう唯々無類の女好きなのだ。
No girl. No lifeなのだ。
正直言おう。俺はモテる。いや、モテ過ぎている。
ただサッカーが上手いだけではない。見た目が良いのだ。
だから自然と女が集まる。
グラウンドの端のベンチで、校門の前で、誰もいない教室で、俺の部屋のベッドの上で女のいない日はない。必ずどこかで女といる。
ある意味そっちでもハンターであることは否定しない。
というか、むしろ自ら認めている。
同じクラスの女子はほぼ全員抱いた。(一部妄想だが)
当時付き合っていた彼女に見つかり、半殺しの目にあったのも数えきれない。
踏まれても立ち上がる精神力の強さに我ながら感心してしまう。
逆にぶっ飛ばされればされるほど強く女を求める俺は変態なのかもしれない。
変態最高!
訂正しよう。同じクラスと言ったが同じ学年の女子ほぼ全てと関係を持とうとしている。さらに下級生も視野に入れている。
妄想では全員抱いているのだが現実はなかなか難しい。ただ不可能ではない。
事実、各クラスの女子の6割から7割とは事の展開次第ではものになる。
あえて特定の彼女を作らず、サッカーに青春を捧げるイケメン像を作ることにより、獲得率が上がっている気がする。
俺自身を漢字で表すならば間違いなく『性欲』だろう。
サッカーをしている時はゴールに飢え、点を決めた達成感に満たされるが、女といる時は常にムラムラしていてそれを悟られまいと平然を装い、事が済めば何とも言えない解放感や脱力感に満たされる。
いま目の前に「サッカー」と書かれたAの扉と「女」と書かれたBの扉があり、どちらか選べという問いが降りてきたならば、躊躇いなくBへダイブする。
ようはそれほど女が好きなのだ。
いや、女が好物なのだ。
ペロペロしたいのだ。
部活の練習が終わり帰宅中の俺は練習着の入ったカバンを右肩に掛け、周りからいい男に見られようと意識した歩き方をしながら一人妄想していた。
辺りは既に暗くなり、車のヘッドライトや自転車のライト、ビルやコンビニなどの建物の明かりが賑わしく目に訴えかかけてくる。
所々で他校の女達がこちらをチラチラ見ているのがわかるが平静を装いながら商店街を抜け、川沿いの遊歩道に出た。
等間隔に外灯が立っているだけだが脇を走る車の灯りでそれほど暗さを感じさせない。
しばらく遊歩道を歩くといつもの土手を通る。
会社帰りのサラリーマン、ジョギングをしている人、この時間にミニチュアダックスを散歩に連れ出してるおばさんなどとすれ違ったが特に関心はない。
何気なく右側を眺めた。土手の下ではスケボーを楽しんでる奴やたった今キャッチボールを終えた二人組や座ってスマホをいじってるおっさんがいるだけで結構静かだ。
あと30メートル程直進して右側にある橋を渡れば家が見えてくる。
思えば小学生の頃からずっと通いなれた土手だがこの辺りは全く昔と変わらないなあ。
商店街も遊歩道も時間の経過とともにすっかり変わっているが、この土手と名前も知らない小さな川と同じく名前も知らない小さな橋は今も昔も俺の記憶では全く変わらず、この風景が視界に広がってきた時俺んちはもうすぐだと知らせてくれているような気さえする。
変に思われるかもしれないが土手に来た瞬間にどこか安心している自分がいるのだ。
そんなことを思い歩きながら感傷に浸っていると俺の真横を自転車に乗った女子高生が通過した。
身の危険を感じ一瞬ヒヤッとしたがそれが女子高生だとわかった途端、後姿を目で追いながら彼女が残していった少し甘い残り香を強く意識する。
匂いからしてそこそこ可愛かったんじゃねーか、くそっ立漕ぎしていきなり強風が吹いてスカート捲れろ、ってかスカート脱げろなど先程起こった些細な出来事でも充分妄想に入れる俺は間違いなく変態のようだ。
その時何か前方で視線を感じた気がして立ち止まった。
すぐ右側には小さな名も知らない橋であり、自宅へのラストスパートとなる俺の通学路がある。
まさかさっきの女子高生か?いやいや。そんなはずはない。彼女はもう自転車で俺の視界から消えてしまってるし。
じゃあ一体誰だ?
俺の中に搭載されているエロレーダーは視線のする位置を正確に捉えた。
すぐそこにある小さな橋の下。もっと正確には橋を支えている柱の陰からこちらを見つめる一人の女がいた。
柱に隠れて全体は見えないがそこから覗かせている顔つきや髪形や手の感じ、また視線を少し下に向けるとスカートの一部がチラリと確認できたことから女子高生であることがわかった。
ただスカートの柄からしてうちの高校の女子ではない。
「どこの学校の子だろ?それにしても可愛いな。」
柱に隠れてはっきりとは見えない。こちらの視線に気が付いた彼女はサッと柱に身を隠したが、しばらくするとまた顔を半分だけ覗かせこちらをみている。
漫画で例えるならキラキラした瞳に両頬が赤く丸くなりポッと照れてる感じがする。
いつからこちらを見ていたのだろうか?見た感じ俺の知ってる子じゃないし、まあそもそも同じ学校じゃなさそうだから知らないのも当然なわけで。
県大会が近いからよく他校と練習試合をしてるしサッカーの試合を見て知ったとか?
それとも俺がいつもここを通ることを知ってて待ち伏せしてたとか?
様々なパターンが頭を過ったがそれは本人じゃないとわからないなということで落ち着いた。
普段ならここで近づいていって声を掛けるのだが、その時はなぜかそうしようと思わず、柱の陰に隠れる彼女をロックオンしながら橋を渡った。
別にその子に興味がなかったわけではない。
むしろ興味の塊で勝手な想像が膨らむ一方だ。
橋の上から彼女の方を見るとこちらと再度目が合ったのが余程恥ずかしかったのか両手で顔を隠しながらどこかへ走っていってしまった。
彼女の後ろ姿が見えなくなったのを確認すると俺はなぜか誇らしげに自宅を目指した。
学校の放課後を告げるチャイムが鳴る。
「よお!お疲れ。なにボケーっとしてんだよ。練習行くぞ。」
昨日橋の下で出会った彼女のことで妄想している俺は友人の長峰の声で我に返った。
「おう。ってかもう放課後かよ。今日なんか早くね?」
「なに寝言言ってんだよ。昨日も今日も明日もそうだけど1日24時間ってのは決まり切った事実なんだよ。それとも脩斗だけたまに1日10時間の日とかあんのか?寝ぼけてないで早く行くぞ!」
どうやら妄想に集中し過ぎていたみたいで時間の感覚が麻痺してしまっていたようだ。
それだけ女とエロは俺の生きる源になってるということか。
俺は気持ちをサッカーに切り替え鞄を手に部室へと向かった。
練習着に着替えスパイクを履いている時も、グラウンドに出てボールを追いかけている時も橋の下であった彼女のことが頭から離れない。
駄目だ。いまはサッカーに集中する時だ。
最後の県大会、全国への切符を掴む最後のチャンスなんだぞ。
しっかりしろ!
そう自分に言い聞かせたがしっかりしてきたのは下半身のようで俺は一旦トイレへと逃げた。
もう練習どころではない。
今日もし彼女が昨日と同じ場所にいたなら声を掛けよう。
そして抱きつきペロペロするのだ。その後の出来事はご想像にお任せします。
トイレで一人納得した俺は気持ちの切り替えができたみたいでいまは完全にサッカーモードだ。
グラウンドに戻ったらいきなりの紅白戦。
ストライカーの俺は天性の才能とゴールへの飢えからこの試合でダブルハットトリックを決めた。
「すげーじゃん!トイレで出すもの出したらスッキリして覚醒しちゃったか?」
友人でありチームメイトの長峰はゴールを決めた俺の背中を叩きながら冗談を言ったが俺はまだ出すものは出していない。
それは練習が終わり彼女と会ってからだなど此の期に及んで下ネタが出るとはやはり俺は生粋の変態なのだろう。
結局20分ハーフの紅白戦2試合で7得点目を俺が決めた時点で本日の練習は終了した。
チームメイトがそれぞれ部室に戻って雑談しながら着替えを済ませ「お疲れ!」などの言葉をかけながら一人で帰る者、何人かでこの後カラオケに行く者、塾へ向かう者と徐々に部室の中が静かになってきた。
俺は着替えを済ませ自分のスパイクを磨き終えた。
もういまの気持ちは完全にエロモードである。
おそらく今日もあの橋の下で彼女は俺を待っているだろう。理由はないが俺は確信していた。
ムラムラした気持ちを押さえながら部室を出る。
「よお!お疲れさん!」
後ろから長峰が声をかけてきた。
こいつとは幼なじみで一緒にサッカーを始めた。ポジションは左ハーフで俺の得点のほとんどがこいつからのアシストによるもので、ゴールに飢えている俺の一番欲しい位置やタイミングをよく理解している。
「まあ幼なじみだから当然っしょ。」などと言っていたがこいつには俺にないパスセンスというかゲームコントロールというかなんというかとにかく俺にないものがあって同じサッカーをする俺としては一部尊敬すらしている。
後こいつに足りないのは身長だけだと勝手に思ったりする。
実際俺の方がこいつより10cmは背が高い。
顔は悪くないのだからあと10cm背が伸びればおそらくいろんな意味で俺のライバルになっていたかもしれない。
こいつの背の低さに救われたと時々俺は勝ち誇っているが内心ホッとする時がある。
「今日すげー調子よかったじゃん。何かあったか?」
「別に何もねえよ。まあ7点も獲ったのは久々だけどな。」
「この調子だと今年は全国期待できるんじゃね?頼りにしてるぜ。」
「ああ。点を獲るのがフォワードの役目だしな。お前もいいアシスト頼むぜ。」
「わかってるって。それにしてもいい仕上がりじゃん。俺はまたお前に新しい彼女が出来たんじゃねーかって思ったりしてさ。」
「ちげーよ。去年の雪辱を晴らすため必死なだけだっつーの。」
さすがは相棒。勘が鋭い。
正確には新しい彼女が出来たのではなくこれから出来るのだがこいつに知れると色々と面倒なので上手く誤魔化した。
「そうか。まあお前がその調子を維持してくれてたらいいんだけどな。」
俺と長峰はそんな何気ない話をしながら商店街まで歩いてきた。
商店街には普段と変わらず複数の女子高生がクレープを食べたり、プリクラを撮ったり彼氏の愚痴をこぼしたりうさぎの着ぐるみにドロップキックを浴びせたりとそれぞれの時間を過ごしている。
俺と長峰はお互いに何気ない話を交わしながらもすれ違う女子高生達を目で追いながら商店街を抜ける。
商店街を出たところで俺たちは「じゃあな。」と別れた。
いつもの通い慣れた遊歩道を歩き、やがていつもの土手へと差し掛かる。
すっかり日の沈んだ川面には人工的な光がいくつも反射し、キラキラと輝いている。あの光っている部分を探せば宝が出てくるんじゃないかとくだらない想像をしてみたりするがどこかで期待してる自分もいるのだから面白い。
まあ俺は川面を探さずとも橋の下にとっておきのお宝がいるわけだがと土手を歩きながら妄想の続きを始めた。
土手の下では昨日と同様にスケボーを楽しんでいる奴らやバドミントンをしているカップルらしき男女や三毛猫にお手を教えているおっさんがいる。
それらを通り過ぎながらも確実に橋に近づいていくうちに変にドキドキしてきた。
確かに昨日見た彼女は可愛かった。
だがいざ恋愛対象としてはどうかと尋ねられたら正直わからない。
だが抱きたいかと言われたら即答で「イエス!」だ。
俺の女好きにも困ったものだと我ながら自分に感謝した。
俺のエロレーダーに微かな反応あり。
名も知らない小さな橋が見えてきた。
街灯と車のライトでシルエットしか見えないが確実にいつもの通い慣れた通学路の一部であり、今の俺にとっては特別な場所でもある。
レーダーの反応が強くなってきた。橋までの距離およそ15m。
一瞬裸の彼女を想像する。
橋までの距離およそ10m。
俺も裸になり彼女と抱き合い唇を交わす。
橋までの距離およそ5m。
いよいよレーダーの反応が強烈になってきた。橋の下に目を向ける。
そこに彼女がいた。
まるでさっきの俺の妄想が見透かされていたみたいに恥ずかしそうな瞳をこちらに向けながら橋の柱の陰に隠れている。
やはり可愛い。髪は肩にかかるくらいの長さで綺麗な黒だ。
俺はこれだけ美しい黒を見たこたが無い。
その黒髪を引き立たせるように肌は真っ白だ。
まるでこの世の汚れを知らないみたいな気がした。
彼女との距離はすでに2m程だがその間にエロレーダーは彼女の様々な情報を俺に伝えた。
俺はその場に立ち止まる。暫く沈黙の時間が流れる。
彼女と俺の間を先程の三毛猫がダッシュで通過した。
俺は「よし!」と訳のわからない決心をし一歩彼女の元へ踏み出そうとした時、彼女の方から早足で近づいてきた。
俺の前に彼女が立つ。恥ずかしがっているのか一瞬だけ俺の方を見ると視線を外した。
すごくいい香りが辺りを包む。
「あの・・・。これ読んで下さい。」
俺の方に真っ直ぐ伸びた細い腕の先には白い封筒を持つ白い手が見える。
俺は珍しく言葉に詰まりその白い小さな封筒を受け取った。
「あ、」
俺が言葉を出そうとした途端、彼女は俺の前で砂煙を上げる勢いで橋の方へ走り出していた。
「ちょっと待って!」俺は彼女を追いかけたがその距離は縮まるどころかむしろ離れていく。
俺は足には自信があって余裕で追いつけるだろうと思っていたのだが相手は本気で速い。
俺は既に自分の限界を超えエロパワーを出しての猛ダッシュだがそれを嘲笑うかのごとく彼女の細い二本の白い脚は俺を振り切り遥か前方へ消えていった。
俺はその場で肩で息をしながら座り込んだ。
「マジかよ。超速えーじゃねーか。」
陸上でもやっているのだろうか?いや間違いなく陸上部だろ?
足音を例えるなら俺がタタタタッで彼女はシュタタタタタタタタタタタタタタタタッという具合か。とにかく速い。
走る姿をしっかり確認できなかったがきっと指先は真っ直ぐ伸び左右の腕を素早くリズミカルに振り切り脚も地面に着いた瞬間に素早く上げ、絶対に捕まらないわよオホホホホ的な勝ち気な思いプラス恥ずかしいという乙女心パワーが見事に絡み合った結果あのような超人的なスピードになったのだろうと自分に言い聞かせた。
ようやく呼吸が整ってきたので立ち上ってズボンに着いた土を払いながら橋まで戻る。
自宅へ帰るために橋を渡りながら彼女から受け取った封筒を見た。
縦10cm、横15cm程の白い封筒で中央には“都築脩斗様”と少し丸みを帯びた可愛らしい字で書かれ、封筒右隅には小さなピンク色のクマのぬいぐるみのプリントが施されている。
いつしかエロモードが消え幾らか冷静になっていた俺はとりあえずその封筒を鞄の中に大事にしまい自宅へと歩き出した。
自分ちの部屋へ戻り本来なら床に寝そべりゴロゴロするのだが今日は姿勢を正して座り先程貰った白い封筒を手に取り丁寧に封を切る。
開けた瞬間彼女の香りが解放され俺の部屋全体を優しく包んだ。
その香りはレモンとマスカットをお互いの良い部分をちょうど良い比率で丁寧に混ぜ合わせたような甘い香りだ。
中には封筒と同じ白い紙が一枚二つ折りになって入っていてそれを丁寧に取り出し慎重に開くと少し丸みを帯びた字が規則正しく綺麗に並んでいた。
“都築脩斗様”
はじめまして(照)
えーとはじめましてでいいのかな?
この手紙を読んでるということは手紙を渡したということだし、渡したということは一度会ってて少なからず言葉を交わしている訳だしこの場合「はじめまして」という言葉が適切かどうかわからないけどはじめまして。
あー!はじめまして2回言っちゃった。文章だと4回使ってるう(汗)
このままだと話が進まなそうなので先に進めます。
一ヶ月程前から橋の柱の陰からこっそり貴方を見てました。
あ、橋の柱ってオヤジギャグとかじゃ無いですから(汗)
決して笑わせようとして貴方の気を惹こうとかそんなんじゃないですから(汗)
最初に貴方を見た時から胸の奥が凄く熱くてドキドキしてきてその場に立っていられなくなってきて訳わかんないけどクラクラしてきてそしたら顔が熱くなってきて。
別に体調が悪くなったとかそんなんじゃないですよ。誤解しないでくださいね。
もっと貴方を見ていたいと思ってそれからずっと橋の下で貴方が来るのを毎日待っていました。
私って変ですか?これってストーカーなんじゃないかとかそんなことも思ったけどそんなんじゃないですから(汗)
それで私のこの気持ちを伝えたくて手紙を書きました。
もっと近くで貴方を見ていたいです。
叶うなら手を繋いで歩いてみたいです。
きゃー!恥ずかしい!
お返事はいいですから明日も橋の下で待ってていいですか?
きゃー!質問しちゃったら返事が返ってくるじゃん!
本当にお返事はいいですから(汗)明日も橋の下で待っています。
PS、貴方を待っている間に川原で石飛ばしをしてたら昨日52回跳ねる記録を打ち出しました。
全ての文章を読み終え紙を折り封筒にしまった。
彼女が照れながらも必死に思いを伝えようとしているのが読んでるこちらにも伝わってくるがPSがあるために素直に嬉しいと思う気持ちより素直に凄いなの方が勝ってしまっている。
彼女の手紙を大事に机の引き出しにしまうと急に腹が減ってきたので夕食を食べる為部屋を出た。
放課後、女子達がワイワイはしゃぎながら校門を通過する。
程よい涼しさを含んだエロ風が彼女達のスカートを捲ろうとするがわずかに力及ばず足元を通過する。
その風の影響を受け俺の放ったシュートは少しカーブをかけながらゴールのサイドネットを揺らした。
本日5点目。調子がいい。
「すげーじゃん!その好調ぶりはまぐれじゃなさそうだな。」
長峰が駆け寄ってくる。
「ああ。今年は行こうぜ。全国によお。」
俺はクールに返す。
今日も彼女は橋の下で待っているはずだ。
何が何でも今日は抱いてやる。ペロペロしてやる。
俺の下半身からエロパワーが溢れ出てくるのがわかる。
天性のサッカーセンスとエロパワーが融合した時の俺は最強なのだ。
長峰から繰り出されたクロスを頭で合わせ本日もダブルハットトリックを達成し、試合終了のホイッスルが鳴る。
練習の紅白戦であっても俺のプレーを見た後輩達が尊敬の眼差しを向けてくるのがわかる。
だが今欲しいのは女のうっとりした瞳だ。てめーらじゃない。
練習が終わり、俺は顔を洗うため部室横にある水道の蛇口を捻りながら何気なく空を眺めた。
今日はいつもより早く終わったためまだ日は沈んでなく太陽が西に大きく傾き空一面がオレンジ色に染まっている。
そのオレンジを避けるように部室に戻って着替えを済ませて外へ出る。
オレンジは相変わらず俺に降り注いでくるが彼女は橋の下で待ってるからオレンジの雨宿りだななどと訳のわからない感傷に浸り俺を一時的に詩人に仕立てた。
後ろから追いかけてこないところをみると長峰は先に帰ったらしい。
俺は一人で校門を出て行き交う女に目もくれず真っ直ぐ橋へと急ぐ。
俺は妄想で彼女と10回以上している。
ベッドの上での彼女の抱き心地はこれまで体験したことのない快楽と安らぎを与えてくれるだろうと確信している。
いつもの土手に着いた時には空のオレンジが一層濃くなり、オレンジジュースの川は緩やかな流れを保ちながら川下へと流れている。
今日も土手下には何人か人がいたが俺の記憶には残らない。
急ぎたい気持ちを抑えながら出来るだけ自然な足取りを意識する。
橋がはっきり見える距離までくるといよいよドキドキしてきた。
橋の下に人影が見えない。柱に隠れているのか?
ひょとして今日はいないんじゃないかという不安が過ったがまだ期待の方が大きい。
橋の下には誰もいなかった。
俺は何気ない感じで柱の後ろやその周辺を探したが彼女の姿はなかった。
今日は部活が早く終わったからまだ来てないのかなと思った俺はその場に座り込んで彼女を待った。
どれぐらい時間が経っただろう。辺りはすっかり暗くなり、オレンジジュースの川は人工的な光を反射する闇に変わり、それでも緩やかな流れだけは変わらず俺の前を流れていく。
彼女を待つ間も妄想で5回抱いたが今日はもう来ないのかもしれないと思い立ち上がると土手を上り、橋へ徒歩を進めた。
別に今日会えなくても明日があるしな。楽しみは後に取っておこうとまさかのプラス思考を誰に見せるでもなく発揮しながら橋の中央まで歩いてきた時、
「待って!」
後ろから待ち望んでいた声。振り返ると彼女が俺に向かって走ってくる。
この前のような超人的な速さでなくいかにもか弱い女子らしい走り方とスピードだ。俺に追いついた彼女は紙袋を抱えたまま胸を押さえて呼吸を整えている。
彼女から発する香りはやはりレモンとマスカットをブレンドしたような甘い香りだ。
彼女の肩の上下運動が落ち着いてきたところで彼女の方から話しかけてきた。
「あの、昨日の手紙読んでくれましたか?」
「うん。丁寧に読ませてもらったよ。」
俺はクールの中にも最高の優しさを込めて彼女に伝える。
彼女の紙袋を持つ手に少し力が入ったのかクシャッと音をたてた。
優しい風が吹き彼女から発する甘い香りが再び俺を優しく包む。
俺は目を閉じその香りに酔いしれる。
しばらくの甘い空白の時間。
「あの、、、。」
彼女の声に我に返った俺は彼女を見つめる。
彼女の手には紙袋の変わりに刃渡30cm程のナイフが握られていた。
「貴方の魂下さい。」
「ごめんなさい。」
俺はそれだけ伝えると自宅へ向かって歩き出した。
橋を渡る間彼女の方を振り返らなかったが渡りきってから振り返るともう彼女の姿はなかった。
なぜかムラムラする気持ちもなくどこか清々しい気持ちさえあった。
その日の夕食はすごく旨かった。
高校生活最後の県大会はまさかの準々決勝敗退という結果に終わった。
スコアは3-0。俺は一点も獲れなかった。
それでもなぜか悔しいとか後悔とかはなかった。
俺は初めて100パーセントの力を出せたことの充実感を知った。
高校生活最後の夏休みが始まる前日俺はいつものように通学路の橋を渡って帰る。
薄いオレンジジュースに綿アメをまぶしたような空と雲。
穏やかな川の流れる音に混じり土手で遊ぶ子供の笑い声が聞こえてくる。
その時微かにレモンとマスカットをブレンドしたような香りがして橋の下の彼女を思い出す。
正直に言おう。俺はモテる。
俺の隣には同級生の美由がいる。新しい彼女でCカップだ。
俺はこれから彼女と家に帰り一発やるのだ。
ペロペロするのだ。その先のことはご想像にお任せします。
オレンジの空は全てをオレンジ色に変えるが俺だけをピンク色に染めた。
ピンク色の俺は美由に部屋の引き出しにしまってあった手紙を発見されぶっ飛ばされた。
ピンク色が真っ赤に変わった。
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