沼庄物語

夢幻一夜

第0話 承前

 それはもう、誰からもかえりみられることのない忘れ去られた空白の時代の事。

 中央大陸の東の果てに<沼の庄>と呼ばれる庄があった。

 そこは片田舎と呼ぶにも閑散とした集落であった。そんな集落の更に西の端に庄の名前の由来ともなった沼があった。名を〝神雷じんらい聖沼せいけい〟といった。

 その沼のほとりに今にも崩れてしまいそうな小さな小さな荒屋あばらやがあった。

 荒屋にはやっと七つを数えたか程度の少年の姿があった。

 少年の母は純潔の鬼だった。

 心の優しい鬼だった。

 少年は、そんな母が好きだった。

 母が愛した人間も好きだった。

 少年の母が同じ庄に住む人間に殺されるその日までは。

 それから少年は心を閉ざした。

 その日からたくさんの間太陽と月が沈んだり登ったりした。

 少年は成長した。

 少しずつ成長した。

 そして少年は少し大人になった。


 少し捻くれた少しだけ擦れて濁った少年になった。

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沼庄物語 夢幻一夜 @Mugen

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