嘘4
部屋に戻って、早速箱を開けてみる。飛鳥と俺のはまた個別の箱に入っていた、マトリョーシカかよ。
「多分、こっち飛鳥ちゃんのじゃないかな?」
「ありがとう。亜樹、着てみる?」
期待に満ちた目で俺を見るけど、戸惑ってしまう。飛鳥の期待には答えたいが、とても嫌な予感がする。
「飛鳥も着てくれるなら」
これなら悩むか嫌だとか言うと思ったのに、彼女は間髪入れずに。
「いいよ、亜樹の着た姿見たいもん」
頷くしかない……飛鳥に洗面所を譲り、俺は自分の部屋で着替える。
中身は白いスーツだった……ヤツのしそうなことだけど、これだけはしてほしくなかった。
「ふざけんのも大概にしろよ」
今すぐ電話してやりたい気持ちを押し込めて、飛鳥を待たせるわけにもいかないから仕方なく着る。
リビングに戻ると、明らかに先ほど買ってもらったワンピースと違うものを着ている彼女が立っていた。
「──飛鳥?」
声をかけると、振り返り照れた顔をした飛鳥……白いミニドレスに映える。
頭には小さなクラウン付きのヴェールを乗せていた、ヤツの考えが分かった。
分かったからこそ余計に腹が立ったけど、ヤツのお節介で飛鳥のこの姿が見えている。
「亜樹、素敵なプレゼントだね」
こぼれた涙があまりに綺麗で、彼女の唇にそっとキスをした。
「飛鳥ちゃん、折角だし写真取ろう」
「でも、髪とかお化粧とか適当だよ?」
慌てている彼女がいとおしくて、ギュッと抱き締めたら涙が溢れてきた。
バレないように手でそっと拭う──俺はもう泣いてはいけないから、泣く資格なんてない。
「部屋からカメラと三脚取ってくる」
名残惜しそうな彼女の眼を見なかったフリをして自室に行く。
二度と見ることの出来ない姿になるだろう。
カメラを探しながら、記憶を掘り起こしていた。見たことがある、絶対にこのスーツとあのドレスは見覚えがある……親父の写真なら明が知ってるかもな。
「とりあえず……三脚、三脚」
結局、見つからなかったので仕方なくテレビボードに乗せて撮ることにした。もしかすると、親父が持って行ったかもな……。
白い壁を背に撮るため飛鳥には椅子に座ってもらい、寄り添うように立った。
「どうせなら、写真館で撮ればよかったな」
一人言のように聞こえないように呟いたつもりだが、耳に届いていたようで返事がかえってきた。
「そんなことないよ。こういう写真っていいよ、家族写真」
ドキッとした、家族写真と言っていいのか?一緒に暮らしているから家族なのだろうか……彼女にとっての家族とは?
撮り終えたあと、すぐに着替えてパソコンに向かう。パソコンにカメラを繋ぎ、さらに携帯を繋げられる状態にした。
着替えるだけの俺と違い、飛鳥はメイクを落として少し遅れてリビングに戻ってきた。
「飛鳥ちゃんの携帯貸して?」
隣に来た彼女の携帯には、プランと揺れる1つのストラップ。
「飛鳥ちゃんそのストラッ──「携帯、何に使うの?」
飛鳥の言葉によってかき消された俺の疑問……昔、ヤツからもらったのに似ている。
「さっきの写真を携帯に入れようかと思ったけど、ダメ?」
返事は飛鳥のこの笑顔で分かる。とりあえず、画像を全て移動させた。さっきの写真は計画の内でもあるが、それ以外は全部俺の勝手な行動。
明に先ほどの写真を添付してメールを送った。
ストラップのことを飛鳥に聞こうかと思ったらパソコンが鳴った、メールを受け取ったのだろう。
“そのドレスとスーツは橘のものだ。詳しくは添付した写真見てくれたら分かるから。”
メールには三枚の写真が付いていた…開いてみたら若かりし頃の橘と誰かの写真だった。
一枚目は俺の着たスーツを着ている橘と飛鳥のドレスを着た女性。橘が幸せそうに笑っていた。
二枚目はその写真の裏だろう『3.14 玲音・花連』と記されていた、ホワイトデーか。
三枚目は女性が一人だけ立っていた。一枚目より幸せそうに微笑んでいた。
飛鳥に携帯を返して、次に自分の携帯を繋ぐ。
携帯の中身を確認した飛鳥がチョコンと横に座り聞いてくる。
「亜樹、写真いっぱい入ってるよ?」
「変なのないと思うけど、気に入らなかったら消しちゃっていいよ」
「消さないよ、凄く綺麗だもん。亜樹が撮ったの?」
カメラを持ち歩いて撮っていた風景とか植物、親父の受け売りで感性を研ぎ澄ましたくてやっていた。
追いかけることの出来る唯一のものだからかもしれない。
「撮ったのは俺だけど、親父に比べたら全然だよ」
「お父さんってカメラマンなの?」
頷いてリビングに置いている本棚に向かい一冊の本を手に持ち、飛鳥の元へ戻る。
親父は結構有名なカメラマンで、小さい頃からロケ地に連れていってもらっていた。思い出すだけでも、世界各地に行かせてもらっているな。
ファインダーを覗いてシャッターを切る、親父と同じ景色を見ている気がした。
「これが親父の写真集……この写真とか参考にしてる」
「素敵だなぁ、私も行ってみたいな」
写真を見ながら呟いたこの一言に、どれだけの思いが込められているか。
旅行なんて誰だって人生で一度はあるが、それが家族と行くかそうでないかは大きい気がする。
「いつか連れていくよ、必ず」
嘘じゃない……もしこれから何かしらあって、飛鳥と一緒に行けなくとも必ずヤツに連れていかせる。
黙って俯いていた飛鳥がやっと口を開いた。
「──そういう意味じゃないの。えっと……そんなつもりで言ったんじゃないの」
こと、わられた?それってどういうことなんだ?
呆気に取られていたら、苦笑しながら飛鳥は本を閉じた。
「ごめんね、私も自分で馬鹿なこと言ってるって分かるんだ。でも、いつか連れていってもらうんじゃなくて自分で見に行きたいなって」
「てっきり、断られたかと思ったよ。飛鳥ちゃんにとって新しい夢だな」
安堵のため息を漏らす辺り、自分が思っているよりかなり動揺してたんだな。
まるで、自分は必要ないと言われた気がした。ニュアンスとしては、自分の力で行きたいって意味だから全然違うのに……溺れているな。
「なんかそう考えると、より近いものに感じられる。」
分かっていたことじゃないか、彼女との違いなんて……俺の当たり前が当たり前じゃないことも。
夢を諦め続けてきた者と、夢を簡単に叶えてきた者はどちらの方が幸せなんだ?
初恋 @karikura
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