第二十六話・葉月の客将~ふふ、面白く、とても面白くなってきたようね~

 「葉月はづき」の客将、トヨは「神無月かんなづき」で起きた戦争の報告を受けた。客将ではあるものの、私は将軍と同じ、いやそれ以上の権限を持ち合わせている。その為、細かいデータまで貰う事が出来た。「葉月はづき」のお姫様は、能力があるものには寛大である。お陰で、私は好き勝手にやっても文句は言われない。

「あらら、負けちゃったのね」

 しかも大敗。タエガが居たにも関わらず、こんな結果になるとは思わなかった。少し、面白そうな事が起きたみたいだ。

 連絡が送られてきた。どうやら、そのタエガからである。

「トヨ!トヨトヨ!面白い事になってきたぜ!」

 タエガは私に飛びつく勢いで、画面上で飛び跳ねていた。実際この場に居たのなら飛びついていただろう。

「何があったのかしら?」

「すんげえ強い奴がいた!」

 端的で分かりやすい報告である。まあ、その方が良いのだけど。

「後、トヨの言った通り、『葉月はづき』のかぐやの妹を守ってやったぜ!褒めろ!」

「はいはい、頑張ったわね」

「やった!トヨに褒められた」

 タエガは組織内で一番私に懐いている。その感情を自らの原動力に変えているみたいなので、特別咎める事はない。だが、たまに少しだけ面倒な時もある。

「どんな子だった?」

「えっとな!白くて緑色で、ゴツゴツしてて、太刀振り回して、ブースターが生えてきて、腕が飛ぶんだぜ!」

 要約すると、量産機ではなく、「神無月かんなづき」の専用機である。しかも特殊な機能を付けている。

「あとな!全然悲鳴あげねえの!図太い神経してんだな」

 どうやらパイロットのメンタルも優れているようだ。

「あーあ、こんな事になるなら俺の機体持って来れば良かった!持って来たらこの戦争がすぐ終わるだろうと思ったから、ハンデ付けたのに…それが裏目に出たあ!」

「もう、自分で言い出したんでしょう。この戦争が終わるまで、そのカスタム機で我慢しなさい」

「はーい」

 会話しながら、今回の戦いのデータを組織に送る。きっとアエナならこのデータ上手く使ってくれるはず。

「トヨ、何してんの?」

「みんなに連絡」

「アエナもハジも来れば良かったのに。それにマレとカイも」

「アエナとハジはお留守番。マレとカイはお仕事。そう、決めたでしょう。文句ばかり言わない」

「ぶーぶー」

 そう言って、タエガがふて腐れる。組織の中では、タエガが一番子供っぽい。こういう事はよくある。まあ、マレの方が子供っぽいのかもしれない。いや、あれは子供の振りをしているだけか。精神年齢は私と同じくらいだ。

「なあ、トヨは次の戦い来れるんだろ?」

「ふふ、それは『葉月はづき』のお姫様の命令次第。でも、こんな大敗してしまったなら、私を出さずにはいられないかもね」

「おお!楽しみに待ってるぜ!」

 そう言ってタエガからの通信が切れる。入れ替わりで、新たな通信が入ってきた。どうやら今度は「葉月はづき」のお姫様のようだ。

「よお、トヨ。同性の私から見ても、相も変わらず美しいな。美しい過ぎて怖いくらいだ」

「ふふ、それは褒めているのかしら」

「褒めているさ。私が男性だったら口説いていただろう。まあ、残念ながら私もお前も女性だ。私には同性を想う趣味はないからそうはしないがな」

 私も同性に愛情を抱く人種ではない。アエナじゃないんだし。それでも、褒め言葉は素直に受け取っておこう。

「すまないが、お前の力を貸してはくれないか?どうやら敵は予想以上に強者のようだ。あの小娘といい、今回の指揮官といい、あそこは化け物の巣窟なのか?まあ、そんな訳でお前の力が必要だ。行ってくれか?」

「ふふ、その命令を待っていたくらいよ。行かせえ貰うわ」

 どうやら予想通りの展開になったようだ。ふふ、これでタエガも喜ぶわ。

「あ、そうそう。聞きたいことがあるのだけど」

「ん、なんだ?」

 タエガから送られてきたデータをお姫様に送る。

「この機体について知っている事があれば、教えて貰えない?機体自体でも、その中のパイロットでも」

「ふむ。これは、『神無月かんなづき』の専用機か。『神無月かんなづき』の専用機はさかきとその分家にしか与えられない。指揮を執っているのなら、こいつはさかき本家の人間だ。さかき本家は今、一人の男と、その子供二人しかいない。その中で、軍務を担当している者は、確か兄妹の兄の方…確かさかき 天鵞絨びろうどという名の者だったはずだ」

さかき 天鵞絨びろうど…」

 さかき サカキ さかき…

「ふふ、ふふふふふ、ふふふふふふふふふ」

 笑いが、止まらなかった。そういえば、「神無月かんなづき」の国主はさかきである。そっか、このパイロットさかきの人間か。

「どうした?」

「いえ、少し運命の様なものを感じただけですわ」

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十二かぐや 黒乃 猫介 @kurono-nekosuke

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