第10話 若葉からの誘い

「心君の所に付いてきてほしいの。お願い」


どこかでやっぱりなと感じる雪乃がいた。雪乃の所に柊也から連絡が来るように、若葉の所にも心から連絡がきているはずだ。乗り気ではない雪乃とは違い、心をべた褒めしていた若葉には連絡も多いだろう。

できる限り若葉の願いを聞いてあげたい雪乃だったが・・・聞けないお願いもある。


「若葉・・・ハマる前にやめておきな」


言っても無駄だと分かっているが、それでもつい口をついて出てしまう。


「ハマらないよ。ただ気分転換に遊びたいだけなの。最近男の人とも話してないし・・・心君と話すと少しだけ現実を忘れられるんだもん」


一人で子育てを頑張る若葉。そのストレスは子どもを産んだ事がない雪乃には理解できないが、相当なものだと思う。しかしだからと言って、ホストで発散するのは賛成できない。


「非現実的で楽しかった気持ちは分かるよ」


煌びやかな店内に、ちやほやしてくれるホスト達。自分がお姫様のように錯覚させてくれる場所だった。でもそれはお金を払っているからで、お金を払わない客に彼らは興味を示さないだろう。


「私も気分転換になったのは確かだしね。でも・・・私も若葉も絶対にハマらないとは言い切れないでしょう?世の中には絶対はないもの。楽しかったけれど、あの場所は怖い場所だと思う。だから若葉にも行ってほしくないかな」


電話の向こうで黙ってしまった若葉。後ろから聞こえる音がやけに大きく感じる。

それにしてもめんどくさい事になったなと思う。とりあえず若葉との電話を切ったら、何かあった時に自分だけでは対応が遅れてしまう可能性がある為、凛に連絡をする事だけは心に決める。

雪乃がそんな事を考えていれば、若葉が口を開いた。


「・・・・雪ちゃんの気持ちは分かった。でも私はハマらない自信があるから行ってくる」


雪乃が待ってと言うのを聞かず、若葉は電話を切った。その後何度も電話をかけ、メールも何通も送ったが、若葉から返信が来ることはなかった。

凛にもあの後すぐに連絡したが、凛からの連絡も若葉は全て無視したようで、二人にできるのは若葉はハマらない事を祈るのみだった。


だがその祈りは神様に届くことはなかった。

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秘密の花園はもう消えた 紗奈 @hachi-hachi-hachico

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