第9話 若葉からの電話

ホストに行った日から一週間が過ぎた。

まるで異世界に迷い込んだような、非日常のホストは楽しかったが、自分とは縁のないものだと忘れつつある。

柊也からは二日に一度の割合でくだらない連絡が来るが、雪乃が返す事はなかった。


「今日も晃君遅いのかな・・・」


陽も落ち、夕飯の支度も終えた雪乃は暇を持て余していた。

雪乃の夫の晃は基本的に忙しく、定時で帰ってくる事は滅多にない。世間一般の夕飯の時刻に帰ってこれれば、早く帰ってこれたねと喜べるくらいだ。


―プルル。

晃への不満が心に浮かび始めた時。

携帯の音にハッと我に返る。

帰ってくる時はいつも帰りますと電話をかけてくれる晃。今日は早く帰ってこれるのかな?と期待を込めかかってきた相手を見れば・・・。


「若葉。どうしたの?」


若葉とはよく電話をしているが、夕飯の時間に連絡が来る事は珍しかった。


「雪ちゃ~ん。何してるの?」


電話の向こうからはガヤガヤと音がしている為、外からかけているようだ。


「晃君の帰りを今か今かと待っているよ」

「バカップルか!!」


若葉から素早いつっこみが入る。結婚して何年か経つが、未だに新婚夫婦のように仲の良い雪乃夫婦。若葉はそんな二人をよくバカップルと呼んでいる。


「何か用だった?」


雪乃も慣れているので、特に気にせず話を続ける。


「バカップルはどうでも良かった。そうなの。雪ちゃんさぁ、暇なら出てこない?」


お互いに独身時代はいきなりのお誘いもあったが、若葉が透を産み、雪乃が晃と結婚してから珍しい誘いだった。雪乃はまだしも、若葉は一児の母である。そう簡単に夜は出てこれない。


「いきなりどうしたの?ってか透君は?」

「透はね、今日友達の家に泊まりに行く事になったの。それで私も暇になったから、いきなりだけど雪ちゃん遊べないかなと思って・・・・それにお願いがあるの」


透がいない理由は分かったが、最後のお願いが歯切れが悪く、何か嫌な予感を感じさせる。

そして嫌な予感と言うのは、総じて当たるのだ。


「晃君に聞かないと何とも言えないけれど・・・お願いって何?」


聞かなければ良かったと思うまで、あと少し。

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