第8話 初めてのホスト4

「選べって言われてもね・・・誰を選べばいいのか・・・」


雪乃は本気で悩んでいた。誰も選ばず帰ることもできるらしいが、せっかく来たのだからできれば誰か選んでくださいと内勤からも言われている為、雪乃もできるだけ選ぼうと頑張って考えていた。

若葉はさっきから「心君にする」と宣言しているので、悩むこともないだろう。

凛は凛でどうせならNo.1にすると言い、ヒカルを選ぶようだ。


「雪ちゃん悩みすぎ。そんな真剣にならずに、この人が一番話しやすかったって言う人を選べば良いんだよ」

「そうそう。別に選んだ人で人生決まるわけでもないんだから、軽い気持ちで選びなよ」


二人のそんな後押しもあり、雪乃は一人を選んだ。


「じゃぁ、話しやすかった柊也君にする」

「あぁ。雪ちゃんと飲み対決してた人ね。良いんじゃない?雪ちゃん楽しそうだったし」


凛も柊也とが一番楽しそうだったよと頷き、三人は選んだ相手を内勤に伝えた。

しばらくすると、心が最初にやってきた。


「若葉~。選んでくれてありがとうね。めっちゃ嬉しい!!!」


席に来た心は若葉を思いっきり抱きしめている。その時の若葉の顔を見てしまった雪乃は、危ういと感じた。

息子の透がいるから変な事にはならないと思いたいが、若葉は昔から好きになると一直線な所がある。それが良い方に向けば良いのだが、悪い方に向けば悪化の一途を辿る事を、今までの経験上雪乃はよく知っていた。


「心君を選ぶよ。心君が一番カッコいいもん」


ここに雪乃達がいることを忘れているのか、それとも見ないようにしているのか、二人の世界に入ってしまった若葉達。凛と目が合えば、苦笑いだ。きっと雪乃も同じような顔をしているのだろう。

凛と話そうと口を開きかければ、見計らったように今度は柊也がやってきた。


「雪ちゃん。選んでくれてありがとう。まさか雪ちゃんに選ばれるとは思ってなかったよ」


柊也は心と違い、席についても雪乃を抱きしめることはなく、程よい距離感で座ってくれる。


「柊也君が一番話しやすかったんです。楽しかったですしね」

「最高の褒め言葉だね。せっかく選んでもらったところで・・・連絡先聞いても良い?」


雪乃だって馬鹿じゃない。これが今後店に呼ぶときのためだと言うことは理解している。

だからこそ答えは決まっていた。


「今回は凜ちゃんにどうしてもって頼まれて来ただけなので、多分連絡先交換しても来ることはないと思います。なので、連絡先は交換するだけ無駄だと思いますよ?」


その答えは予想していたのか、言われて慣れているのか分からないが、柊也はそれでも良いと笑った。


「もしかしたら奇跡が起きるかもしれないでしょう。だから教えてよ」


一瞬晃の顔が頭をよぎったが、連絡先くらいなら良いかと結論付ける。


「わかりました。でも、あまり連絡は返せないと思いますよ」

「返ってこないのは慣れてるから大丈夫」


気付けばいつの間にか来たのか、ヒカルと凜も隣で連絡先を交換していた。若葉は聞くまでもなく、もっと前に交換しているだろう。


そんなこんなで三人揃ったと言う事でお見送りの時間になり、三人の初めてのホスト体験は幕を閉じた。

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