第7話 初めてのホスト3
先程まではサクラ一人で三人を対応していたのに、いきなり三人に増えた事には驚いたが、お店がさっきよりは空いているのを見て暇になったのねと納得する。
サクラの時と同じように自己紹介をし、No.1がヒカル、No.3が柊也(しゅうや)、そして若葉のお気に入りが心(こころ)だと分かった。
若葉はヒカル達には興味が全くないようで、心に話しかけている。若葉と心は一番遠くに座っていたのだが、そこは流石No.1。空気を読むのが上手く、さっと心と自分の場所を変わってくれた。
それに喜んだのは若葉だけではなく、凛もNo.1の話を聞くチャンスと、ヒカルに食いついている。
「若葉ちゃんは心狙いで、凛ちゃんはヒカルさんかぁ。雪ちゃんはどんな子がタイプなの?」
改めて話しかけてくれた柊也を見れば、ヒカルとまではいかなくても綺麗な顔立ちをしている事に気付く。この顔で口説かれれば、良い気分になるだろうなと初対面の雪乃でも思ってしまう。
「タイプ・・・優しい人でしょうか?」
タイプと言われ、すぐに思い浮かぶのは晃の顔。だがわざわざそれを柊也に伝える必要はない為、当たり障りのない答えを返す。
柊也も柊也で何かを感じ取ったのか、優しい人ねぇと呟いた。
「雪ちゃんさぁ、優しい人で誰か思い浮かぶ人がいたでしょう。優しい人って言う時、まるでその人が目の前にいるように笑ったからさ」
自分が笑っていた事に気付いてもいなかった雪乃は、驚き柊也に視線を移す。
「雪ちゃんみたいなタイプは珍しいからね。多分凛ちゃんか若葉ちゃんの付き添いかな?って始めから思ってたんだよね。まぁホストクラブなんて怖いイメージもあるだろうけど、せっかく来たんだし
楽しんでいきなよ」
ね?と笑顔を向けられれば、雪乃もつられて笑ってしまう。
「そうですね。せっかく来たんだし、お酒も飲んで楽しんでいきます」
「おっ?お酒いける口だね。飲め飲め!!」
煽られるままに雪乃が緑茶割りを一気飲みすれば、お返しにと柊也も一気飲みをし、二人の所だけは柊也が席を外れるまで飲み対決になっていた。
柊也達三人が席から離れると、雪乃達は報告会へと移る。
「雪ちゃんは人見知りだから心配したけど、飲んでたね」
「私も思った。雪乃が話すか心配だったけれど・・・安心したよ」
まるで子どもの入学式のような心境だったようだ。雪乃だってそれなりに生きているので、人とは関われるのだが、それとこれとは別物らしい。
「それより凛は情報収集できたの?」
とりあえず自分から話を逸らそうとすれば、凛が食いついてくれた。
「もちろんだよ!No.1に上り詰めるまでの事とか、お客様の中にはやっぱり主婦もいるとか、セレブな人の遊び方とか、個人特定されない程度に教えてくれて勉強になったよ」
「取材だとは言ったの?」
「お店の名前は載せないし、ホストとはみたいな記事を書くとは伝えたよ。酷い記事じゃなければ、宣伝にもなるしお店の名前出しても良いって言ってくれたけど、お店の宣伝になるような記事にはならないだろうからね・・・」
流石に主婦達が嵌るホストクラブではお店の宣伝になる所かマイナスイメージになりかねないと凛も判断したようで、ヒカルには言葉を濁したようだ。
「若葉はどうだったの?」
静かになった若葉を見れば、心からもらった名刺を見つめている。
柊也との飲み対決の最中にさり気なく観察した若葉の様子からは、かなり心を気に入っているようだったが・・・どこかでホストに本気で一目ぼれする事はないだろうと思っていた。
だが今目の前にいる若葉の姿は、恋する女そのものである。
不安が心を過る。
それは凛も同じだったようだ。
「若葉?まさか心君に本気で一目惚れしたとか言わないよね?」
若葉の肩がピクリと動いた。
「・・・・だってタイプなんだもん」
若葉から答えが返ってきた瞬間。
運悪く他のホストが雪乃達の席へとついた為、それ以上を聞く事はできなかったが、それから代わる代わる着いてくれたホストと何を話したかはあまり記憶にない。
そして全てのホストが着くと、内勤がやって来て誰が良かったかを聞かれた。ホストクラブでは送り指名と言うものがあり、選んだホストが最後店の外までお見送りしてくれるシステムらしい。
しばらくしたらまた聞きに来るから、それまでに誰にするか選んどいて下さいと言われ、雪乃はまた頭を悩ませることになる。
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