ありきたりな毎日

伊冬トウラ

ヒロインになりたいと願う女がいた

 カップからの湯気に浮かぶ君の面影。

 ありきたりな毎日が幸福だったなんて、いつだって失うまで気づかない。湯気の向こうにはいつだって君の笑顔があったのに、今は一人のブレイクタイム。


 恋をした。世界はバラ色、気分はヒロイン。

 だけど彼が求めていたのは、ありきたりな毎日に沈む無色の女……

 だから、恋をした。新しい恋をみつけた。ヒロインになる為に。


 花束に甘い言葉、シンプル・イズ・ベストが僕の流儀。

 だって大事なのは手口じゃなくて正しい獲物を選ぶことだから……そう、ありきたりな毎日に飽き飽きしてる女をね。


 目の奥が笑ってない男と自分大好き女。注文はコーヒーとハーブティー。でも、ありきたりな毎日にちょっとした波紋。

「お待たせ致しました」

 女がコーヒーで、男がハーブティー。ちょっと珍しいでしょ?


 どんな仕事かて長く続けとったら、ありきたりな毎日になってしまう。それが人の死と向き合う仕事やったとしてもな。

 勿論、死に引きずられとったら仕事にならん。せやけど、笑って、泣いて、生きること。彼女に人生があったことだけは忘れたらあかんのや。


 彼女の名前をニュースが告げた。

 彼女の口癖は「ヒロインになりたい」だった。

 彼女の願いは叶ったのかもしれない。ありきたりな毎日を捨てて、悲劇のヒロインになったのだから……


 カップからの湯気に浮かぶ彼女達の面影。

 ありきたりな毎日を彩るのは紅いハーブティーとささやかな殺人。次の獲物に出会うまで、今は一人のブレイクタイム。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ありきたりな毎日 伊冬トウラ @t_ifyou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ