その二。
「よくぞ聞いてくれました。
実は、あなたの『見えないものが見える
三郎は、本当は幽霊の頼み事など気持ち悪くて聞くのも嫌でした。
ところが三郎が断る前に、幽霊のアントニオは勝手に話を進めてしまいました。
「私は、ここから西へ半年の場所にあるポロットナルプ国に生まれました。
父はポロットナルプ国で一番のお金持ちの商人でした。
私は大人になると父の後を
「町から町へ商売をしながら旅する暮らしを十年ほど続けたある日、私は、この沼の近くを馬を連れて通りがかりました。
そのとき馬の背中には、商売をして
突然、木の
『やい、商人。
その連れている馬の背中に
男たちの中の一人が言いました。
『きっと値打ちの物に違いねぇ』
別の一人が言いました。
『素直に置いて行くんだな。さもないと切り殺すぞ』
また別の男が言いました。
私は、やつらは盗賊に違いないと思いました。
切り殺されるのは
世界中を
それに故郷のポロットナルプ国では、私が
そこで私は盗賊たちに言いました。
『ここに麻袋が
だから私と私の馬を通してください』
ほんとうは一袋でも盗賊にやるのは
『よかろう。袋を渡せ』
盗賊の一人が言いました。
私は一つだけ、麻袋を渡しました。
盗賊たちは袋を開けて中身を確かめました。
『通って良いぞ』
そう言って盗賊たちは左右に
私と麻袋を九つ
ちょうど盗賊たちの
『あっ、何をするのです。麻袋を一つだけ渡せば通してくれると言ったではありませんか』
私は叫びましたが、盗賊は刀で私の心臓をひと突きに貫いて、私はその場所に倒れてしまいました。
私は
「目を覚ますと、日はトップリと暮れて、辺りは真っ暗です。
起き上がった私は、自分の体が何だかフワフワとしている事に気づきました。
遠く空の上で風がゴオッと
ふと足元に視線を落とすと、胸を血で染めた男が倒れているではありませんか。
よく見ると、倒れている男は鏡の中で見慣れた顔をしていました。
つまり私なのです。私自身が、胸から血を流して足元に倒れているのです。
そこで理解しました。
自分はもう死んでしまったのだ。
立って私の死体を見下ろしている私は、体を離れた私の
私は
自分を
ふと見ると、遠くに明かりのようなものが見えます。
私は、その明かりを目指して、フラフラと森の奥へと入って行きました。
明かりの近くまで行くと、それは大きな岩のそばに
近くには胸を
すべての麻袋を隠し終えると、男たちは割れ目の前に石を積み上げて
そして、倒れている馬から刀で肉を切り取って
やがて良い加減に酔っぱらった三人の盗賊たちは、月明かりの下で焚き火の
盗賊たちはグルグル、グルグル、焚き火をまわりながら、ブンブン、ブンブン、刀を振り回して踊りました。
その様子を幽霊になった私は、遠くの木の陰からジッと見ているのでした。
どれくらいの時間が経った事でしょう。
遠く空の上で風がゴオッと
辺りは真っ暗闇になりました。
ただ、盗賊たちの
突然、雲の中から三本の輝く稲妻が飛び出したかと思うと、三人の男たちが振り上げた三本の刀の上に一直線に落ち、同時にバリバリッ、ドオンという大きな音が森じゅうに響き渡りました。
気が付くと、三人の盗賊は、
私は喜びました。
私を殺して金貨を奪った盗賊たちに天罰が下ったと思ったのです」
そこで幽霊のアントニオは話疲れたのか(幽霊も疲れるでしょうか。分かりません)、フウッと一つ、
三郎は言いました。
「天罰が下ったなら、盗賊たちが雷に打たれて死んでしまったのならば、それで良いじゃないか」
「いやいや。ところが、そうではなかったのです」
幽霊のアントニオは再び話し始めました。
「しばらくの間、雷に打たれて倒れた盗賊たちを私は木の後ろから
すると突然、三人の盗賊の額がパックリと割れて、ボンヤリと光る灰色のモヤモヤした煙のようなものが出てきたのです。
光る煙は
三人の盗賊の額から出てきた三匹の
三匹の
とてもとても
それからというもの、私は復讐したくても出来ず、天国へ行くことも出来ず、十年もの間、沼地をフラフラと
幽霊のアントニオは、ここで
「幽霊さん、幽霊さん」
三郎は、幽霊のアントニオに言いました。
「それで、一体、俺に何をしろというのだ。
幽霊でさえ怖がるような
「いえいえ、あなたは、
その証拠に、人間の目には見えないはずの私の姿が見えるではありませんか」
それを聞いて三郎は思いました。
(これは困ったことになったぞ。
このアントニオとか言う幽霊は、私を霊力のある仙人か何かのように思っているのだ。
それは誤解だ。飛んだ
また、こうも思いました。
(しかし、これで私がアントニオとかいう幽霊の頼みを断りでもしたら、きっと
ここは形だけでも協力するような
そこで、三郎は幽霊に言いました。
「とにかく『
その三匹の悪霊が居るという、森の中の大きな岩まで案内してくれ」
幽霊のアントニオは、右手をスッと上げると、森の奥の一点を指さしました。
なるほど、その指の先には、ボウッと小さな明かりが見えました。
三郎は、試しに今まで
森の奥の小さな明かりは消えてしまいました。
すぐ横に立っていたはずのアントニオも消えてしまいました。
もう一度、金の小指の
森の奥に、ボウッと小さな光が現れました。
幽霊のアントニオも現れました。
(すると、あの森の光も普通の人間には見えないものなのだな)
アントニオは、森の光の方へ音も立てずにスゥーッと歩き始めました。
あわてて三郎も後を追いました。
小さな光を目指して森の奥へ奥へと歩いて行くと、やがて広場のような木のない場所に行き当たりました。
真ん中に大きな岩がありました。
岩の根元には割れ目がありましたが、その割れ目は石を積んで
岩の前には、青白い
あれは本物の炎でしょうか。
それとも
チロチロと揺れる炎の
三郎と幽霊のアントニオは、森の木の
あの悪霊らが自分たちに気づいて追いかけて来やしないか思うと、三郎はハラハラ、ドキドキして生きた心地がしませんでした。
「分かった分かった、もう充分だ。
早くここから立ち去ろう」
三郎は悪霊らに気付かれぬよう小さな声で幽霊のアントニオに言いました。
三郎とアントニオは焚き火を離れ、森を出て元の沼地に引き返しました。
アントニオは幽霊ですから足音を立てませんが、三郎は苦労して静かに静かに歩きました。
「やっと、あの恐ろしい悪霊から離れることができた」
沼に
「さあ、これで、私の話が
あなたの持つ特別な
そして私の恨みを晴らしてください」
「さて、その事だが。
しばらく俺に時間をくれないか」
三郎が言うと、幽霊のアントニオは嫌な顔をしました。
「しばらくとは、いったい、どれ位でしょう」
「そうだな、せめて三日は
「
「そうだ、そうだ。
あれほどの恐ろしい相手が、しかも三匹だ。
さすがの私でも、準備が必要なのだ。
まず、最低でも三日だ」
「それほど言うのなら、仕方がない。
わかりました。三日間だけ待ちましょう。
良いですか、三日だけですよ。
三日後の夜、この沼のこの岸で会いましょう。
もしも三日たってもこの沼に来なかった場合は」
幽霊はギロリッと三郎を
「きっと、あなたに取り
この言葉を聞いて三郎は背筋がゾゾーッとする思いでした。
そして三郎は幽霊と別れ、自分の小屋へと帰ったのでした。
金の魚 青葉台旭 @aobadai_akira
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