第三回 日常と非日常
8/
「あぁ~ぬぉ~、ぶわぁっくわエルフめぇ~~~!!
どーしてもっと早く言ってくれなかったのよ。おかげで
ま、まぁ八つ当たりであることは重々わかっちゃいるんだけど。
……それにしても、今日の私は幸運だったと思う。
バケツ持って廊下に立たされる位で済んだんだから。
なにせ、あたしのクラスの担任はミリエル・ミエリエルなのだから。ふにゃふにゃと柔らかい笑みを浮かべながら、それでいて規則はきっちり守るべし、と言う人なのだ。
「これでぇ、ホームルームを終ります。じゃ・あ、号令をお願いしますねぇ」
頭の中であのふにゃふにゃエルフに文句をこのしていると、教室からシスター・ミリエルの声が聞こえてきた。
「起立・礼・着席。」
ん?今日の号令はミルなんだ。
「はぁ~い、それじゃあ白雪さん教室に入ってね」
ありがたい。
でも、両手がバケツでふさがってるし、勝手に下ろしたらまた何を言われるやら。
廊下と違って教室はほのかに涼しく過ごしやすいのに入れない!
バケツを早く置かせてほしい。
『微笑む悪魔』の異名は伊達じゃな…
「あらあらまあまあま♪またなのかしら?白雪ちゃん。これで今月に入ってから何度目の遅刻なのでしょう~? と・こ・ろ・で、今なんか失礼な事を思わなかったかしら?」
そうこうしているうちに、いきなりドアを開けてぬぅっと出て来た。
……。
こういう人なのだ。
正直、この人本当に人間なのだろうかと疑う時がある。
世の中には
もしかしたら……、シスター・ミリエルも……。
「やっぱり何か考えてるわよねー?白雪ちゃん、そんなに
読心術!?
「い…いえいえ、滅相もない!!」
「そうですかぁ?ま、いいということにしておきましょう。それじゃあ入ってください。あ、バケツはその辺に置いていいですよ~」
あ・あれ?んんん?
今日のシスター、なんか優しい!?
ま……まぁ、いいのか?
いいか。
いいや。
ヘタになにか思うと心読まれるし。
だから、極力普通の返事をする。
「はーい」と。
とりあえずは、これで追及の魔手からは逃れられる。
っていうか……
「もうすぐ授業が始まっ……ぐっぅ」
悪寒が背筋を駆け抜けた。ナ・なんだろう。今までの比じゃない。
「?どうかしましたか、白雪ちゃん?」
声が飛んでキコエル…意識が飛びかける。シスターの声がするけど、ちょっと答えられない。っていうか、視界が消えている。
足元も心なしかぐらぐらしているような気がする。
「あ、ああ、大丈夫ですよ。時々こうなるんです。ね?シロ、平気だよね?」
隣?から声が掛けられた。肩も掴まれてる…ような気がする。
…ミル?
「う、うん。もう大丈夫、大丈夫ですよ、シスター。」
助かった。正直一人じゃ立ってるのも辛いんだ。
「そう?それならいいんだけどねぇ、もしもダメっぽかったら遠慮せずに保健室に行きなさいね。シスター・アリアも心配していましたよ。その眼は特別製なんですからね?」
…うっ…バレてるし。
「わかりました。」
全然大丈夫そうに聞こえない自分の声がシスターにそう言った。
「それじゃあね。」
と言ってシスター・ミリエルは出て行った。
はぁ、心臓に悪い。
…そうこうしているうちに、ようやっと視界が開けてきた。
まだ所々白黒だけれど、見えないよりずっとマシだ。
ミルに肩を貸してもらいながら、ようやっと席に着くと、やはり今回は相当来ていたらしく、机にだらりと力なく倒れ込んだ。
…なんていうか、情けない。
「ンで、ホントに大丈夫なの?シロ顔色悪いよ。」
それで、さっきもフォローしてくれた親友の一人――ミルティ=クルスネルハ――ミルが声を掛けてくれた。正直、とても助かる。
「あんまり、よくないかも。見えはしなかったんだけど、なんか、凄くイヤな気配がして……
っていうか視界がブラックアウトしてたよ…びっくりだ」
「ビックリなのはこっちよ。心臓に悪いったらない! ま、でもそゆコト言えるくらいには回復したんだよね?」
「一応、ね」
「シスター、気付いてたんだね。っていうか、あの人も大概正体不明だけど…まさか気付いてるとはね。シスター・フェイリスは全く気が付かなかったのに。」
「あはははは、
周りにも喧騒が広がりつつある中(一限目を担当しているランティウス神父は授業開始のベルが鳴ってから15分位しないと教室に現われない)、あたしとミルが話していると、ミルの後ろからいきなり手がニゥっと現れて、わたしの肩を掴んだ。
「よっ、って、あれ?また青ざめてんのか?…またユーレイ視たとか?それとも気配か?んまぁ、どっちだっていいケド、大丈夫か?」
と、早口に
っていうか……
「ちょっとレーチ!もう少し静かにできないわけ!?10年近くもシロと一緒に居て具合が悪いかどうかもわかんないわけ?
あと女子の肩いきなり掴むとかセクハラで訴えられるよ!」
「えぇー、べつに俺たちの仲じゃんかよー。なぁ、シロ、ミルに虐められてるおれっちを助けてくれよぅ」
「んー、レーチもうちょっと声のトーン落してーあと重いから手をどけてー」
……ミルはいつも察しがいい。あたしの不調を見てすぐに気を回してくれる辺りさすがだと思う。あたしじゃ絶対にああは出来ない。そしてレーチは落ち込んだ気分を軽くしてくれる。…本人のノリが軽いだけという事は決してないので、友達っていいなぁと本当に痛感する。
けど…いくら察しが良くても今からする話は絶対に予測できまい。ていうか絶対呆れるはず。いや、怒りだすかな?
…レーチは一緒に楽しんでくれそうな気がするんだけど。
「はぁ、もう大丈夫だよ、ミル心配してくれてありがとっ。でね、ちょっと話したい事があるんだけど、いいかな。」
「ん、なにかね?」
「んん?どった?新しい飯屋でも見つけたか?」
……。
どれが誰の
「あんたバカじゃないの?このタイミングで、どこの誰が飯屋の話を持ち出すのよ!?」
「フン、ちっと言ってみただけじゃねぇか。」
「まぁいいわ。それで、なんなの?結構真剣な話なんでしょ。その眼とも関係のある話?」
ミルは本当に察しがいい。……まぁ今回は外れてるけど。
「えっと、ね。うん。たぶん関係のある話なんだと思う。今ね、あたしん家にね、エルフが来てるの」
「……」
「エルフってお前の家族の仇なんかじゃなかったか?」
「そう。…なんだけどねぇ。なんていうか『違う』のよね。ソイツってばちょっとこっちが申し訳なくなるほどに“いい人”なのよ。仇って感じには見えないんだわ。困った事に」
「けど白雪、ソイツって別にダークエルフなんかじゃないんでしょ?だったら仇でもなんでもないんじゃ……」
「ライトエルフとダークエルフのダンピール?なんだってさ。えっと、ハーフ?的な。しかもね、」
「しかも、なんだ?」
「“魔王の息子”なんだってさ。」
「「……」」
あ、やっぱり固まった。
「…ヲイヲイ。で?それで?ソイツ、お前に襲い掛かったりしなかったのか?まぁ、今ここで元気にしてるお前さんがいるんだから大丈夫だったんだろうとは思うが。念のために。」
最初に口火を切ったのはレーチだった。
さすが、万屋『
「うん、全っ然ナンにも無かったよ。昨日の様子と今朝の態度からみて、たぶんアイツは“魔王”と血が繫がってるだけの、そう、ただのお人好しだと思う。っていうかね、その繫がり自体断ちたがってたし。魔王を殺すのは私の仕事です、とか」
「んじゃなにか?そいつってば、自分の父親を憎んでたり怨んでたり祟ってたりするワケか?」
「そーゆー事になるんでしょうね。」
「……!?」
あ、ミルに復活兆しが見えてきた。
「………!あのですね、白雪さん?」
あ☆まずい。
ミルの気配がドス黒い紫色になった。
「あ…あの。ミ・ミル、さん?」
「……白雪さん?」
こ、怖い!ミルが半眼で睨みつけてきた。
「は、はいっ。」
「自分の家屋内にダークエルフを招き入れる事がどれだけ重い罪なのか、どのような刑罰を受けなければならないのかを、貴女は、昨日、
……。
「…ま、学んだような、そうでないような…。」
ていうか、昨日授業を受けた記憶が一つもない。
「ははは、そりゃ無理ってもんだぜ。だってこいつ俺と一緒に眠りこけてたもんよー」
「いばるなこのアホンダラ共!」
…とその時、丁度よくランティウス神父が教室に入ってきた。
「そ・それじゃあ話は昼休み時間にね。」
「ッ、運のいいヤツ。分かったよ。昼休み時間にね!」
こうして朝の一幕は幕引きとなった。
…っていうか友達に舌打ちとかするか!?
やれやれ。
あ、そーいえばレーチは?
…………。
二人に忘れられ、置いてけぼりにされ、いじけていた。
その事に気付いたのは昼休みになってからだった。
レーチ、いと哀れ也。
♢ ♢ ♢
一限目、国語。
二限目、数学。
三限目、生物。
四限目、歴史。
そして、昼休み。
……。
そう、昼休みだ。
昼休みになってしまったのだ。
「さぁ~て、包み隠さず話してもらいましょうか?シラユキさん♪」
わ…笑っている。
怖っ!
「…んで、なにから話せばいいの?」
「そうねぇ、まずは。ソレってどんなヤツなの?強そう?強暴そう?」
「情けない。」
「ん?」
「だから、情けないのよ。ダークエルフとは思えないくらいに優しくて、エルフとは思えないくらいに情けないの。」
「情けないって、どんな風に?」
「戦ってるよりも眠ってるほうが幸せって宣言してたわね。それに趣味は料理と裁縫と読書。魔法を使うことは出来るけど、疲れるからあんまり使いたくないんだとか。
魔力の概念自体が全然別ベクトルのところに位置しているから人間は魔法を使っても疲れないけど、エルフとかは生命力と精神力を糧に発動するからかなりダルイんだってさ。」
「……。ソイツって、ダークエルフの血族だとか言ってなかったかね、シラユキくん?」
「う、うん。エルフとダークエルフのハーフって言ったよ。だから魔法も使えるんだって。」
「あんた、そいつを殺したいとかって思わなかったの?仇の子供は、やっぱり仇みたいなものでしょ?」
「萎えた。あいつを、ていうか、あんな善良なヤツを殺したりしたら、あたしも“魔王”と同類に堕ちるような気がして、できない。それにね、ミルも本人を前にしたら殺すとか仇とかいう物騒なコト、考えられなくなるよ。きっと」
「そう。じゃあ今日の帰り、行ってもいい?」
「うん。…あいつ、家でなにやってんだろ」
「へぇー、
……。デリカシーという言葉を、
「「ダブル・パーンチッ」」
後ろから覗き込むようにして発言したレーティイは、哀れぶっ倒れて保健室に行く事になりましたとさ。自業自得じゃ。
そして、時間は流れて今は放課後。
え?なんで一気に時間を進めるのかって?
答えは簡単。
だって、授業風景を延々と聞きたくも、もとい読みたくもないでしょ?
「それで?家にいるのね、そのエルフ。」
「……」」
「ミル、お前なに考えてんだ?!誰か殺す用事でもあるのか?」
「ミル、家にいるエルフって剣よりエプロンの方が似合ってるようなヤツよ。」
……、そう。今目の前にいるミルの手には綺麗な漆塗りと思しき黒鞘に収まった 長さおよそ六尺二寸に及ぼうかというほどの大太刀が。
「そう、じゃあ必要ないわね。」
と言って道端の茂みに捨てた。
「いいのか、そんな所に捨てちまって。」
「別に平気よ?」
…。どうでもいいけど、あんな物をもって街中を歩くつもりだったのだろうか?末恐ろしい女だ。
9/
そんな感じで帰り道。
いつもいつもとはいかないけれど、結構三人で帰る事の多い私たちとしては普段通りだったのだけど、大通りから道に曲がる時にこの辺りではあまり見ないなにかの民族衣装みたいなのを着た女性に声を掛けられた。
「すまぬ、ここら辺で左耳にピアスをした女のような男のエルフを見なかったかの?儂の連れ合いなのだが、昨晩からどうも行方が知れんでな。何か知っていたら教えてくぬかの」
…。どうやら、
―――この人と出会ったのは校門を出てからすぐの所だった。最初は三人で「変なカッコした人がいるな」みたいなコトを言っていた。そうしたら、なんと向こうの方から近づいてきた。「「「お・怒られるっ」」」と三人でビクついていたら、このセリフだ。
…。
いや、口調は多少古い、というかおばあちゃんみたいな言葉遣いなんだけどとても丁寧な物腰でいい人だということがすぐにわかった。わかったんだけど、怖い。
とても怖いのだ。
なんでだろう?何でこんなに怖いんだろう?
横を見てみると、ミルも固まっていた。
レーチは、なぜか口元を愉しそうに歪めていた。
「んん?あ、ああ。すまんな。ちと殺気立っておったようじゃ。ちと威圧感を与えてしまったかの」
「ふん、べつに、どうってコトはなかったよ。ところで、あんたが探してるヤツってさ、コイツんちにいる奴じゃないかな?どうだ?シロ。」
……!レイティイの顔付きが真面目モードだった。
「う、うん。たぶん、ね。で、その人の名前って、リン=ウェリエースですか?」
「その通りよ。なるほどの、市井の民に匿われておったか。どうりで見つからんはずじゃ。で、今確実に主の家におるのかの?」
「たぶん、ですけど、いると思いますよ。…えっと、来ます?」
「ああ、じゃまさせて貰う。すぐに済むのでな、気にしないでくれ。」
「…はい。」
10/
「私は今、人生の儚さを痛感しています。」
『ならば逃げ出せばよかろう?』
「できると思います?」
『無理だな。』
「でしょう?それに、ですね。」
『それに?』
「目の前には出来かけのボルシチがグツグツと・・・。」
『お主、命と料理を天秤に掛けたらどちらに傾く?』
「釣り合いますね。料理は命を掛けるに値する代物です」
などとゆー、物騒なのか平和なのか、よく分からんよーな会話。いつもに比べれば、奇跡的なほどに平和な会話。
そもそも、事の起こりは今から数十分前になる。
一宿一飯の恩義だと言ってリンがスープを作ろうと具材を買いに行った時の事だった。
リン達はその時。後姿だけではあったのだけれど、見てしまったのだった。敵味方問わず“
「どうなるんでしょうねー、私たち」
『さあのう。気配だけは近付いてきているようだが』
「ですね。白雪さんと共に接近中です。どうやら御学友も二人ほど一緒のようですね。……あれ?リリアの気配が見当たらないんですが。どうしたんでしょうかね?」
『ふむ、散開して調べておるのではないかな。まぁどちらにしたところで……』
「『はぁ』」
神と半端者の若者は二人して大きな溜息を吐いた。
……。
と、終ってもいられないのが現実というモノなわけで。
「取り敢えず、極上のディナーでも作って土下座でもすれば許してもらえ……ると思いたいのですけど。まぁ、半殺しと泣き脅しくらいは覚悟しておかなければならないでしょうね。やれやれです」
『お主という奴は。……まぁ妥当といえば妥当か』
11/
「へぇ、じゃあ姫さんは惡魔をやっつけるプロなんですね。」
出会ってからから少ししか経っていないのだけれど、歩きながら話していて、 すっかり意気投合してしまった私達。
…というか、私達が一方的に尊敬の眼差しを贈っているだけだったりするのだけれど。
何でも、姫織さんこと姫さんは悪い惡魔をやっつけるお仕事をしているのだとか。驚いた事にリンも同じ組織……『狩人』に所属しているのだとか。
けど、けどそれって……。
「あの、シロの話を聞く限り、そのエルフの人。えっと、リンさん、でしたっけ?その人に同族殺しが出来るとは思えないんですけど。ホントにその人同族殺しなんかしてるんですか?」
そう、それは私も気になっていた。
そして、その問いを聞いて姫織さんは哀しそうに笑った。
「ああ、確かにのぅ。儂も最初は思ったよ。初め、リンが『狩人』の扉を叩いた時は、とてもではないがこやつに同属殺しなど出来るわけがないと、そう思ったし、そう感じたのぉ。懐かしい話じゃて。なによりも、風貌が風貌なだけに『狩人』内部でも孤立することは目に見えておったしのぅ。だが……いや、これは本人がいる場所で話すのがフェアというものだろう。家はまだ遠いのかい?」
哀しそうな表情はそのままに、姫織さんは言った。
家はもうすぐそこだった。
12/
……。
気配はもうどうしようもないくらいに近付いていた。
一歩、
二歩、
三歩、
終った。
「私は今までも結構な数の死線をくぐって来たのですけれど、ここまで身動きの取れない状態でのチェックメイトは初めてかもしれません」
『……、だが、死ぬわけではない。それどころか状況的には真逆だろう?』
「ええ。ありがたくもあり、恐ろしくもあるって感じです。」
『ふん。』
それきり、会話はなくなった。この世でこの二人が最も恐れているのは叢雲命姫織だが、それと同じくらいに尊敬もしているのだ。
13/
「そーいえばレーチ、アンタさっきっからずっと黙っているようだけど。どうかしたのかい?」
ん?そういえば、
「ん、ああ。いや、な。そのエルフ…リンっていったか。そいつ、すっげぇ可哀想な奴だなと思ってさ。
ミルの質問に答えるその貌は、学校や普段の生活の中では絶対に見せない本当の素顔だった。
「可哀相?」
「ああ。だってさ、そいつは自分を育ててくれた親を殺されて、尚且つ、ソイツ…その親の仇の子供だって、後ろ指を差され続けなきゃ行けないんだぜ。ただでさえ親殺されてショックだってのに。たぶん俺だったら耐えられない。ココロが折れちまうよ。自分だって憎くて憎くてしかたがない筈なのに、周りからはソイツの子供だって言われ続けるんだぜ。軽く悪夢だろうな。しかも、その悪夢は絶対に醒めないんだ。だとしたら最悪の気分だろうな、と思ってさ。想像するだけで吐き気がするよ」
レーチの言葉は、重かった。
あの時、あたしにいわれた言葉で、アイツは傷ついたのだろうか?少し、後悔した。
そして、私たちはその後終始無言のまま歩き続けた。
そして家に着いた。沈黙を払拭するかのように、玄関前に立って大きな声で叫んだんだ。
「たっだいまぁー!!
アンタにお客さんだよー。」
叫びながら、扉を開けた。
が、返事がなかった。
けれど、その代わりに良い匂いが漂ってきた。
「いい匂い!」
「旨そうな匂いだな。何か作ってんのか?」
「さあ?」
「あやつめ、こんな物で儂等を誤魔化すつりか。……だが、いい匂いをさせておるな」
と、口々に感想を洩らしていると、
「おかえりなさい」
ややあってあのエルフが出てきた。
……なんというか、目が死んでいた。
そして唐突に、物凄い勢いで、土下座した。
「えっと、申し訳ありませんでした!昨晩は何の連絡も入れず夜を明かし、あまつさえ夜が明けても帰らず、家事に没頭してしまいました事、本当に申し訳なく思います。どうか、どうかこの
そして、間違ってもダークエルフには見えない…魔王の息子にはもっと見えない、いや、高貴と言われるエルフすら見えないようなへりくだった言い方で平謝りした。
…っていうかこの体を折り曲げて額を床に付けるこの仕草はなんなのだろう?謝意だけは物凄く伝わってくるのだけれど。
「ほう、それで?主のことを許せと、そう言うのだな。
この儂に。」
どうやら、
で、隣をみて見ると、
「「どーなってんの?」」
声を揃えて聞いてくる。もちろん
「あたしだって知らない。」
のだった。
14/
そしてまた、時間は少しだけ飛んで、4人で夕食を食べている。
作ったのはリンだ。さっき財布とかが入ってる引き出しを見たら1
そして、その腕前は……
「う・旨い!!!」
レーチは数分前にそう言ったっきり顔も上げずに食べ続けていて、ミルも
「おいしい!」
と大絶賛した程だ。もちろん、あたしも同意見。
姫さんは、さもそれが当然とばかりに黙ってスープを
作った当人はといえば、姫さんに「根性叩き直してやる」と言われて三十分ほど外でなにやらやってきた後、「きゅう~~」という変な声を上げて倒れてしまっている。
というか眠っている。
あー見えて、実は結構神経が図太いのだろう。
15/
さて、なにやら和んでしまった感はあるが、ここは事情の一つも説明してやらねば不義理と言うものだろうのう。
どうせ、
「ふむ、さて、一段落吐いたところで本題に入るとするか。主、確か白雪殿であったか。
「え・ええ、
16/
「で、シロはどこらへんまで話してもらったんだい?」
ミルがリンに視線をやりながら聞いてきた。
だけど、基本的には学校で話したことくらいしか聞いてないんだよね。だから、姫さんに聞かせる意味も込めてもう一度説明しておこう。
「わたしが朝聞いたのはリンさんが“魔王”の息子で、
と。
…すると、ミルは目を向いてこちら睨んできた。
ホワイ? 何故? 何? どったの?
「し、シロ? あたし祝聖使いなんて初めて聞いたんだけど?」
「あぁ~…そーいえば言ってなかったような?」
「言ってないね」
「あー、ミル。それは今は別にいいよ。で、シロ。お前はどうしたいんだ?」
レーチの表情は読めなかった。
ただ、言葉通り、問いかけるような表情をしていた。
それを聞いていた姫さんは面映ゆそうに笑って
「ほう、滅多に自分の素性を話さぬ此奴が
―――リン、良いのか?」
起きだしたてきたリンさんに話を振った。
「ええ、その方になら話しても平気だと思われます。…その瞳を持つ彼女と彼女を友と呼ぶ彼女と彼にもまた、話しても平気だと思われます」
リンさんの口から了承の声が……眼の事、なんか普通にばれてるし。
「そうじゃのぅ、これから話すのはあくまでも此奴を
さて、それでは何から話そうか。此奴の素性は知っておるようなのでな。儂等の属しておる部隊『狩人』について説明しておこうか」
そう言って姫さんは腕を組み、
「ん?狩人……?『狩人』って、あの『狩人』ですか!?
だって…あの部隊って確か、惡魔関連の被害鎮圧を目的とした傭兵集団って習ったんですけど、惡魔の中でも毛嫌いされてるダークエルフの血縁者がそんなところの所属って…。っていうかリンさんそれで大丈夫苛だったんですか?」
ミルが驚いたよな、納得したような変な声で言った。
あ~…学校でそんなようなコトをやったような、やらなかったような?
…寝てたかも。
「そうだのぉ、確かにあまり大丈夫ではなかったな。いや、最初の頃の話だがね。毛嫌いされて、あからさまに避けられておったな。リンは同族殺しを…あまりしたがらぬからの。だが、そんな事ばかりも言っておれぬでな。リンはの、奴等の『戦う為の力』を殺すことで皆に認められようとしたんだよ。例えば魔法、例えば意思、例えば
一呼吸で、姫さんは言った。まるでわが子を誇るかのように。
「へぇ頑張ってんだな。内外全面敵だらけだってのに。それで?魔王の血縁とか言う事で危険視されて、あんたに監視されてんのか?」
レーチが氷のような瞳で姫さんを見据える。
「ほぅ、察しが良いのぅ。確かに儂は此奴を監視する為にそばにいる。だがな、これは此奴から頼んできた事であって、誰かにそうしろと言われてそうしているわけではない。『自分を完全に制御出来る自身がない』とな」
「へぇ~、けどダークエルフの力をたった一人で止められるんですか?」
前の二人とは打って変わって軽い声。うぅ~情けない。
「ふむ。良い質問じゃな。儂と、あともう一人いる。」
先ほどまでのシリアスな雰囲気から一変、姫さんがやたらニタニタした笑みを浮かべて言った。
「……あの、大将?言わなくてもいいことは言わなくてもいいんですからね?」
「此奴の女も儂と同じ任に就いておる。今は別行動をしているが、もう少しで合流できるはずじゃ」
「……女?」
「へぇ~、やるじゃん。」
「……『狩人』の人って、みんな惡魔を憎んでるんじゃ?」
「そうだのぉ。まぁ、此奴が惡魔かと問われれば、ある意味甚だ疑問ではあるのだがな」
「…まぁ確かに。けど、幸せでしょうね、その人。料理うまいし。」
と、言葉を終えて(リンさんが真っ赤になって
「リっン~~~~~~~~~」
頭の上から声が降ってきた。
声の頃は十代後半。良く言えばまだティーンエイジャーの色を失っていない、悪く言えば子供のような、そんな声色だった。
それが何もない空間から突然聞こえてきた。
「な・なに!?」
「ん?」
「んん??」
「はぁ、随分とタイミングがいいですね。
「……いや、別に。」
当然のように三人の一般人は疑問符を頭の上に浮かべ、うち二人はすぐに笑いだし、リンは諦めたように嘆息し、姫織は実に楽しそうな笑みを口元に浮かべている。
《『あ・あれれっ?実体化が?んん?「あぁ、この式のせいだ!「ほら直ったよ!「よっこら、せっぇっと!』》
断続的に声が振りまかれ、五人の頭上に人影が現れ始めた。
「え?なに、なんなの!?」
と、白雪がパニックを起こしかけた瞬間、
「『
という声と共に、年の頃は二十代前半に見える女性がいきなり食卓の脇、つまりはリンの真上に現れ、ガバリッ、と抱きつき抱き締め喜びを表現するためか、背中を震わせた。
「りぃ~~~~ん~~~~~~~~~。リンリンリンリンリ~ン」
喜びの声……というより咆哮に近い勢いでまくしたてて、空中から現れた彼女―――リリアーヌ=プリテンシアはリンの首筋に頬ずりをして、直後
「…で、あそこの彼女は誰かしら?」
と言って笑った。
Dark & Light Blues 夢幻一夜 @Mugen
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